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2004.12.27

ポイントカードシステム効果は上がっていますか?

出典:月刊「アイ・エム・プレス(I.M.press)」 / 庭山一郎

数年前からポイントカードシステムを導入した、A百貨店。「これこそロイヤル・カスタマーの顧客満足度を高め、浮気を防ぎ、客単価を引き上げる特効薬だ」と幻想をいだいているようだが・・・。

連載のはじめに

小売業がPOSシステムを応用してポイントカードシステムを始める、カーディーラーが営業担当者にノートパソコンを配ってSFAを導入する、ポイントを異業種と相乗りにして顧客の利便性を高める…。 マーケティングの新しい流れとしての「顧客情報の管理」においては多くの試みがなされているにもかかわらず、残念ながらその多くが失敗している。

航空会社のマイレージも日本国内では成功しているとは言えず、一時話題を集めたホテル等の宿泊サービスに至っては話も聞かなくなってしまった。 なぜうまくいかないのか。そこにメスを入れ、スポットライトを当てない限り、日本のデータベース・マーケティングに成功事例は生まれない。

そこで、この連載では「データベース・マーケティング部門の診断と治療法」と題して、うまくいっていない事例と、その診断、そして治療法を研究してみようと考えている。 このレポートを読んでいただくことが「予防」になり、「健康医学」へと発展すれば素晴らしいと願っている。

そもそも顧客情報の管理をマーケティング戦略に基づいて実行しようと思うなら、最低限、以下の3つを構造的に理解する必要がある。 その上で自社の顧客や見込客とのコミュニケーションを戦略的に組み立てなければならない。本来それなくしてマーケティングが展開できるはずもなく、これを後回しにしていてはどんなにお金をかけてもうまくいくはずがない。

顧客情報の管理に欠かせないスキル
  1. 顧客コミュニケーション戦略
    (媒体ごとの特性やコスト、必要なリソースなど)

  2. 顧客データ管理
    (データベース構築やデータの管理、人的セキュリティの構築など)

  3. インターネット・テクノロジー
    (Web、eメール、ログ解析、セキュリティなど)

この3つの複合スキルを持った人材、あるいはチームを持っている企業は非常に少ない。IT業界ならまだしも、百貨店や専門店などの小売業、スポーツジムや英会話教室などのサービス業となると、こうした専門知識を持った人材を社内に確保することも、内部で育てることも極めて難しい。そのため、マーケティング活動を各セクションや担当部署が場当たり的に行うことになり、現場は混乱し、顧客には不愉快な思いをさせ、コストをかけて顧客満足度を落とす、という悲惨な状況を作り続けているケースが後を絶たない。そんな事例を紹介しよう。

3年前からポイントカードシステムを導入。会員数は増大したが、ロイヤル・カスタマーの数は伸び悩んでいる。
百貨店に買い物に行くと、必ずと言っていいほどポイントカードシステムの入会を勧められる。大概はポイントがたまるとそれで買い物ができるなどの特典がついているので入会する人は多いのだが、このシステムは今、最悪の状態にある。

多くのポイントカードシステムの換金率は3%前後だ。これは平均粗利益率で30〜40%を確保できる小売業にとっても、大きな数字に違いない。 そこで各社とも1〜2年間の有効期限を設けて、これを経過したポイントは失効にするという仕組みを採っている。
A百貨店では、在庫やテナントの売上管理を目的にPOSを利用していたが、新たな差別化戦略のために3年前からポイントカードシステムを導入し、顧客満足度の向上、ないしは顧客の囲い込みを目的としたマーケティングに取り組んでいる。ここでポイントカードシステムについて触れておこう。

顧客情報管理の古典的な手法ポイントカードシステム

ポイントカードシステムは顧客情報管理の最も古典的な手法のひとつである。ブティックなどの小さな専門店で、名刺大のスタンプカードを渡された経験をお持ちの方は多いだろう。スタンプをためて、いっぱいになったらそれが商品券や景品に交換できる。顧客に目標を達成するまでためる喜びを提供するため、「顧客インセンティブ・プログラム」と呼ばれることもある。

一方、店舗側は、誰がいくら買ってくれたのか、今年何回来店してくれたのか、最後に来店してくれたのはいつなのかという「RFM情報」を知ることができ、それを基にどの顧客を大切にしなければいけないかを知ることができる。大切にすべき顧客を知ることは、競争が激しくなればなるほど重要になってくる。自社が真に大切にすべき優良顧客をしっかり囲い込み、競合から守ることは何より重要である。

これらの情報をコンピュータのデータベースで集中管理し、ある特定の売り場だけでなく全国の店頭で、あるいは提携先も含めた複合的な施設で…と情報共有の枠を広げ、クレジットカードと合体させ、かつPOSと連動させることでより詳しい情報を格納できる仕組みとして導入されているのが、今の小売業のポイントカードシステムである。

カタログ通販会社のように「R」「F」「M」のすべてを使って顧客分析にチャレンジするケースもあれば、航空会社のマイレージプログラムなどのように「F」(フリークエンシー)だけで顧客を管理するケースもある。いずれにしても、その目的は「顧客を知ることで優良顧客を守り、準優良顧客には優良顧客にランクアップしてもらい、浮気性の顧客の浮気を防ぐ」ことである。その先にあるゴールは、「ライフ・タイム・バリュー*2」と呼ばれる「顧客生涯価値」を獲得することだ。

多くの小売業でポイントカードシステムは機能障害に陥っている

しかし、このポイントカードシステムを導入した小売業において、この目的を達成しているところは極めてまれである。A百貨店の現場を覗いてみよう。毎日あちこちの売り場で、「申しわけありません、このポイントは期限が切れておりまして・・・」とお客様に言い訳をしている販売員の姿が見られる。「期限が切れるならその前にハガキか何かで知らせてくれればいいじゃないですか?」という、ごく当たり前のお客様の言葉に返答できない販売員・・・。

そもそも、当の販売員ですら、そう考えているのだからしょうがない。大手百貨店ともなるとポイントカード会員数が100万人を越えているのは普通のことで、多いところでは400万〜600万人にも上る。この膨大な会員にハガキを送るとなると、郵便料金を50円として400万枚なら1回に2億円。もちろん数量割引もあるが、それでも紙・印刷代から発送代行まで含めてこれに近い予算を用意しないと、「期限が切れる前にハガキ1枚・・・」というオペレーションは実現できない。

ハガキ1枚が出せないのだから会員とのコミュニケーションなどなきに等しいのだが、真に悲惨なのは、このポイントが当初期待していたロイヤル・カスタマー(上得意客)の満足度を高めたり、浮気性の顧客のブランドスイッチを防ぐという目的には、ほとんど役に立っていないということだ。

機能障害の原因は社内ナレッジの欠落

もともと、百貨店のロイヤル・カスタマーとは、その百貨店の「ブランド」に付いている。だからその顧客の年間のお買い上げ金額が、ポイントやキャッシュ・バック・キャンペーンに左右されて増えたり減ったりすることはめったにない。浮気性の顧客のブランド・スイッチを防ごうと思うと、さらに難しい現実にぶつかる。

そもそも「同じものを買うならポイントがたまっているあの百貨店で」と感じさせるには、常に一定額以上のポイントがたまっていなければ難しく、数千円分のポイントでは浮気を防ぐ役目は果たせない。3%の換金率で考えると、例えば100万円近い買い物をしてたまるポイントがやっと3万円分程度だが、ロイヤル・カスタマーでもない顧客が常に数万円分のポイントをキープできるほど買うことはあり得ない。

顧客満足を高め、ロイヤル・カスタマーを大切にし、ブランド・スイッチを防ぐための手段として導入されたはずのポイントカードシステムが、コミュニケーションの障壁となり、顧客満足を引き下げ、販売現場をクレーム対応で往生させるという皮肉な結果を作り出している。A百貨店の店頭ではポイントカード・キャンペーンを止めどなく続け、その結果、会員数が日増しに増え続けている。コミュニケーションの予算確保もWebやeメール・マーケティングに結び付ける戦略も用意されないまま、eメールアドレスすら入っていない顧客情報が増え続けていく現実・・・。

そして何よりもマーケティング担当者を悩ませているのは、ポイントカードシステムの導入から3年経った今、予測したほどロイヤル・カスタマーの数が伸びていないという事実だ。こんな現実を前にしてA百貨店は、この新しいマーケティングに対するナレッジが社内にまったくなかったという事実にようやく気付いたのだ。
ポイントカードシステムに対して、「これこそロイヤル・カスタマーの顧客満足度を引き上げ、浮気を防ぎ、客単価を引き上げる特効薬だ」という「幻想」を抱いているケースが多い。

残念ながらデータベース・マーケティングには、特効薬も近道もない。データベース・マーケティングに取り組むということは、人間にたとえて言えば、毎日適度な運動をして正しい食事を摂り、漢方薬を服用して地道に体質改善に取り組むということである。
体質を改善し、健康になるということは、それぞれの顧客としっかりコミュニケーションがとれ、顧客満足度の高い関係を維持できる、ということなのだ。 ポイントカードシステムを含めたデータベース・マーケティングで顧客情報を管理する目的は、「ライフ・タイム・バリュー(顧客生涯価値)」を最大化することである。

「誰が」「いつ」「いくら」買ったかという情報だけを管理して、これにインセンティブを付与するだけでは、残念ながらこの目的は達成できない。 仮に同じものを購入するならポイントがたまっている店で、という心理的ロジックがある程度効果を発揮したとしても、その顧客がいったんポイントを商品券なりインセンティブの旅行なりで消化してしまえば、その時点で顧客ロイヤルティも同時に消滅することになってしまう。これでは目的の半分も達成できていないことになる。

POSデータしか持っていなかった会社が、同業の動きを見て安易に自らもポイントカードシステムという「データベース・マーケティング戦略」を導入してしまったことがそもそも失敗の原因だったというケースが多い。そして、このマーケティングに最低限必要なナレッジさえもなかったという事実に、いくつかの失敗を経て気付いていく。

この状況を早急に改善しないと、数十億円を投入したポイントカードシステム自体を廃止しなくてはならなくなるばかりか、将来的に顧客情報の漏えいやeメールの誤配信、ウィルスメールの配信など最悪の事故を引き起こす危険性もある。インフラや組織、スタッフィングやスタッフのスキルレベル、人的セキュリティなどの精密検査と早期の治療開始が必要だ。

ポイントカードを発行して1年以上経過し、失効期限を迎えてA百貨店のような問題が起きている場合、すでに現場が混乱し、担当者は問題解決に忙殺されていることが多い。そんなときに外部からアドバイスされても、聞いている時間もなければ、それを試してみる時間も人もお金もないのだが、時間が経過すればするほど事故やクレームが引き起こされる確率はますます高くなり、当初の目的を達成することは一層難しくなる。

治療のためには、「ライフ・タイム・バリューを向上することを目的にし、どんなコミュニケーションをとるために誰のどんな情報をどのように管理するべきなのか」という面から現行の仕組みを俯瞰して、大幅な修正を加えなければならない。
さらに顧客情報という「個人情報」を持つ怖さを理解した上で、その情報の管理体制を構築する。
まずは応急処置として早急に現会員とのコミュニケーション戦略を柱としたマーケティング・プランを立案し、これを予算化すること。これは現会員に対してただちに手を打ち、クレームを防止するための臨時予算だ。

次にWeb、メールマガジン、ハガキなどを織り交ぜたクロスメディアでのコミュニケーション・プランとそのために必要な顧客データベースの要件定義を行い、そこに至るまでのロードマップを策定する。ここでは各々のコンテンツ開発やそのスタッフィングまで落とし込んで設計することが必要だ。これが問題解決の基本プランとなる。コミュニケーションなくして、顧客満足も浮気防止もあり得ない。

また、セキュリティやデータ・マネジメントなどの精密検査を同時に進める必要がある。さらに社内の関係部署で勉強会などを定期的に開催し、データベース・マーケティングに対するナレッジ・レベルを引き上げることも急務である。もし内部だけで解決できる状況にないのなら、問題の切り分けや対応策、優先順位を取りまとめるために、外部ブレーンとして経験豊かなコンサルタントが必要かもしれない。

このコンサルタントはポイントカードシステム導入時のシステムの開発やカスタマイズにかかわった人ではなく、顧客情報の管理の専門家であり、コミュニケーション戦略に強い人でなければ役に立たない。慎重に人選すべきだろう。
こうした治療に今すぐにでも取り組まなければならない小売業が全国にどれほどあることだろう・・・。