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2006.04.10

マーケターとセールスの間に横たわる深くて暗い谷4[SFA編-後編]

出典:PowerBiz / 庭山一郎

売る側が間違った理解のもとに販売している。日本でSFA導入が成功しない要因として、こんな理由も考えられる。これを成功させるために必要な、法人営業のデータベースマーケティングに必要なスキルとは・・・。

前回の【SFA編-前編】では、日本でSFA導入が成功しない要因として、次の2点を解説した。

  1. 担当するセクションが間違っている

  2. SFAに最も不得意なことをやらせている

そこで今回は、3つめの大きな要因を解説しようと思う。
それは【3.そもそも売る側が間違った理解のもとに販売している】という最も根の深いものだ。

はじめにことわっておくが、SFAは本来素晴らしいソリューションである。

営業に科学のエッセンスを入れ、その動きを効率化する事を目的に開発されているのだから、これが本当に機能すれば、相手にニーズがあるかどうかもわからずに電話をかけまくったり、いたずらに飛び込んだり、という非効率を少なくすることが出来る。

そもそも、この種のどぶ板営業はセールススタッフの精神力を鍛える意味はあるかもしれないが、モチベーションを維持するのが難しく、さらに飛び込まれた方の迷惑もはなはだしい。
企業経営者もそのことは良く理解しており、そのため自社の営業の効率化は常に念頭にあるテーマである。だから数千万円も数億円もするSFAやCRMが売れているのだ。

では、その素晴らしいソリューションの導入プロジェクトの多くが、当初の目的を達成できていないのはいったい何が原因なのか。
私はその最大の原因は「売る側」が「それをどう活用すると目的を達成できるのか、あるいはどういうスタッフが何人くらいいればそれをクライアントが望んだレベルで運用できるのか」ということを正しく理解していないという点にあると考えている。

特に、最も重要な【導入後の運用面】に関しては極めて理解が薄く、結局操作は出来ても誰にも活用のし方がわからない営業支援ソリューションに莫大な費用と時間を投入している、という奇妙な実態が少なくない。

顧客管理ツールを導入すると説明されて、気が付いたら実は管理されるのは顧客でも見込み客でもなく自分達営業部門の日々の行動だったとわかり、導入に同意したことを後悔している営業部長を良く見かけるのもこうした理由なのだ。

これが、例えばERPであれば、社内の各部署で既に行っている業務を統合管理しようというソリューションなので現場の勘所を理解し、実際に管理している人間が存在し、彼らの経験を基に何をどう置き換えようかというテーマでミーティングを重ねることで導入を成功に導くことが出来る。

経理や人事給与であればなおのこと、長年やってきたプロが社内にいるし、現行のシステムを開発した担当者も社内に存在していることが多い。そういうナレッジの蓄積をベースとして新しいパッケージを導入できる。

しかし、営業支援の目的で導入されるSFAは、ほとんどの企業が経験やナレッジをまったく持ち合わせていない。
マーケティングを目的として顧客や見込み客のデータを一元管理したこともなければ、営業マンの行動を各案件に紐付けてシステマチックに管理したこともない、まったく未経験の分野なのである。
だからこそ「売る側」の責任は重いのだが、実際は売っている企業でも販売しているSFAを使っていないというケースが多く、スペックはわかっていても運用に関しては未知ということになってしまう。
だから実際に導入したとき、現場で何が起こるのかを誰も予測出来ないのだ。

未知の山に挑むのに、最高の道具ばかり購入できても、地図もシェルパも経験豊かな登山家も調達出来ないとしたら、登頂に成功できるどころか、いったい何パーセントの人が生還できるのか・・・。
また、SFAのような高度な道具にはそれを使いこなすための高度なナレッジの集積が必要なのは言うまでもない。あえて「ナレッジの集積」という言葉を使うのは理由がある。

実務のデータベースマーケティングを成功させるにはどうしても「ライン」が必要だ。マーケティングが得意な個人ではなく、目的を達成するためのラインとして機能する「ナレッジの集積」が必要なのだ。

例えば米国製の戦闘機「F15イーグル」は極めて高性能で、使い方によれば1機で歩兵一個大隊分の働きもする。しかし、もしその素晴らしい性能に魅かれて、パイロットも整備士も格納庫も持っていない国が購入したとしたら、それは単なる置物にしかならない。
150億円というあまりに高い置物である。

使いこなせるナレッジを持ったスタッフもいないのにデータマイニング機能や、マーケットセグメント機能などを実装した高価なSFAを購入するという行為はこれに良く似ている。
「目的」と「手段」と使う「道具」、その道具を配置するライン・・・、これらを明確にしてマーケティングを設計しなければ、高価な道具は無駄な投資で終わってしまうだろう。

では「運用を理解している」ということは具体的にどういうことを指すのか?
それは【「どういうスキルを持った人材」が「いつ」「どこに」「何人くらい」必要なのか、を理解している】ということだ。

これが理解されていれば、マーケティングからセールスまでをラインとして設計でき、SFAの導入フェーズで社内にいない人材を「必要な時までに」外部からアサインすることも出来るし、社内に抱える必要がなければ外部業者を探して選定すれば良い。

しかし実際にはこれが誰にもわからないので、導入後の運営に必要なスタッフィングが整わないまま、システムの検収をしなければならないハメになってしまう。

ラインも作業員もいない工場に大型の工作機械だけがポツンと納品されたような寒々しい風景である。

法人営業の見込み客リストは最も腐りやすいナマ物である。
検収が終わって、ベンダーが去ってから運用を考えて、担当者が頭を抱えている間にリストはどんどん腐っていくのだ。
では、どういう人材を揃えて運用チームを作った企業ならSFAを導入して成功出来るのだろうか。
ソフトウェアメンテナンスやデータセンター、サーバ管理などのエンジニアを除けば、SFAを機能させるためには次の6人が必要だ。

マーケティングサイドに4人(兼務で3人、最低でも2人)、セールスサイドの2人である。
もちろん専任である必要があるかどうかはデータの数量やイベントやメールコミュニケーションの頻度などそれぞれの会社で異なるが、正社員であろうがなかろうが、専任であろうがなかろうが、「必要」であることには変わりない。

法人営業のデータベースマーケティングに必要なスキル(マーケティングサイド)
【マーケティングプランナー】

リードジェネレーション(見込み客のリスト収集)から絞込みまでをロジカルにプランニングできる人材。
宣伝広告畑で広告代理店の窓口を経験してきた人よりは、製品ラインのマーケティングを担当し、展示会のブース設営やセミナーの事務局などを経験した人の方が適性はある。ここではマスメディアのメディアプランなどのスキルは必要ないからだ。
情報収集能力があり、人間好きでコミュニケーションスキルが高く、アイデアが豊富で、それを数字に落としてロジックとして組み立てられる人材である。
可能であれば、短期間でも第一線での営業経験が欲しい。

なぜならばこのミッションは営業チームにホットニーズのリストを送り続けるということであり、営業マンが欲しいリストがどういうものか判らなければプランニングの精度が保てないばかりか、なにより営業サイドがそのリストを信用しないという弊害が出てしまうからだ。
※ 展示会やセミナーなどと連動して年間計画の中でプランニングする必要があるので、出来れば社内スタッフであることが望ましい。

【データオペレーター】

リストクリーニングからメンテナンス、メール配信、ラベル出力、Fax配信などを行うスタッフでエクセルなどで大量データをハンドリングした経験を持つ事が重要、アクセスやファイルメーカーなどを使いこなせて、可能であればSQLが書けると良い。

最も重要なのは「注意力」。ここでメール配信事故を起こされるのは多大なダメージになるのでスキルと同時に「慎重さ」「緻密さ」などの性格も非常に重要な要素。整理整頓が得意で、ルールを守るきちんとした性格が求められる。

またマージ(名寄せ)やパージ(削除)を繰り返すときに意外に必要なのは一般常識だ。
これは弊社で実際にこの業務をアウトソーシングで受注して判ったことなのだが、例えばCTCと言えば伊藤忠テクノサイエンスのこと、だから社名にCTCとつけば恐らくここの関連会社、という類の常識が意外に求められるのだ。

ちなみにこのオペレーターが担当するのは主に見込み客である。顧客の部署や肩書きの変更などの情報を更新していくのはセールスサイドのアシスタントの役目である。フェイスtoフェイスの情報を更新する仕事にはSQLは必要ない。必要なのは営業から情報を引き出すコツと執念なのだ。
※ 専門性が高くノウハウが溜まる部署ではあるが、1社で抱えると仕事量からみてもオーバースペックになるケースが多い、また派遣だと交代するときの引継ぎが非常に難しい部署なので、アウトソーシングすべき業務である。社内スタッフである必要はない。

【データアナリスト】

大量のハウスリストからある象限を見つけ出すことが出来る人。ピボットテーブルなどの統計ツールが大好きで、データマイニングなどをロジカルに理解できる数学的な素養を持っている事が重要になる。
重回帰分析などを繰り返して、それをレポートする人で、悪く言えば「統計おたく」。

「顧客ではあるがCSが低い人」「もうひといきでクロージングなのに営業がフォローしていない人」「真剣に買い替えを検討している人」「現状のサービスに不満を持ち、会社からのメールなどをほとんど開封すらしない人」などを塊として見つけ出すことが出来る人である。

統計学を専門に学んだ人よりは、社内のWeb関連の部署でアクセスログの解析などで良いレポートをしてくる人材がいたら可能性があるかもしれない。
※極めて専門性が高いので社内で抱えない方が良い。 

【キャンペーンディレクター】

マーケティングプランを実行する担当者なのでプランナーが兼務も出来るが、このポジションに必要なのはディレクションスキル、つまり多数の専門家をひとつのプロジェクトの中で「仕切る」力(管理能力)で、アイデアマンで在る必要はない。そういう意味でプランナーと兼務できるかどうかは性格次第だろう。
スケジュール、予算、クオリティなどを高いレベルで管理しなければならないので、プロジェクト管理能力が高くないと務まらない。

またSFAマスターや営業スタッフとのコミュニケーションの窓口になるので、ある程度のキャリアが必要になる。売る商品の知識も営業のプロセスの理解も重要になるので、アウトソーシングする場合でもイベント毎のコンペなどで選定するのではなく、最低でも年間で契約しマーケティングの年間のプランニングに参加させるべきポジションだ。

※ 社内スタッフである必要はないし、恒常的にキャンペーンを行っているわけではない企業ならむしろアウトソーシングすべきだろう。

データベースマーケティングに必要なスキル(セールスサイド)
【SFAマスター】

これは前回(マーケターとセールスの間に横たわる深くて暗い谷【SFA編-前編】)で書いたように豊富な営業経験のある人材のポジションである。

狩場を俯瞰的に見て的確に指示を出す、マタギで言えば「シカリ」にあたる人物で、基本的に営業部門のマネージャーが望ましい。部下の営業チームの行動と心理を理解し、商談フェーズごとの顧客の特性や行動パターンを知り尽くし、的確な指示を出し、商談の中の隠れたリスクを発見し、それを回避する指示を出せる人材である。

社内の営業チームをエリア(地域別)やインダストリーカット(産業別)で持っている場合や、直販部隊と代理店を併用している場合は有望見込み客の担当振り分けの権限もここに集約されることになる。
※ 社内スタッフで、セールス部門の現役かOBであることが必要。間違ってもセールス以外の部門(情報システムなど)から選んではいけない。

【アシスタント】

これはいわゆる営業アシスタントで良く、必ずしも社員の必要はない。必要なスキルはオンラインコミュニケーション、エクセル、Telコミュニケーションスキル(アポ取り等を代行する場合あり)等。
ただし、営業スタッフとSFAを結ぶハブになり、コミュニケーションが最も多いポジションなので、その適性だけはしっかりと見たい。営業と折り合いが悪い場合はただちにスイッチすること。
※派遣でもパートでも良いが常時社内にいる必要がある。

この6人でマーケティングラインとしての運用チームを組めば成功できる可能性は非常に高い。
もちろん全て社内スタッフを割く必要はない。
社内・外で必要なスタッフィングが必要な時までに調達出来るかどうかが、成否を分けるのだ。

いずれにしても少数しかいない社内のマーケティングスタッフの貴重な時間の大半を、フラグ立てなどの「作業」に使うのだけは避けなければならない。
「イベント企画を考える」「キャンペーンのディレクションを行う」「セミナーの仕掛けを考える」「Webサイトのアクセスログ解析を行い、サイトを進化させる」という本来の業務に時間を使える環境を与えなければ、SFAへの投資もまったく無駄になってしまう。
優秀なマーケティングスタッフであるなら尚更その優秀な「頭」を活用することを徹底すべきだと思う。

日本企業の営業現場にはまだ科学のエッセンスがほとんど入っておらず、改善出来る余地は驚くほど多い。そのためにSFAやCRMなどの導入を検討する企業が増えているのだが、これを成功させ目的どおりに営業を効率化するためには、実務面での運用を第一に考え、営業のフェーズごとの変化やその担当する人材の気質の違い、機能や役割分担を踏まえて自社独自の「マーケティングの設計」をやり直し、使う道具(ソリューション)の用途や特性を良く理解し、それを踏まえて選定を間違えないことが前提になるだろう。

「目的」と「手段」と「道具」を明確にして現場の「要素分解」を心掛けてラインを設計すれば、必ず効率的なマーケティングが展開できるはずである。

要点は、本来「セールスが効率的に販売できるための見込み客の収集と絞込み」というミッションを持っているはずのマーケティングと、その後工程を受け持つセールスの間に大きな溝があるという日本の現場の問題を解決する具体的な方法は「マーケティングラインの再構築」だということだ。
そのマーケティングの設計における「要素分解」に関してはいずれ解説していくつもりだ。

【マーケターとセールスの間に横たわる深くて暗い谷】というテーマで4回にわたり日本企業のマーケティングの現場をレポートした。

「マーケは楽し」というタイトルのわりに、現場の苦悩をお伝えすることから連載をスタートすることになってしまったので、次回はマーケティングの醍醐味について、古今の歴史を踏まえて書いてみようと思う。