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2011.10.24

iPadが実現した「世代交代」

text:Shunsuke Ueno

タブレット端末の普及が目覚しい中、新しいコンセプトで圧倒的な存在感を誇るiPad。 世代交代を実現した理由を実事例をもとに解説します。

英語にゲームチェンジャー(Game Changer)という言葉があります。元はスポーツ用語で試合の流れを変えてしまう選手の事でしたが、今までになかった新しい製品などが既存の状況を変えてしまう事をさします。前回タブレットはコンセプトの世代交代であろうかと書きましたが、他のタブレット社の皆様には悪いのですが、はっきり言ってこれはiPadについてのみ言えると私は考えます。iPadはまさにゲームチェンジャーで、見事に今まで存在していた原則やコンセプトをいくつも覆しました。

タブレット自体は5〜10年程前からいろいろと出たり消えたりしていますが、いままでのいわゆるタブレットPCと言われる製品は「キーボードが無いタッチスクリーン式のラップトップ(ハードウエア)」がコンセプトでした。よってソフトウエア制作側もいかにしてPC環境をタッチスクリーンでも利用できるようにするかを追求してきたように見えます。つまり、“既成の顧客の為の既製の製品を既存の利用方法のまま”タッチスクリーン化した(しようとした)のが今までのタブレットでした。そのような商品路線を取る事によりある程度の売り上げは確保されていますし、ひょっとしたら自社製品の次世代に繋がるかもしれないので、結局は新製品というより既製品のバージョンアップをしたと言った方が近く、堅実な方法をとってきた気がします。

その点iPadは利用方法を固定させないような努力がなされているように見えます。例えばアップル社がFlash導入を拒否したのは有名な話ですが、これはまさに利用方法を固定化させず、全く新しい形状の物を全く白紙のまま送り出す事により、今までに無かった客層を取り込める可能性を出す為であると考えられます。Flashが使えたら、ソフトウエア制作側は「iPadで何が出来るか」ではなく「Flashで何が出来るか」を考えていたでしょう。もちろんそのままハードを販売したのでは白紙以下ですが、ここがアップル社の怖いところで、クリエイティブな発想をすぐに製品化・販売・料金の受け渡しを全世界で安全に行うことを可能にするシステムを作ってしまいました。新ハードウエア製品を新コンセプトで、というのはたまにはある事ですが、そのハード+ソフト+コンテンツ+課金の総連結による商品コンセプトの形態自体の進化が、非常に興味深いところだと思います。

さらに、iPadによるコンセプトの世代交代を表している例として、移動を伴う仕事、特に「現場」のある職業への普及があります。例えば医療や建設関連などが良い例で、簡単に持ち運べてすぐに欲しい情報が大きな画面で閲覧できる事は業務効率の大きな改善になるようです。

今年始めの調査によりますと、アメリカの医師の間でiPad普及率は20%、6ヶ月以内に購入予定は38%となっていますので、この記事が公開される時点ではおそらくiPadの普及率はすでに半数を大きく超えていることでしょう。世界有数の製薬会社であるファイザーでは医療従事者向けの情報を全てモバイル環境に対応させるプロジェクトが進行中です。またファイザーに限らず、各製薬会社は数々の医療関係者向けにiPadアプリを発表しています。

例えば最近多く見られる薬の服用量計算用アプリは、医師が手で計算する時間をなくし、同時に手計算から起きうる計算間違いのリスクをなくします。また薬剤師にその情報を渡す際、電子データにすることでプリントする手間が減りますし、手書きによる読み書きの間違いがなくなることで安全性が増し、患者にも大きな利益があります。さらに医療保険各社にとっても人的ミスが無いという事は最も効果のある処方がされるという事ですので、結果的にそのようなアプリを作った製薬会社の製品は競合製品よりも使われる確率が高くなります。当然ながらこのようなアプリは製薬会社の営業社員にとっては医師に対して営業を行う道具ですから、彼ら営業社員の間でのiPadの普及率はほとんど100%と言えるほど流行っています。また、業種を問わず、営業で全米を飛び回る人たちを見る限りiPadの普及率は驚異的です。大スクリーンにパワーポイントを投影する会議型の営業もありますが、普通は担当者に応接室などで直接会って紙やパソコンの画面を見せ合うことがほとんどですので、「ちょっとこれ見てよ」と手渡せて、遊んでもらえるiPadは営業の強い味方だと考えます。お客さんに「自分のiPadにもこのアプリ/プレゼンが欲しい」と言われれば最高ですね。iPadごと進呈できるようにしておく会社もあるようです。

つい先月のニュースですが、アラスカ航空と他数社が機内に持ち込む数十キロの書類の束をiPadにまとめなおしてパイロット全員に一人一台iPadを配布したそうです。
医療でも、建築でも、プレゼンでも、紙の媒体が担ってきた「いつでもどこでも閲覧可能」というメディアが、iPadの登場で「いつでもどこでも閲覧可能でインターアクティブ」に進化し始めた気がします。

上記ニュース内でパイロットが、「iPadを使えば欲しい情報がすぐに見つかる。コクピットで状況判断が必要なときに、紙束をめくる3分も4分もの時間は永遠にも近い」と話したコメントが、iPadの行っているユーザー側からのコンセプトの世代交代を見事に表していると思います。

ノヤンのつぶやき

ノヤン

Appleはスティーブ・ジョブズの考えもあって、徹底的にBtoC向けの製品を作ってきたんじゃが、iPhoneとiPadは、BtoB向けのキラープロダクツになるかも知れんの。
実際にこれを採用して業務改革を行っている事例が本当に増えているからの。
楽しみじゃわい。

Shunsuke Ueno プロフィール
単身アメリカに渡り、20年間インターネット、モバイルなど常に時代の先頭にたったマーケティング活動を行う。マイクロソフト社、インテル社、Verizon社など、大手企業のモバイルマーケティング戦略を手掛ける。現在はフリーランスとして活躍中。