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2008.07.25

ノヤン先生ニューヨークへ行く 2

今が旬の「デマンド・ジェネレーション」。アメリカの専門家を驚かせた日本独自のマーケティング事情を語ります。

デマンド・ジェネレーションの専門家とのミーティング

NY出張報告の第2回目はデマンド・ジェネレーションを専門としている企業を訪問した話からはじめようかの。

BtoBのマーケティングを戦略的に設計すれば、必ずこのデマンド・ジェネレーションを精緻に組み立てる必然性が出てくるんじゃ。セールスのパイプラインはCRMをうまく導入すればなんとかなるんじゃが、その前工程はきちんと仕組みを作らないと機能しないんじゃよ。

先進国のアメリカでは、数年前からこのデマンド・ジェネレーションの専門チームが出てきて活躍しておるので、訪問してディスカッションをしたんじゃ。
マンハッタンに在る中堅規模のマーケティング・エージェンシーと、NYの北隣のコネチカット州に本社を置く30人程のダイレクト・マーケティング・エージェンシーのスタッフが参加してくれたんじゃ。どちらもキャンペーン・マネージメントを得意とし、デマンド・ジェネレーションを売りにしている会社なんじゃ。

セントラルパークからのマンハッタンの景色

セントラルパークからのマンハッタンの景色

昔から広告系の会社はマンハッタンにヘッドオフィスを置くのじゃが、ダイレクト・マーケティングの戦略やデータ管理、フルフィルメント、分析などを行う会社はマンハッタンより、ニューヨーク州北部のウェストチェスターと呼ばれるエリアやコネチカット州、またはボストンの在るマサチューセッツ州に多く点在しておるんじゃ。森の中の高級住宅街に在るオフィスは、外から見ると富豪の豪邸のようにも見えて、その中で数学の秀才達が顧客のデータの分析をしておるんじゃよ。

またインターネットを活用したマーケティング・ソリューションを開発しているベンチャー企業も、ニューヨーク州北部からボストンまでのエリアに多く存在しているんじゃ。マンハッタンには名門コロンビア大学があるし、ボストンにはハーバード大学と理工系では世界の最高峰と言われるMIT(マサチューセッツ工科大学)があって優秀な人材を輩出しているからの。アメリカのベンチャーブームの時にはここらのエリアは西のシリコンバレーに並ぶITベンチャーの拠点として「ルート128」と呼ばれていた程なんじゃ。

そんな彼らの顧客はグローバルに展開しているIT系の企業が多く、もちろん日本も重要なマーケットじゃから、彼らの方でも日本の現在の情報が欲しいらしくマネージャーやプランナーが参加して熱心なディスカッションになったんじゃ。

まず、「デマンド・ジェネレーション」(Demand Generation:案件創出)の説明をおさらいしよう。「デマンド・ジェネレーション」を直訳すると「需要の創出」となるんじゃが、BtoBでは「案件創出」と理解すれば良いじゃろう。
これはおおむね以下の3つのプロセスから構成されておるんじゃ。

  1. Lead Generation(展示会やオンラインでの見込み客の獲得)

  2. Lead Nurturing(見込み客の育成)

  3. Lead Qualification(見込み客の絞込み)

ワシはこの「デマンド・ジェネレーション」という言葉が出てきた意味は大きいと考えておるんじゃ。なぜならば、この言葉が、今までは営業案件の創出と言えば、リストブローカーから条件に合ったリストを購入して、テレマーケティング会社にアポ取りコールをしてもらうことだと考えていたアメリカのマーケターに、そんな焼き畑農法のようなマーケティングではロスが大きすぎるので、しっかり「見込み客の啓蒙・育成」、つまり【Lead Nurturing】をしなければダメですよ、というメッセージになっているからなんじゃ。

アメリカには個人情報保護法が存在しないから、個人情報の販売には法的規制がほとんどないんじゃ。そもそもUSポストオフィスという日本で言えば旧郵政省が最大のリストブローカーなのじゃから、日本との違いがいかに大きいかわかるじゃろう。
マーケティングの先進国であるアメリカのマーケターは確かに優秀なんじゃが、どうも刹那的に短期決戦で成果を上げようとする傾向が強く、せっかく集めたリストを枯らしてしまうような強引なマーケティングプランをよく見かけるんじゃが、こうした「見込み客の育成」というプロセスを大事にするような傾向にあるのは良いことじゃとワシは思うんじゃ。

ただ、今回、このデマンド・ジェネレーションの専門チームとミーティングをして、欧米のマーケティングと日本のマーケティングはますます乖離してきている、と感じたんじゃ。

アメリカではGoogleなどのサーチエンジンから自社のWebにナビゲートし、そこである程度のコンテンツを見せてから、「ホワイトペーパー」(技術的な細部まで記述してある報告書でカタログなどより専門性が高い)、「チャット」、「ウェビナー」(Webセミナー)のいずれかにナビゲートするんじゃ。
そのいずれかのサービスを利用する時に登録画面が開き、ユーザー登録をさせるんじゃな。企業や部署、役職、何に興味を持っているのか、決裁権は持っているか、などを記入させ、その後のWebでの行動から有望度を測定する仕組みが発達しておるんじゃ。こうした仕組みづくりは数年前からはじまっていたのじゃが、今のアメリカはこの方法が一層広まっているんじゃな。

フィフスアベニューのアップルストア

フィフスアベニューのアップルストア

じゃからこのデマンド・ジェネレーション企業のマネージャーは自信たっぷりに、「日本もすぐにこの手法がスタンダードになるよ」などと言うのじゃが、ワシははっきり「そうはならない」と言ったんじゃ。なんと生意気なミミズクじゃい、という顔をしておったの。
今回のディスカッションの中に日本にも現地法人を置くIT企業を担当している人もおって、その人からも改めて「本当にこの方法は日本では普及しませんか?」と質問されたので、ワシは明確に「当分無理じゃろう」と答えたんじゃ。

理由は言うまでもないじゃろう。先ず普通の日本人はチャットはしないんじゃ。ましてやBtoBのビジネスパーソンが勤務時間中にチャットをするようなカルチャーの企業はまずないじゃろう。そもそも日本人には漢字変換というややこしい作業が必要なことを彼らは理解できないんじゃな。何でもかんでも26文字で表現する人たちとは違うんじゃい。しかも会ったこともない人、ましてやお客様になるかもしれない人とチャットをすることは日本のBtoBでは当分無いじゃろうとワシは思うんじゃ。

では、ウェビナー(Webセミナー)はどうじゃろう?
これも日本ではBtoBのマーケティングツールとして普及するかは難しいところじゃとワシは考えておるんじゃ。「YouTube」のお陰で動画投稿サイトは大流行しておるが、BtoBでの活用は、日本と欧米のオフィスの違いを考えると難しいんじゃ。欧米のビジネスパーソンは基本的に個室か、高いパーテーションで仕切られたプライベート重視のオフィスで仕事をしておるんじゃ。

じゃから自分の部屋でPCから音を出すことも、イヤホンをすることもできるんじゃが、日本は基本的に大部屋なんじゃ。良い悪いは別にして、日本の大部屋文化はそう簡単に変わるとは思えないんじゃ。そんな環境でPCから音を出せば、となりの先輩や向かいの怖いお姉さんにニラまれることは目に見えておるんじゃ。ましてやイヤホンをして仕事なんぞしようものなら「返事をしない」「電話を取らない」と散々な評価になるじゃろう。イヤホンで何を聴いているかは他人にはわからんからの。

ならば、ホワイトペーパーはどうじゃろうか?
実は日本の外資系企業のマーケティング担当者をとっても苦しめているのがこのホワイトペーパーなんじゃよ。アメリカ人が大好きなホワイトペーパーを日本人はダウンロードしないんじゃ。そもそも多くの日本人は細かい字で書かれたテキストが嫌いなんじゃ。
Webのレイアウトでも、テキストだけをびっしり書き込んだページはほとんどアクセスされないんじゃな。イラストやグラフを入れ込んで、余白をたっぷり取ったものが好きなんじゃな。じゃからグローバルでWebのテンプレートを統合しようとしても、テキストだらけのWebサイトなんて日本人はアクセスしなくなるんじゃ。

この特性を外国人はなかなか理解できないんじゃな。外資系企業はホワイトペーパーのダウンロード数をベンチマークしている企業が多いんじゃが、それでカウントされると「日本のマーケティング部門は何をやっているのだ」と叱られてしまうんじゃよ。

アメリカ型のデマンド・ジェネレーションでは、この3つのプロセスに反応してくれないとなると、もうお手上げなんじゃな。しかも日本のBtoBではまだまだリスティング広告からのWeb訪問者のユーザー登録率は少ないんじゃ。ページビューは稼げてもリード(見込み客)を獲得するのは難しいということなんじゃな。

ただ、このディスカッションに参加していたあるアメリカ人は「日本人はすぐに日本は違う、自分達は特別だと言うけど、何がどう違うのか、合理的な説明を誰もしてくれないので困っています」などと言い出したので、日本語の名寄せの難しさなどを事例を挙げながら丁寧に教えてあげたのじゃ。住所表記の揺れ(1-2-2、一丁目2番2号など)、名前の漢字表記の揺れ(齋藤、斎藤、斉藤など)、社名の揺れ、などを見て彼らは「日本語は暗号なのか?」と呆れておったんじゃ。

元々、26のアルファベットとローマ数字だけで全てを表現する欧米と、漢字、カタカナ、平仮名、アルファベット、漢数字、ローマ数字、時にギリシャ数字などが不規則に入り乱れる日本とでは、データ管理の難易度が全く違う上に、個人情報保護法という欧米には無い法体系があるだけでも十分ややこしいのに、マーケティング手法そのものの方向性がここまで乖離してくると、本当に日本の特殊性とその対応策を論理的に説明できるようにしないと、米国やヨーロッパ本社の連中にはさっぱり理解できないじゃろう、と実感したもんじゃわい。

まぁそんな訳で、BtoBのデマンド・ジェネレーションは、日本では欧米とは違ったスタイルで独自の方法を実践するしかない、と改めて思ったんじゃ。

ミーティングの最後に、シンフォニーマーケティングが編み出して実践している手法をこのNYのデマンド・ジェネレーションチームに説明したんじゃ。我々は日本でこんな風にやってうまくいっておるんじゃよ、という感じじゃな。
彼らのびっくりした顔を見せたかったわい。マーケティング後進国だとばかり思っていた日本で、ここまで精緻に見込み客の育成段階を可視化して数値検証できる仕組みがあるとは、参加者の誰一人もが思ってもいなかったんじゃな。本当に驚いておったわい。「鼻をあかした」というやつじゃな。ワシはちょっとばかり鼻が高かったんじゃ。

もちろんアメリカのマーケティングのソリューションやメソッドにはまだまだ学ぶべき点は数多くあるんじゃが、猛烈な勢いで追い上げているチームが日本にもあるということを知らせたかったんじゃい。

セントラルパークから見たプラザホテル

セントラルパークから見たプラザホテル

アメリカのマーケティングチームと話していていつも思うのは、彼らは自分たちのモデルを最高と信じて、他の国や地域に無邪気に押し付けようとすることなんじゃ。じゃから外資系の日本企業のマーケティング部門にいる人は、日本の特殊性を論理的に説明する準備をしておかないと、ある日突然、日本では使いものにならないツールや手法を押し付けられることになってしまうんじゃ。
ジパングは別の世界なんじゃよ。

次回はいよいよ、世界のデータベース・マーケティングの総本山、DMA(ダイレクトマーケティング協会)の本部の訪問の事を書こうと思っておるんじゃ。ではでは。

続く

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