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ホーム > 講座 > ノヤン先生のマーケティング講座 > GEの医療機器戦略に見るマーケットインとプロダクトアウトの思考回路

2007.01.22

競合企業に大勝利したGE(ゼネラル・エレクトリック社)のマーケットイン的な思考回路とは?顧客視点で見ることがいかに大切かを事例で紹介します。

新年おめでとう。
みなさん元気に新年を迎えたかの?
ワシャ、棲家にしておるシンフォニーの森の大ケヤキの梢から初日の出を拝んだワイ。
気持ちが良かったのぉ。

さて、新年に相応しいテーマを考えたんじゃ。
「マーケットインとプロダクトアウト、その思考回路と悲しい現実」じゃよ。

昨年の6月に世界のマーケティング界に大きな影響を与えた「マーケティングの巨人」とも言えるセオドア・レビット博士が亡くなったんじゃ。
40年も前に「企業の最も重要な資産は顧客情報である」と喝破し、今日のデータベースマーケティングの礎を創った人なんじゃ。

実はワシはinternet.comというオンラインメディアにコラムを持っていたのじゃが、そこでレビット博士がその著書で世界に広めた「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という格言を紹介したことがあるんじゃ。

正しく引用すると「昨年、4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したからである」というレオ・マックギブナという人の言葉で、1968年にレビット博士が発表した「マーケティング発想法」という本の中で紹介したんじゃ。これが世界中に広まってマーケターにとって最も重要な格言のひとつになったんじゃよ。

この格言が言わんとしてることは顧客の立場に立って、顧客の視点で考えなさい、ということに他ならないんじゃ。
ドリルのスペックはもちろん重要じゃが、メーカーの信頼性、モーターや回転速度、充電時間などのスペックは顧客にとっては2の次のことが多いのも事実なんじゃ。顧客にとって重要でないことを一生懸命説明するのはプロダクトアウト的な思考回路のなせる業なんじゃよ。セールの対象になっているディスカウント商品をせっせと紹介するのも同様にプロダクトアウトなんじゃ。「在庫を掃きたい」か、たくさん売ってメーカーからの販売奨励金をもらおうという「売る側だけ」からの視点じゃからな。

マーケットインの発想とは、先ずマーケットに真摯な関心を持つことから始まるんじゃ。その顧客が「どんな大きさの穴をあけたいのか」「穴を空ける相手の材質は何か(木材か、コンクリートか、鉄板か)」「誰が使うのか(屈強な男なのか、女性なのか、子供なのか)」「数個の穴をあければ良いのか、毎日多くの穴をあけなければならないのか」あるいはそもそも「何をするための穴なのか」という目的まで踏み込んで聞かなければ顧客がドリルを買いにきた本当の理由を理解できないかも知れないじゃろ。それがこのレビット博士が紹介した「顧客が欲しいのはドリルではなく穴」という言葉なんじゃよ。

実はの、BtoBの世界ではマーケットインの思考回路で大きな成果がいくつも出ているんじゃ。そのひとつ「GE(ゼネラル・エレクトリック社)の医療機器戦略」を例に説明しようかの。
かつてGEが東芝やヨーロッパの医療機器メーカーとCTスキャンの開発を競っていた時のことじゃ。競合企業は「解像度」と「撮影スピード」にこだわって最高度の製品を開発しようとしていたんじゃ。この時の競合企業のエンジニアたちは技術的な開発競争に没頭して、プロダクトアウトの思考回路に陥ってしまい、肝心のマーケットの事を忘れてしまっていたんじゃな。

一方のGEは医療の現場にいる医師やエンジニアたちが実際はどこまでの解像度を求めているのかを徹底的に調査したんじゃ。そのやり方たるやたいしたもんでの、アメリカ東海岸のある工場内にそっくり入院や手術が出来る病院を作ってしまい、そこに本物の医師と本物の患者を連れてきて実際の治療を行いながらデータを収集したんじゃよ。マーケットの声に徹底的に耳を傾けたんじゃな。

その結果わかったことは、現場の医師はCTスキャンの「解像度」や「撮影スピード」に関してはその時点でGEが到達していたレベルで十分満足しており、それ以上は望んでいない、ということだったんじゃ。そしてもうひとつGEはこのリサーチプロジェクトで貴重なマーケットの声を手に入れたんじゃな。それは、医師が最も嫌うのは機械のメンテナンスや故障で治療や診察のスケジュールに支障が出るということだったんじゃ。
今は病院も競争が激化しており、患者を待たせたりしたら他の病院に取られてしまうんじゃよ。

そこでGEはマーケットイン的な思考回路に基づいて戦略を転換したんじゃ。
解像度を追求することをやめて、その時点の技術で製品を早期にリリースすることにしたんじゃ。その代わり、GE製のCTスキャンにリモートメンテナンス機能を追加して、GEのサポートセンターから24時間監視してオンラインでメンテナンスをする有料サービスを始めたんじゃよ。
マーケットが満足する十分な解像度を備えた機器を、解像度にこだわる競合企業に先行してマーケットに投入し、しかも競合が持っていないリモートメンテナンスサービスでマーケットが最も嫌う機器トラブルを回避する。この戦略でGEの医療機器部門が世界的に大躍進をしたのは言うまでもないじゃろう。

このGEのCTスキャンの開発ストーリーは生産管理手法である「シックスシグマ」の成功事例として語られることが多いんじゃが、ワシはマーケティングの成功事例であり、マーケットイン的な思考回路の大勝利じゃと考えておるんじゃ。なぜなら設計エンジニアのスキルや仕事への情熱、生産管理などでこれほどの差がついたとは思えないからなんじゃ。東芝やその他の競合企業のエンジニアだって心血を注いで設計に取り組んだはずなんじゃが、会社の思考回路が「プロダクトアウト」か「マーケットイン」か、で採用した戦略が異なり、それが結果となって現れた、とワシは考えておるんじゃよ。

その後GEはこのリモートメンテナンスサービスを航空機のエンジンや発電所のタービンなどの分野に応用したんじゃ。飛行機のエンジンに沢山のセンサーを埋め込んで、そこから発信される電気信号でエンジンの調子を24時間監視し、不調な箇所が見つかるとただちに航空会社の整備部門にレポートする。航空会社はその飛行機がまだ空を飛んでいる時にどのエンジンのどの部分が不調かを知ることが出来るので、到着空港に修理部品とエンジニアを待機させておいて、着陸後直ちにメンテナンスすることが出来るんじゃ。メンテナンス時間を圧倒的に短縮し、運行時間を守ることで顧客の信用を失わずにすむのじゃから、このサービスを採用しない航空会社はないじゃろう。発電所を運営している電力会社も同じじゃ。今ではこうしたリモートメンテナンスサービス分野はGEの収益の柱にまでなっているんじゃよ。まったく素晴らしいのぉ。

日本では、残念ながら世の中を見渡すとまだまだプロダクトアウト的な思考回路で溢れておるのぉ。
車のメーカーは自分勝手に販売チャネルを作って同じ地域内で自社ディーラー同士を競わせておるじゃろう。お陰でコンシューマは車の車種とメーカーと販売しているディーラーを覚えなくてはならないんじゃ。マークXはトヨタ製で販売ディーラーはトヨペット、ヴィッツはトヨタ製で販売ディーラーはネッツ・・・こんなことは対応表でもないととても覚えられんじゃろ・・・。

メーカー系の新車ディーラーを向こうに回して中古車業者がこれだけ伸びてきた理由は、ただ新車が高いから、というだけではないんじゃ。メーカーやディーラーの垣根を越えてRVやスポーツタイプなど顧客の見たいと思うコンセプトやライフスタイル別に車を選べる中古車センターはメーカー系のディーラーにはないマーケットインの魅力があるんじゃ。異なるメーカーの車を並べて比較したり、乗り比べたり出来るところに人が集まるのは当然の成り行きなんじゃ。

マーケターたるもの、常にマーケットの視点で自社の製品や販売を見なければいかんのじゃよ。

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