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2018.08.06

「闘志」は最も頼りになる経営資源

text:シンフォニーマーケティング代表取締役 庭山一郎

「闘志」や「責任感」を時代錯誤の精神論だと考える人は多く、それは古き良き昭和の時代で、現代はそんなものに頼らずに、ロジカルにテクノロジーで戦う時代と言われています。でも私はビジネスや戦争において、「闘志」は時にもっとも強力な経営資源になり得ると考えています。

ノヤン先生は前回のマーケティング講座で「奇襲と強襲」を語りましたが、戦いにおけるもうひとつの重要な要素に「闘志」があります。これを「時代遅れの精神論」と片付けるのは簡単ですが、戦争でもビジネスでも、「闘志」を資源に勝利を収めた例はいくらでもあります。10年前、孫正義氏が率いるソフトバンクの快進撃を見て、「財務的には破綻している」「あの借入金で会社が持つはずがない」と言う人が多くいましたが、同社の経営資源の中の「闘志」を評価から外して眺めれば、確かにそう見えるのだと思いました。

さらに言えば、時に「闘志」は「奇襲」を超えるほどの戦果を上げることもあるのです。そのひとつを紹介しましょう。

1798年に行われた「ナイルの海戦」と呼ばれる戦いです。
当時まだフランス軍のイタリア方面軍の司令官だったナポレオンは、宿敵英国とその最重要な植民地であるインドとの交易路を押さえる目的で地中海を渡ってエジプトに上陸します。ナポレオンの軍団を運んだフランス艦隊はナイル川の河口であるアブキール湾で待機していました。彼らは英国の英雄ネルソン提督率いる英国艦隊がフランス艦隊を追跡して地中海を彷徨っていることを承知していたので、湾内で磐石の迎撃陣形を取りました。
アブキール湾の最も深いところに陸地と平行して戦艦を並べ、海側の砲門を開き、さらに船と船を鎖で繋ぐという当時としては完璧な防御体制を敷いたのです。フランス艦隊と英国艦隊の戦力はほぼ互角で、フランス艦隊の旗艦は当時最強と言われた巨艦「ロリアン」でした。

ネルソン率いる英国艦隊がアブキール湾の沖合いに現れたのは日が暮れる頃になってからのこと。万全な防御体制と陸上要塞からの援護砲撃を考えれば、夕刻に英国艦隊が湾内に攻めかかってくることは考えられません。明日以降にフランス艦隊を湾外に誘い出す攻防が始まる、フランス艦隊の誰もがそう考えていました。
しかしネルソンは湾内奥深くに整列するフランス艦隊を発見するや、躊躇せずに攻撃命令を下します。そしてフランス艦隊と陸の間のわずかな浅瀬から艦隊の半分を陸側に割り込ませたのです。まさか座礁のリスクを冒して艦隊の陸側に敵が入り込むことを予想していなかったフランス艦隊は陸側の砲門は閉じたままでした。陸上要塞も、英国戦艦を狙えば味方を撃ってしまうので砲撃できませんでした。こうして陸側の至近距離から猛烈な砲撃を受けたフランス艦隊は鎖を切って湾外に脱出した数隻の小型船を残して全滅し、以後の地中海の制海権は英国が握ることになりました。ナポレオンは以後しばらくの間欧州に戻る術が無く、エジプトで孤立することになるのです。
戦力が互角の強襲でこれ程の圧倒的な勝利はあまり例がありません。そしてこの勝利の要因はネルソンの頭抜けた「闘志」にあったと私は考えています。

ビジネスでも戦争でも、時に「闘志」はもっとも強力な経営資源になり得るのです。