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2009.03.23

セグメンテーションの落とし穴。事業を近視眼的に定義していませんか?

自社の事業の定義を近視眼的に決め付けてしまうと、どんなに大成功している企業でもあっという間に、別の会社に追い抜かれてしまうことがあります。そんな状況に陥らないために、気をつけるべきポイントとは?

こんにちは ノヤンじゃよ。
すっかり陽が伸びて、花粉の季節がやってきたの。ワシはミミズクのくせに酷い花粉症なので、この時季は森にも帰れず、都内で空気清浄機を全開にした部屋にこもっておるんじゃ。トホホじゃの。

さて、前回はマーケティングの基本中の基本である「STP」の最初のセグメンテーションについて書いたのじゃが、非常に多くの人に読んでもらったようで、ワシは嬉しかったんじゃ。「STP」こそマーケターがいつも頭に留め置かなければならない事じゃからの。

そこで、今回ももう少しマーケットのセグメンテーションを掘り下げてみようと考えておるんじゃ。
みなさんはご自分の会社の事業の「定義」について考えたことがあるかの?

偉大なマーケティング学者のひとり、セオドア・レビット博士がマーケティング界で一躍脚光を浴びたのは、博士が1960年に発表した「マーケティング近視眼」という論文だったんじゃ。
その中に、かつて隆盛を誇った鉄道会社がなぜ、バスやトラックなどの運送会社や航空会社に進化できなかったか、を題材にした一節があるんじゃ。

広大な北アメリカ大陸の物流はまず駅馬車網でネットワークされたんじゃ。馬6頭が引く馬車で、御者を除く4〜6人の人と郵便を含む荷物を運ぶことができたんじゃ。西部劇でいつも盗賊に追いかけられているあれじゃな。
駅馬車網が確立した後から少しづつ鉄道が敷かれたんじゃが、一旦鉄道が敷かれて列車が運行されるようになると、その輸送力とスピードに圧倒され、駅馬車会社は次第に姿を消していったんじゃ。
輸送というマーケットのチャンピオンに鉄道会社が君臨したんじゃな。

しかし、アメリカはヨーロッパと違って広大な平原の中に町が点在しているので、限られた路線でしか人や物を運べない鉄道よりも道路さえあればどこでも行ける自動車の方が利便性が高かったんじゃ。
じゃから、自動車が普及し、道路網が整備されると人や物の輸送手段はどんどんバスやトラックに奪われていったんじゃ。さらには飛行機の時代になって、これにも多くの顧客と荷物を奪われてしまったんじゃよ。結果的にアメリカでは鉄道は輸送業の中のマイナーな存在になってしまったんじゃ。

これをレビット博士はその論文の中で、鉄道会社の経営者の「近視眼的思考」が招いたことと解説しているんじゃ。

もし、鉄道会社の経営陣が、自社の事業ドメインを「輸送」と定義し、鉄道をその手段のひとつと考えておれば、自動車が発明されれば自動車を、飛行機が実用化されれば飛行機を輸送の手段として取り入れていたはずなんじゃ。ところが、彼らは自分たちの事業を「鉄道で人や物を運ぶこと」と狭義に定義してしまったがために、せっかくの巨大なビジネスチャンスを逃がし、マーケットを新参者に奪われ、本来自分たちが先駆者であり、勝利者であった「輸送」というマーケットでそのシェアをどんどん失ってしまったのだ、と喝破しておるんじゃ。

このレビット博士の論文はP・コトラー博士が「STP」を明確に定義する以前に書かれたものじゃが、まさに「STP」がマーケティングだけでなく、経営そのものの根幹を成す重要課題だということを示唆しておるとワシは思うんじゃ。

この話は駅馬車や鉄道を例にしてあるので、40年以上前の古い論文として考えてしまうかもしれんが、これは今でも、我々の目の前のあちこちで起こっていることなんじゃ。

1900年代の後半、アメリカの書籍販売の分野では「Barnes&Noble(バーンズ&ノーブル)」という巨大な企業が全米に約800店舗を展開して王者として君臨しておったんじゃ。このBarnes&Nobleは映画「ユー・ガット・メール」でトム・ハンクスが経営する会社のモデルにもなった大型書店チェーンで、ニューヨークのマンハッタンだけでも多くの店舗を展開しておっての、特にリンカーンセンターの店やブロードウェイの82丁目にある店はマンハッタンの中でもワシの大好きな場所のひとつなんじゃよ。

広い店内に座り心地の良いたくさんのソファーとスターバックスのショップを持つこの書店は、店内で何時間立ち読み(座り読みじゃな)をしても良く、店内のスターバックスに持ち込んでそこでコーヒーを飲みながら読書をして、読み終わったら本を書棚に戻してコーヒー代金だけ支払って帰ってもOK、という店なんじゃ。じゃから広い店内にレジコーナーは大抵1ヶ所しかないんじゃ。本当に居心地が良いので、ワシもいつも長居をしてしまうんじゃ。しかも平日は夜の12時まで開いているので、ゆっくり好きな本を探して店内を楽しめるんじゃよ。

でも、この書籍販売のガリバー的な存在であったBarnes&Nobleも自社のビジネスドメインを「書籍の店頭販売」と定義していたんじゃな。つまり自社のマーケットを店頭販売だけ、と定義しておったんじゃ。
毎年数万点の書籍が発売されるにも関わらず、どんな大型店舗でも店頭在庫は20万点が限界と言われている中で、この「店頭販売」という定義は競合がビジネスチャンスを見つける「余白」を与えることになったんじゃ。

1995年に投資銀行出身の青年ジェフ・ペゾフがワシントン州の自宅のガレージでオンライン・ブックショップをはじめた時も、Barnes&Nobleは気にもしなかったんじゃ。なにしろペゾフはこのビジネスをはじめるまで金融関係の仕事しか経験がなく、書籍流通の経験も知識も人脈も無かったんじゃからの。

Barnes&Nobleが自社の事業を「書籍の店頭販売」と定義したのに対してamazonは「オンライン小売業」と定義したんじゃろう。同じ「本」を販売する事業でありながら事業の定義、つまりマーケットのセグメンテーションはまるで違っていたんじゃ。
amazonはあっという間に成長し、わずか数年で売上1000億円を越える規模になって書籍マーケットのシェアを猛烈な勢いで侵食しはじめたんじゃ。慌てたBarnes&Nobleも子会社を作り、外部から経営者を引っ張ってきてインターネット上でのオンライン販売を始めたんじゃ。

その当時、ワシはどっちが勝つか興味津々で両者をウォッチしておったんじゃよ。

amazonはピュア・オンラインビジネスで店舗の代わりにアフィリエイトプログラム(amazonではアソシエイトプログラムと呼ぶ)という新しいマーケティング手法を駆使して顧客を急激に増やしていたんじゃ。
それに対してBarnes&Nobleは店頭で本を購入する人を中心にポイントシステムと組み合わせてオンライン会員を獲得していたんじゃな。本が好きでBarnes&Nobleが好きな人に、店舗に来る以外のアクセスを提供したんじゃ。当時は「クリック&モルタル(オンラインとリアル店舗の組み合わせ戦略)」の代表的な事例として注目されていたんじゃよ。それにBarnes&Nobleには顧客と資金力、800店舗のために常備している在庫、書籍販売に関する圧倒的なブランドと、長年培った書籍流通のノウハウがあったんじゃ。正直どちらが勝者になるかワシにも判らなかったんじゃよ。

でも、この勝負はあっさり決まってしまったんじゃな。

Barnes&Nobleのオンラインビジネスがリアル店舗とのバランスをとることにモタついている間にamazonはあっという間に売上3000億円を突破して書籍販売の首位を独走しただけでなく、世界中に展開し、今では売上が2兆円に迫る巨大企業に成長してしまったんじゃ。日本でも2000年からサービスを開始したんじゃな。商品構成も書籍から音楽CD、DVD、そして家電、家具、アウトドアなどにまで広がり、文字通り「オンライン小売業」の王者として世界に君臨しているんじゃ。
実はワシもこの便利この上ないサービスのお陰で少し本を買い過ぎておるんじゃ。口座からの引き落としが恐ろしいんじゃな。

この両者の戦いをリアルタイムで見ながらワシは「マーケティング近視眼」でレビット博士が指摘した、「自社の事業を近視眼的思考で定義」することの恐ろしさを改めて思い出したんじゃ。
マーケットのセグメンテーションを誤ると圧倒的なインフラや資金力やブランドを持っていても、あっという間に敗れ去る、という事例が目の前で展開されたんじゃよ。
つまり重要な視点は「事業の定義」であり、それを受けての「マーケットのセグメンテーション」なんじゃ。

じゃから、経営者やマーケターは常に以下の質問について考えなければならないんじゃ。

「あなたの会社の事業の定義はなんですか?」
「あなたの事業にとってそれは目的ですか?それとも手段ですか?」

鉄道会社の事業は「輸送業」であり、鉄道も自動車も飛行機も船もその手段、書店の事業は書籍を販売することであり、書店もインターネットもその手段のひとつなのじゃ。

手段には代替手段があって当たり前なんじゃな。

というわけで、時には自分の会社の事業を高い空の上の鳥の気持ちになって俯瞰的に見てみることもマーケティング担当者の重要な仕事なんじゃよ。

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