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2011.07.25

めまぐるしい変化を遂げる広告業界。進化するためのヒントとは?

text:Shunsuke Ueno

広告業界の熾烈な競争は、米国でも日本でも一緒。今後、この業界はどのような変化を遂げるのでしょうか。業界の図式と昨今の流れを追いながら、Ueno氏の見解を交えて紹介します。

私は大抵の仕事を広告代理店からいただいています。
仕事をいただいている本人が言うのもなんですが、この広告代理店というのも面白い業種です。

日本では一つの広告代理店が一企業のマーケティング広告全般を一手に行うことも多いようですが、米国式では普通そうではありません。

米国型では、企業は複数の広告代理店と各分野別に契約します。ウェブ、モバイル、テレビ、ラジオ、紙媒体、イベント、その他諸々のそれぞれの媒体に対して広告代理店が雇われます。クリエイティブエージェンシーとして、一つの広告代理店が一手にアイデアを作る事はありますが、その後の広告メディアは別の広告代理店が担当します。

各メディアチャンネルが長い時間をかけて各々個別に発展してきた歴史を考えれば、それぞれの専門業者がいるのは不思議でありません。また、米国は基本的に競争社会ですので、大小数多くの広告代理店が狭い枠を奪い合います。広告主の指定広告代理店のことをAgency of Record(AOR)と言います。媒体別にメディア・バイイングを特定の広告代理店に一本化させることで、効率化を図ります。費用は全てこのAORに支払われます。そのため、このAOR枠の広告代理店間の動きは大きく報道されます。

広告代理店は基本的に、広告宣伝を行う際の費用からマージンを取ることで利益を出します。広告費が大きければ大きい程広告代理店は利益が出るので、AORであればその広告主から引き出せる最大額の利益を獲得したとも言えます。逆に、AORでなくなってしまうと、そのAOR内の部門全体が解体されてしまうので、会社としても働く社員にとっても、まさに死活問題。

また、AORによっては、広告主から要求される全てのプログラムやキャンペーンが自社でできる訳でもないので、その場合は下請け会社に仕事がまわります。その仕事の獲得競争も、やはり熾烈なものです。
ただ、この激しい競争で新しい手法や分野が生み出され、業界全体の活性化に繋がります。また、特定の広告代理店による独占がなくなるため、価格競争の防止にもなります。

しかし、ここ10年程インターネットの普及により、この図式が崩れたような気がします。今まではテレビならテレビの、印刷物なら印刷の予算の取り合いをして広告を出し、顧客を店舗などに誘導してきました。ところが、インターネットは各メディアの特性も兼ね備え、インターネット自体で販売ができるので、むしろ各メディアから顧客をインターネットに誘導する事すらはじめました。さらにモバイルが入ってきたことで、イベントや屋外広告、店舗広告さえもインターネットと融合しはじめました。

このような状態でメディアチャンネル毎に各広告代理店同士で予算の取り合い、競争を激しく行うことは効率がよいとは言えません。バラバラの広告では企業やブランドにとっては相乗効果をまるで無視したマーケティングを行うことになり、消費者から見れば、ちぐはぐなメッセージが発信されていることになります。
米国式の広告代理店と言うのはその名前通り、広告専門会社です。もちろん頼まれればマーケティングサービスもしますし、そこで私も仕事をいただいています。しかし、広告代理店の利益は広告費用からのマージンによりますので、広告が出れば出る程よく、広告を提案しているときは決して企業のマーケティング的利益を考えている訳ではないのです。当然長期的にみれば企業の利益率が下がる訳ですから、広告代理店は自分の業界の首を絞めているため、非常に厳しい状況にありますが、あまり危機感がないように感じます。米国式の広告代理店は進化ができないのかもしれません。

その点では逆に、日本型の広告代理店の明らかな長所だと思います。メディア毎の争いがなく(もしくは少なく)、全チャンネルを一社で担当しますから、マーケティングを総体的に提案することができます。やはり広告代理店も自社の利益が最優先事項ですから、企業の担当者はちゃんと自社のビジョンを持つことが必要ですが、米国の業界特性と比較すると、とてもラッキーな状況にあると言えるでしょう。

ノヤンのつぶやき

ノヤン 3rdAveの広告代理店の様子が目に浮かぶレポートじゃな。マーケティングも、広告も米国では専門特化していて、全体を網羅した戦略の提案というよりも、非常に専門的な機能を提供する企業が多いんじゃよ。
その理由は、企業内にプロがいるからだとワシは考えておるんじゃ。広告にしても、マーケティングにしても、社内のプロが戦略をキチンとプランニングできるから、分離発注しても、ちゃんとコントロールできるような気がするんじゃ。その意味では、日本のように大手の広告代理店がドカンと全部取るやり方は、ユーザー、つまり企業内にノウハウが溜まらないので、プロフェッショナルを育成しにくいという問題が残るの。

これからの日本のビジネスマンに求められるスキルが、本物のプロフェッショナリズムだとすれば米国のやり方の方が良いかもしれんの。

Shunsuke Ueno プロフィール
単身アメリカに渡り、20年間インターネット、モバイルなど常に時代の先頭にたったマーケティング活動を行う。マイクロソフト社、インテル社、Verizon社など、大手企業のモバイルマーケティング戦略を手掛ける。現在はフリーランスとして活躍中。