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2006.06.27

続・マーケティング部門のマネージャーS氏がはまった落とし穴【解決編】

出典;月刊「アイ・エム・プレス(I.M.press)」/ 庭山一郎

営業部門に安定的に有望見込客のリストを渡すための中期のマーケティング計画を提出することにしたSさん。ただ名刺の量を集めるだけではなく、案件を抽出することができるような質を求めた商談型ブースを設けて出展に臨んだのだが・・・

ご相談者

外資系大型プリンターベンダー A社

ご相談者の所属・役職

マーケティングマネージャー S氏

ご相談のポイント

外資系大型プリンターベンダーA社でマーケティング部門に配属後最初のキャンペーンに大失敗したSさんは、一時は責任を取って進退伺いを提出しようと考えていたが、そのキャンペーンをよく分析してみると、工夫次第では大きな成果が上げられそうな気がしてきた。そこでSさんは、営業部門に安定的に有望見込客のリストを渡すことをゴールとし、見込客をいかに集め、いかに管理し、いかに活用するか、を骨子にした中期のマーケティング計画を提出することにした。

手始めにリストの収集・入力方法を考えた結果、展示会を利用することにした。そして、主催者のアドバイスにより、ただ名刺の量を集めるだけではなく、案件を抽出することができるような質を求めた商談型ブースを設けて出展に臨んだのだが・・・。

庭山流 解決策
いざ、展示会へ

今までのA社の展示会は「ブランディング」という名の一種のお祭りだった。営業部門にいた頃のSさんは、展示会に関して「出展するか」「今年は出展しないか」の2つの選択肢しかないことに疑問を感じていた。予算を縮小して小規模の出展をするという選択肢もあるだろうに・・・ と考えていたのだ。自分が担当することになって、その理由がようやく理解できた。展示会が業界内に対して「元気だ」ということを証明する場であるならば、規模を縮小したのでは「元気がない」ことを証明する結果になってしまう。これほど馬鹿げたことはないから、「規模を縮小するなら出ない」という結論になっていたのだ。しかし、Sさんはこの考え方をきっぱり捨てた。業界内の評判は売り上げを作ることからすれば二の次である。

展示会主催会社の人の話では、米国では展示会は商談の場であり、商談コーナーの予約は早くから埋まるということだった。事前に予約してもらえれば、その人のニーズに合った商品知識を持つ営業スタッフを待機させておくこともできる。Sさんは広告代理店に商談型のブースを発注し、そこに商品知識を持った営業スタッフを配置することにした。目標だった「アンケート4,000枚」を「新規商談200件」と変更した。招待状のDMに商談テーブルの時間予約ができる仕組みまで作り込んだ。招待状を持って回ってくれた営業にると、予想より多くの人が「この展示会は行くよ」という答えだった。この感触を聞いたSさんは、商談コーナーが満席になった時に備えて、会場内のVIP用の部屋も押さえることにした。別料金だが、商談ができれば安いものだと思った。

意気込んで当日を迎えたSさんは愕然とした。ブース全体の半分を割いた商談コーナーがガラガラなのだ。せっかく待機してくれた営業スタッフもやることがないので、コンパニオンに混じって通路でアンケートを採っている。陳列してある製品を見ている人に声を掛けても「資料をください」と言われるだけで、足早にほかのブースへと移っていった。

あれ程期待した商談コーナーは、新規の商談にはほとんど使われていないのだ。ブースの滞留時間が短いので、専門知識をもった営業スタッフもほとんど出番がない。Sさんは主催者の話をうらめしく思い出した。説得力があっただけに落胆も大きかった。1日目の結果は悲惨だった。集まった名刺とアンケートが約200枚。用意した商談テーブルの利用者は16社。しかし、その大半は競合や代理店で新規の商談はゼロだった。ましてやVIPルームは、まったく使われなかった。

日本と米国の展示会は違う!

2日目にA社の米国本社のスタッフがブースに来てくれた。彼は米国のスタイルに似た今回のA社のブースを非常に誉めてくれた。米国の代理店はこうしたブースで商談をどんどん獲得しているとのことだった。Sさんは、本社のマーケティング部門でアジアパシフィックを担当している彼に、商談コーナーがほとんど活用されていないこと、期待していた新規の商談がほとんどないことを正直に話してみた。

すると彼は、ハッと気が付いたように話し出した。米国の展示会に比べて来場者の年齢層が若いように見える、それに各ブースの滞留時間が短く、ほとんどの人がブースからブースへと足早に歩いている。「日本とアメリカは違うのかもしれないよ」と彼は言った。

米国ではラスベガスやオーランドで大きなビジネスショーが開催される場合、ほとんどの人は飛行機でやってくる。ある程度権限を持った人がホテルに宿泊し、2日から3日の予定で明確な目的を持って参加する。自分の会社で販売する新しい商材を探しにくる人、新規の販売代理店を確保したい人などだ。だから商談コーナーで熱心な会話が展開されるし、その場で代理店契約をするケースも少なくないという。 そこが違うのだ。日本では、例えば東京ビッグサイトで開催される展示会なら参加者の大半は首都圏の人である。会場までの移動時間はせいぜい1時間で、午前中あるいは午後の3〜4時間で会場をざっと見て帰る。だからみんな忙しく歩き回るし、必然的にひとつのブースの滞留時間は短い。面白いブースを見つけても、ほかも見なくてはならないので、資料をもらって次に行ってしまう。しかも、今回の展示会は同時開催も含めると数百の会社が出展している。

農耕型マーケティング

2日目の結果も1日目とほとんど同じだった。名刺とアンケートの合計が230枚。商談テーブルの利用は17社。しかし、新規の商談は3件で、その内の1件は韓国から来た人だった。A社の販売テリトリーは日本だけである。韓国に販売することはできない。2日目を終わった時点で目標に対する達成率は1%だった。Sさんは作戦変更を決意した。目標を商談件数からアンケートの枚数に戻し、最終日で1,000枚を目標にした。ブースのレイアウトを可能な限り変更し、人のシフトも変え、配置もブースの中で待っているのではなく、通路側に多く配置した。また商品知識のある営業スタッフに替えて若い事務系の女性を他部署から派遣してもらうことにした。2日目の終礼で作戦変更を伝えた。

その結果、3日目の成果は前の2日とまったく違うものになった。獲得したアンケートが1,600枚。レイアウトの関係で半分しか減らせなかった4つの商談テーブルの利用者も不思議と増えて29社になった。しかもその内の13社が新規の商談だった。活気のあるブースには人が集まるのだ。「量より質」は必ずしも正解ではなかった。

当初は4,000枚の名刺を集めるつもりだったが、紆余曲折の結果、半分の2,000枚しか集まらなかった。しかしSさんには、次の展示会では3日間で4,000枚を集める自信ができた。展示会では見込客の名刺を1枚でも多く集めることを目的にして、商談は後日、個別にやれば良いのだ。

展示会のほろ苦い打ち上げをやりながらSさんは考えた。そもそも「量より質」「名刺より商談」という考え方は、マーケティングではなく、狩猟型の営業の考え方なのだ。どちらかと言えば農耕型のマーケティング部門にとって展示会は種を蒔く苗床であり、今後、畑で育てる苗や種を獲得すべき場所なのだ。

「日本には日本のやり方があるんだね」米国本社から来てくれたスタッフが帰り際に言った一言が、Sさんには印象的だった。

展示会をブランディングではなく、しっかりと売り上げに結び付けようとしたSさんは、最後には日本に合った農耕型マーケティングに近付いたのだ。がんばれSさん!