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2004.12.27

マーケティング・ステップという考え方

出典:月刊「アイ・エム・プレス(I.M.press)」 / 庭山一郎

業務ソフトのメーカーD社が大型ビジネスショーの展示にかける総コストは年間約1億円。しかし、この展示会出店が販売の役に立っていないという声がちらほら。マーケティング部門が存在価値を認めてもらうにはどうすればいいのか。

前回はデータベース・マーケティングの成功とコミュニケーション・コストの関係をいくつかの事例により学んだ。

今回は、「マーケティング・ステップ」という視点で、マーケティングに無駄や無理がないか検証していこうと思う。

マーケティング・ステップの組み立ては慎重に!

マーケティングとは、「販売のプロセス」の中に隠れている「売れるメカニズム」「売れないメカニズム」を探求し、最終的には「売れるための戦略的な仕組みを作ること」だと考えている。
見落とされがちではあるが、特にデータベース・マーケティングにおいては【マーケティング・ステップ】を慎重に組み立てることが、成功のための極めて重要な要素なのだ。

「購買のプロセス・マネジメント」として昔から有名なのは「アイドマ」だろう。買い手側に視点を置いた「アイドマ(AIDMA)の法則」とは、アメリカの経済学者、ローランド・ホール氏が提唱したプロセスで、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字を取ったものだ。

  1. Attention(注意)

  2. Interest(関心)

  3. Desire(欲求)

  4. Memory(記憶)

  5. Action(行動)

一般的にも良く知られている法則で、原則としてはこれで良いのだが、残念ながら実務の世界ではこの5つのステップだけでは用が足りない。それぞれのステップごとに、具体的でもっと細かいステップがなければ、データベース・マーケティングは設計できないのだ。特に「5.Action(行動)」の部分は、ステップが細かくならざるを得ない。

インターネット上で特殊なブラウザ(ホームページ閲覧用ソフト:マイクロソフト社のインターネット・エクスプローラーなどが代表的)を使用してオンライン・ショッピングを実施する場合、そのブラウザをコンピュータにインストールしてもらうまでのステップの中で、いかにユーザーの「減衰」を防ぐかがビジネスのキーになる。

「減衰」とは、マーケティング・プロセスのステップごとに数値が減ることを指す。それを「減衰率」というパーセントでベンチマーク(定点観測)して計画を立てる。
AOLや一時期のNIFTYが採用していた「ニフティ・マネージャー」などに代表される独自ブラウザを利用したサービスは、そのブラウザの普及に途方もない労力とコストがかかるので、最近では影を潜めてしまった。

CD-ROM同梱のダイレクトメール(DM)や、家電量販店の店頭配布などでおそらく数百万枚単位でばらまかれたインストール用のCD-ROMのうち、実際に利用されるためにパソコンのCD-ROM用のお皿にたどりついたのは、配布した母数から見るとコンマ数パーセントにさえ満たないだろう。

しかし、この独自ブラウザはセキュリティやスイッチング・コスト(ユーザーが他社サービスにスイッチするときに支払うコストや精神的な負担や労力)などの面では捨てがたい魅力を持っており、この普及時の減衰率の問題を解決できさえすれば、再びこれを使った多くのビジネスが登場してくるかもしれない。
図表1はある独自ブラウザを普及させようとしたときのユーザー側から見た【マーケティング・ステップ】とユーザー心理である。

図

固定客の獲得まで8ステップもあることに加え、ダウンロードや初期設定、アンケート記入などが大きな減衰要因となる。前のステップの数を母数にして、それぞれ想定される減衰率を厳しく試算したところ、このケースではマスメディアやダイレクトメールなどのプロモーションでサービスを知り、8番目のステップまで到達した人は0.07%だった。1万人に配布したとして、たったの7人である。

このサービスの損益分岐点の会員数が5万人だと仮定すると、5万人の会員を獲得するには7,000万人以上に告知しなければならないことになる。

これが女性向けのオンラインサービスだとしたら、現在、インターネットにアクセスできる環境にある女性は日本に7,200万人もいないのだから、そもそもロジックが破綻していることになる。

世界最大手のインターネット・サービス・プロバイダーが撤退を余儀なくされた現実がこれなのだ。
このように、B to Cのマーケティングでは、【マーケティング・ステップ】をできる限り少なくし、減衰ポイントを作らないようにすることが必要だ。最終目標に到達するまでのステップを単純化することが、問題の解決につながることが多い。

B to Bではより細かいマーケティング・ステップを!

一方、B to B(法人営業)の世界ではまったく逆のことが起こる。この世界では、【マーケティング・ステップ】が単純で、数が少なすぎることが問題になっているのだ。

多くの場合、法人営業が上手くいっていない原因は、【マーケティング・ステップ】を粗く刻み過ぎていて、ひとつひとつのステップが大き過ぎることにある。

営業をかけられる立場で考えてみて欲しい。例えば展示会である会社のブースに立ち寄って簡単なアンケートに回答したり名刺を置いただけで、その後しつこくセールスやアポイント取りの電話がかかってきたり、営業が直接押しかけてきたりしたらどう思うだろう。

これは、ブースに立ち寄ってから営業がアプローチするまでの間に、当然あるべき【マーケティング・ステップ】が省略されてしまっていることで、間合いを詰めるどころか、かえって相手に不快感や警戒感を抱かせてしまっているケースだ。

この場合は、以下の3つのステップしか刻んでいない。

  1. 展示会のブースで名刺やアンケートを集めて、見込み客リストを作る

  2. そのリストを営業チームにそのまま渡す

  3. 営業が片端から電話して受注を目指す

【マーケティング・ステップ】が少ないことが原因で、途中減衰し、さらには企業イメージまで傷つけてしまう。
もう少し細かくステップを刻み、相手が欲しい情報を小出しにしながら、少しずつ間合いを詰めるような【マーケティング・ステップ】を設計しなければ、法人営業で成功することはできない。
リスト業者からリストを購入して電話をかけまくるというのは、さらに極端なステップの省略で、こうした乱暴なマーケティングが長期的に成功したためしはない。
では症例を見てみよう。

業務ソフトのメーカーであるD社は、東京ビッグサイトなどで開催される大型のビジネスショーに年に3〜5回出展している。それぞれ16から24小間の大型ブースで、出展コストは主催者への出展費用やブース施工費、プロモーション・ビデオの制作費、コンパニオンの人件費など、2,000万円以上かかり、大きな展示会では3,000万円を越えることもある。

しかし、販売推進担当社員の数は限られており、展示会に出展するとなると、その企画と運営だけで手一杯で、せっかく集めたリストをスクリーニングする余裕はない。そこで、D社では展示会などで集めたアンケートや名刺情報を入力業者に外注してデジタル化し、それをエリアごとに分類して各地区の営業部門と販売代理店に配っている。

しかし、展示会で集めたアンケートや名刺のリストは販売の役に立たないという声が社内のあちこちで出始めており、展示会への出展やキャンペーンの予算が確保しにくくなっている。
販売推進や営業企画と呼ばれるマーケティング部門の評価者は、ユーザーではなく、社内の営業チームや販売代理店の営業チームなのだ。営業部門が売上目標を達成するためにマーケティング部門が役に立てなければ、存在価値がないと言われてもしかたがない。

このままでは予算は縮小され、展示会に出展するどころか、DMやeメール・キャンペーンすらできなくなってしまうだろう。

このマーケティング部門が、営業チームから見直され、社内の評価を上げるにはどうしたらいいのだろうか。展示会で集めた名刺やアンケートを直接営業に渡すのは最悪の方法だ。
多いときには3,000〜4,000件になるこの見込客リストの中には、競合企業の人間が大量に混ざっているし、自社の社員やグループ会社の社員も含まれていて、さらに同じ人間が複数存在していることも多い。
こんなリストを渡された営業は、たまったものではない。

このリストを使ってセミナーの集客をしようものなら、セミナーの出席者は競合で溢れ、自社のグループ企業からは「身内にセミナー案内を送ってどうするんだ」と叱責され、さらにリストが重複しているので同じ人に複数のDMやeメールが届いてしまい、これもクレームの元になる。

最も怖いのは、リストが重複しているために配信停止に対応できず、配信停止をしている人に何度もDMやeメールを送り続けてしまって、これが大きなクレームになることだ。こうしたことが何度か続くと、営業部門はもう展示会で集めたリストを信用しなくなる。
マーケティング部門が苦労を重ねて集めた展示会の来場者リストを営業部門が真面目にフォローしないという、多くの企業で起きている現象は、これが原因なのだ。

このようにB to B(法人営業)の場合は、【マーケティング・ステップ】が大雑把過ぎると、マーケティングをかけるのは、ワンステップごとに清水の舞台から飛び降りるような決断が必要になり、減衰率が増大する上に、それを追いかける社内の営業部門を混乱させる結果になる。また、どこでどれくらい減衰しているかという現状もさっぱり把握できないので、何も手を打つことができず、その結果、展示会に出展すること自体が無駄だという評価につながってしまう。

見込み客リストを手に入れてから、営業が直接コンタクトをとって訪問するまでのステップを、もっと細かく刻んで、少しずつ間合いを詰めるのうな設計に変えなければならない。

そのステップで使うのがメールマガジン、Web、セミナー、展示会などだ。これらをそれぞれの特性やコストを踏まえて組み合わせ、より細かい【マーケティング・ステップ】を刻んで設計し直すことで、各ステップでの減衰率を最小限にとどめるようにしなければならない。

その上で、営業が消化できる数の「今、最もホットな有望見込客リスト」を少しずつ渡すようにしていけば、新規案件を追っている営業は、楽にアポイントをとったり案件を作ることができる。営業とマーケティング部門が、それぞれのポジションで役割分担して「受注の獲得」に貢献することができるのだ。