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2009.02.23

BtoBマーケティングとネット広告の相性

出典:BPnetイベント(スキルアップコラム) / 庭山一郎

ネット広告を利用して、単にアクセス数を増やしても意味はありません。売上に貢献するためには、BtoB企業特有のマーケティングを理解することが大事なのです。

検索のメインチャネルはインターネットへ

「まるで自分の脳が世界中のデータベースに直結されたようだ、凄いよ!」まだインターネットの高速回線が高額だった10年前に、思い切って当時最高速の回線に切り替えた友人の第一声だ。今では日本中がこの感覚になっているはずだ。

その高速回線で人は「情報」を探す。これが「検索」だ。新聞でテレビ欄を見る行為は「検索」だし、書店で本を選ぶ時に目次を見るのも検索だ。昼食を食べる時にレストラン街で店の混み具合や「本日のランチ」を見ながら歩くのも「検索」だし、先に昼食に行った同僚に「おいしかった?」と聞くのも「検索」だ。

人は無意識に毎日無数の検索を繰り返している。その検索ツールとして、比較するものがないくらい便利な「インターネットの検索サイト」が出現したから、人々がここで「検索」をするようになったのだ。検索の方法が激変したと言っても良い。

「AIDMA」から「AISAS」へ

マーケティングの世界で、購買プロセスを表現する言葉として長い間使われてきたのが「アイドマ」(AIDMA)だ。「アテンション」(関心を向ける)、「インタレスト」(興味を持つ)、「デザイアー」(ほしくなる)、「メモリー」(記憶する)、「アクション」(行動を起こす)、の頭文字からなる言葉で購買に至る心理的なプロセスを表現してきた。

これが近年では「アイサス」(AISAS)という言葉に取って代わられている。「アテンション」(関心を向ける)、「インタレスト」(興味を持つ)、「サーチ」(検索する)、「アクション」(行動を起こす)、「シェア」(情報をシェアする)、の頭文字だ。人々の購買プロセスの中にはっきりと「サーチ」(検索)という行動が根付いてきた表れでもあり、企業がSEOやネット広告に大量に予算を投入する理由もここにある。

SEOでアクセスを増やしても?

上記の理由でSEO(検索エンジン最適化)は大流行だ。SEOだけに専門特化したSEOコンサルタントも出現し、ネット広告の規模は、ラジオを超えた。広告会社は、検索連動型と呼ばれる「リスティング広告」を多く扱うようになってきている。これはキーワードを購入することでそのキーワードで検索した人の検索結果の表示画面の広告エリアに検索結果そっくりの広告が掲載される、という手法だ。

「成功報酬型」で「ダイレクト」で、と革新的な手法ではあるのだが、BtoBマーケティングのプロセスという観点で見ると、昔の展示会を思い出してしまう。多くの企業が競うように大型ブースを出展し、着飾ったコンパニオンを並べ、派手なプロモーションビデオを流していた。
しかし今では、そのような企業は、ほとんど見られなくなっている。理由は単純だ。後工程である営業が案件創出や売り上げ作りの視点から見て、その派手なブースと売り上げが紐づいて見えなかったからだ。

同じことが今のSEOやリスティング広告に言えないだろうか。「アクセスが増えている」「PV(ページビュー)が上がった」とWebマスターは言うだろう。それは展示会のブースも同じだ。ブース来場者が増えた。アンケートが集まった。見た目で競合他社に負けていなかった。でも今、現実に各企業の展示会担当者が予算確保に苦労しているのは、それらのコストが営業案件にどう結びついているのか、をレポートできていないところにある。
SEOで向上したアクセスやページビューと営業案件や売り上げを紐づけて可視化できている企業があるだろうか。そういうレポートが書けているWebマスターはいるのだろうか。

米国のBtoBマーケティング事情

マーケティングとインターネット両方の先進国である米国を見てみると、BtoBの世界でも案件創出の手段としてリスティング広告が主流になっている。企業の広告予算の中に占めるネット広告予算やSEO対策費は年々増加の一途だ。媒体側もさまざまな検索機能をリリースし、それに伴って広告商品も多様化している。
米国のBtoBの場合、Googleなどのサーチエンジンで上位表示させてWebに呼び込み、そこでコンテンツを見せてから、「チャット」「ウェビナー」(Webセミナー)「ホワイトペーパー」(技術的な細部まで記述してある報告書でカタログなどより専門性が高い)のいずれかにナビゲートする。アクセスした人がそのいずれかのサービスを利用する時に登録画面が開き、ユーザー登録をする。展示会よりもさらに見込み度の高いリード(見込み客)情報をオンラインだけで獲得できるのだ。

日本のBtoBマーケティングでもネット広告やSEOが米国のように主流になるのだろうか。私は難しいと考えている。その理由は、この国にはアクセスさせた後に阻害要因が多いからだ。

米国のマーケティング手法は通用しない

日本特有の阻害要因とは、アクセスした後に個人情報を登録してくれる率が他の国と比較して非常に低い点と、登録率を上げる効果的な改善策が見当たらない点だ。
まず日本のビジネスパーソンは、チャットはしない。これはカルチャーの差でもある。漢字変換が必要な日本語でチャットをするのは正直骨が折れる。親しい仲ならまだ省略した言葉を使えるが、会ったこともない人とチャットをすることは少なくともBtoBでは当分ないのではないかと思う。

ウェビナー(Webセミナー)も日本で普及するかは難しいところだ。「YouTube」などの動画投稿サイトのお陰でBtoCでは今後重要なビジネスツールになっていくだろうが、BtoBでは話は別だ。その理由は日本と欧米のオフィスの違いにある。
個室や高いパーテーションで仕切られたプライベート重視の欧米のオフィスなら、PCから音を出したり、イヤホンをして仕事をすることもできる。日本のオフィスは基本的に大部屋だ。そこでPCから音が出せるだろうか。イヤホンをして仕事ができるだろうか。さらに言えば社内ネットワークで音声や動画へのアクセスを禁じていたり、動画再生ができないスペックのPCで仕事をさせている企業も多い。こうしたビジネスカルチャーはそう簡単には変わらない。

最後のホワイトペーパーはどうだろう。実は日本の外資系企業のマーケティング担当者を最も苦しめているのがこのホワイトペーパーだ。外資系企業の多くはホワイトペーパーのダウンロード数をベンチマークにしているが、世界中で日本法人は際立ってダウンロード数が少ないと言われている。
日本法人のマーケティング担当者が悪いのではない。日本人はテキストが嫌いなのだ。医師などの論文を読み慣れている特殊なターゲットを除けば、多くの日本人はホワイトペーパーを読まない。ところが、欧米の本社の人間にはそれは分からない。だから「日本のマーケティングは何をやっているのだ」とカリカリしているのだ。

ページビューではなく「営業案件の創出」を!

アクセスやページビューを増やすことを目的と考えれば、リスティング広告などのネット広告は日本でも十分に有効だ。問題は次のプロセスへの「繋ぎ」にある。そこを改善しないと「ページビューが増えました」「それで?」という冷たい他部署の反応に苦しむことになる。ページビューだけ上げてもダメなのだ。
マーケティング部門が求められているのは「営業案件の創出」で、これは欧米も日本もまったく変わらない。そこを基点に、日本独自の方法を考えて実行しないと決して売り上げには貢献できないだろう。

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