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2006.06.27

会員制ビジネスのマーケティング戦略に苦悩する、大手英会話教室のKさん【相談編】

出典;月刊「アイ・エム・プレス(I.M.press)」/ 庭山一郎

大手英会話教室C社の営業推進担当になったKさん。会員の定着率が低いまま推移していることと、大口契約の可能性のある法人営業がまったく伸びていない、という問題を抱えていた。そこでKさんは自社の状況を把握するために他社を観察してみることにした。すると、見えてきたことは・・・

ご相談者

大手英会話教室 C社

ご相談者の所属・役職

東京本社 営業推進部・企画担当 Kさん

ご相談のポイント

大手英会話教室C社の東京本社 営業推進部 企画担当のKさんは、この4月の人事異動で中京地区のエリアマネージャーから現職に就いた。そんなKさんの悩みは、会員の定着率が低いまま推移していることと、大口契約の可能性のある法人営業がまったく伸びていないことだ。これらの悩みを解決する手法とは・・・。

庭山流 解決策
「ざるで水を汲む」

「ざるで水を汲む」という言葉は誰でも知っているだろう。「無駄が多い」、「極端に効率の悪い」ことなどを指し、平たく言えば「非常に愚かなこと」を意味する。だから本当にざるで水を汲もうとする人はまずいない。

しかし、マーケティングの視点から見るとこれに近いことを繰り返しているビジネスがある。「会員制ビジネス」である。商品やサービスを販売する相手が個人であっても法人であっても同じだ。一方で莫大な費用を掛けて新規の会員を開拓し、他方では大量の退会者を止めることにほとんど投資をしていない。「ざる」か、良くても「穴だらけのバケツ」で水を汲んでいる会社が多いのが現実なのだ。

さて、今回は英会話教室を展開するC社の営業推進担当になったKさんからのご相談である。

首都圏の駅前を中心に展開するC社は英会話教室としてはベスト5に入る大手だ。競争が厳しい業界なので新規の会員獲得には非常に力を入れており、テレビコマーシャル、駅前の屋外広告、雑誌媒体などマスメディアを中心にあの手この手で膨大な広告予算を使っていた。テレビを中心にしたマスメディアの効果は大きく、これで多くの新規会員を獲得できているのだが、同時に退会者も多く、これを差し引くと会員数の目標になかなか届かない現実が続いていた。

一方、法人会員の新規獲得については社内の担当者も少なく、予算も極めて小さいため、年に数回、法人会員獲得が期待できる新規店舗がオープンした時にダイレクトメールを打つくらいで、あとは基本的に法人営業部門の営業スタッフが個別に企業を訪問していた。

4月の人事異動で中京地区の10店舗を統括するエリアマネージャーから東京本社の営業推進部の企画担当になったKさんには2つの悩みがあった。

まず、せっかく膨大な予算を使って獲得した会員の定着率が低いまま推移していることだった。新規獲得のキャンペーンが成功して一時的に会員数が増えても、その後どっと退会されてしまうので、結局、会員数は横ばい状況が続いていた。例えば1万人の新規会員を獲得しても、8,000人に退会されてしまえば、純増は2,000人である。現在、C社では四半期ごとに新規会員ひとりを獲得するために要した経費を会員獲得単価としてレポートしているが、その母数は1万人であるからそこそこ健闘しているという評価を貰っていた。しかし、もし実質を重視して純増の2,000人を母数にして宣伝広告費を割れば、コストは単純に5倍である。評価どころではない恐ろしい新規獲得単価になってしまう。

C社では新規会員の獲得は営業推進部を含む営業本部の責任だが、会員の維持は店舗管理などを担当する業務部門の責任だった。これは顧客満足度やそれに関連する会員の定着率はサービスメニュー、講師の質、教科書や教材、各種の検定などの商品開発に依存すると考えられていたらからである。

しかしKさんには、これが疑問だった。よりきれいなオフィスでレベルの高い講師を揃えることは非常に重要だが、それは受講してくれる人が喜んでくれるサービスである。Kさんもかつて教室を任されていた経験を持っているし、数年間、教室の責任者を経験した後はエリアマネージャーとして複数の教室の指導をしていた。だから、退会する人は「教室に来てくれない人」であることを実感値として知っている。この人達は施設や講師のレベルを上げても、それを体感することなく退会してしまうのだ。そうした自分の経験から、施設や講師だけでは退会率を下げられないことをKさんは知っていた。そしてこの退会率を低減できなければ、どんなに新規会員を獲得しても「ざるで水を汲んでいることになる」と考えていた。Kさんからみれば、新規会員獲得に掛ける費用に比べて、既存の会員の維持に掛けるコストはどう考えても不十分だった。

2つ目の悩みはC社の法人営業のあり方だった。特に首都圏では非常に重要なマーケットであり、しかも大口契約の可能性も高い法人営業が不振を極めているのだ。経営陣は大量のマスメディアへの露出で、相対的な企業ブランドは十分に高いと考えていたので、これをテコに法人担当の営業チームが個別に訪問を繰り返せば、法人会員を獲得できると考えていた。しかし現実はこれとは裏腹に、福利厚生プログラムの変更などにより、総合商社などの大口の顧客に1社また1社と流出していた。

会員制ビジネス=データベース・マーケティング

Kさんは自分の会社の現実を冷静に見直すために、ほかの会社を観察してみることにした。すると同様の悩みを抱えているビジネスは意外に多いことに気が付いた。ビジネスのカテゴリーとして見た場合、会員制ビジネスかそれに近いビジネスモデルに括れる業種は意外な程多かった。

C社のような英会話教室やスポーツクラブ、タイムシェアリング型のリゾート施設、クレジットカード会社、インターネットで言えば有料の情報サイトなどは元々会員制ビジネスとして出発しているが、最近では商品そのもので差別化することが難しいビジネス、例えばガソリンスタンドや百貨店はポイントカードを導入して顧客の囲い込みを画策したし、銀行ですら、クレジットカード会社や航空会社と組んでポイントシステムを導入し、いわゆる会員制ビジネスモデルの要素を取り込んでいる。

法人営業(BtoB)でもユーザー会を組織化して得意先を囲い込み、アップセリングやクロスセリングの推進を目指してユーザー企業を組織することはどこでもやっているし、その事務局に一定のコストを割いている。直接顧客と接点を持つことがなかったメーカーですら、もはや製造だけでは収益を上げられなくなって、製造・販売した製品の保守サービスを事業化して収益体質を築こうとしている。その手法としてこれらのサービス利用者を法人メンテナンス会員と位置付けているのだ。

しかし、こうした新たな顧客囲い込みの営業活動に取り組んでいる企業が必ずしも成果を上げているようには見えなかった。Kさんの分析では、成果を上げられない多くの企業は、自社のビジネスモデルの中に会員制ビジネスの要素を組み込んだことに気が付いていないために、当初の期待通りの効果を上げていないようだった。本質的に異なるビジネスモデルにチャレンジしているという自覚を持っていないように見えたのだ。

このKさんの視点は的を得ている。会員制ビジネスの本質はデータベース・マーケティングにある。従って、マーケットを「不特定多数」ではなく「特定多数」として捕らえてライフ・タイム・バリュー(顧客生涯価値)を取りに行くという発想を持てなければ、こうした取り返しのつかない状況を際限なく引き起こすのだ。

では、KさんはC社のマーケティングを変革するために、いったい何をどう提案したらいいのだろうか?