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2009.09.18

【SFA導入の落とし穴-1】営業のコアタイムを侵食したSFAは定着しない!

SaaSタイプのラインナップが増え、SFA導入企業が急拡大しています。しかし運用・活用にはいくつかの落とし穴が在るのです。

不況から抜け出しつつある日本ではSFA(Sales Force Automation)を導入する企業が増えておるようじゃな。
これはマーケティングから見てもとっても良いことなんじゃよ。何故ならば、マーケティングチームが「育成・絞り込み」した有望見込み客リストから何件が案件化し、どの案件が今どのステータスなのかを知る手段は、SFAのパイプラインを見るのが最も確かじゃからなんじゃ。

さて、少しだけSFAについておさらいをしようかの。
そもそもSFAとは「営業を可視化し、案件を管理する」ために作られた素晴らしいビジネスツールなんじゃ。
かつてはクラリファイ、ヴァンティブ、シーベル、ピボタルなどのブランドがこのツールの代表じゃったが、この10年でM&Aが進みブランドも一新されてしまったんじゃ。今ではセールスフォース(SFDC)、オラクル・オンデマンド、シーベル、MSダイナミクスCRM(マイクロソフト)などが主流ブランドじゃな。

営業の状況を可視化することが目的なので「見える化ツール」とか、営業案件には担当営業がひもづいているから「営業マン管理ツール」とも呼ばれるし、透明のパイプの中で可視化しながら案件を管理するイメージがあるので「パイプラインツール」とか、営業のプロセスを細分化して管理したい場合は「プロセスマネージメントツール」とか、「商談管理ツール」とか様々に呼ばれておるんじゃ。

企業はなぜ、大きな投資をし、営業部門に「入力」という負荷を掛けてまで営業案件を管理する必要があるのかの?

それは、企業にとっては、営業案件を管理する以外に売上げを予測し、事前に手を打つ方法が無いからなんじゃ。
原材料の仕入れ、在庫の調整、生産ラインの組み換え、加工業者への発注、サポート要員の確保など、受注が読めないと企業としてはリソースの配分ができないんじゃ。これは企業経営には致命的な問題なんじゃよ。
製造業や卸売業ばかりではなく、サービス業でも同じことじゃ。

例えば人材派遣ビジネスの場合、受注したら派遣しなくてはならないから、受注に先行して派遣登録者を確保する必要がある。基本的に雑誌広告などで集めるから登録者の確保は言わば「在庫」を抱えることになるんじゃ。過剰な登録者を抱えていても無駄じゃから、常に数ヶ月先の需要を先読みして募集広告を調整しなければならないんじゃ。数ヶ月先の需要を正確に読むには、マクロ経済ではどうにもならんから、自社の営業部門の案件を管理するしか方法が無いのじゃよ。
仕入れの手配だけではなく、もし営業のプロセスがブラックボックスで見えない状態なら、どこで渋滞しているのか、減衰しているのかがわからず、売上げが足りなくても全く手が打てないんじゃ。こうなると企業は営業要員を増やす、という最も危険な方法で対応するしか無くなってしまって業績を悪化させることにもなるんじゃな。

ワシは、どのブランドか、または自社開発したシステムかは別として、ある程度以上の規模の企業の大半はSFAを導入し、これを利用して営業の状況を可視化するようになると考えておるんじゃ。営業のインテリジェンスを強化するにはこれしかないからの。

しかし、なんでもそうじゃが良いことばかりではないんじゃよ。
営業案件を管理しようとすると、「人間は基本的に管理されることが好きではない」という現実に突き当たるんじゃ。しかも、腕の良い営業であればあるほど「管理されることが大嫌い」なものなんじゃよ。自分で交換した名刺、人脈、アポイント、訪問記録、案件、隠し玉、などはすべて自分に帰属する私有財産だと思っている人が営業には多いのじゃよ。
これを全部吐き出させて、営業に関する情報を共有で管理するツールがSFAじゃから、その面では営業にとっては必ずしも素敵なものではないんじゃよ。

こうした事も原因となって、SFAを導入する企業が増えれば増えるほど、導入しても活用できない、運用できない、という話を多く聞くようになったんじゃ。SaaSタイプだからもし使えなければ解約すれば良い、というのは高いパッケージを買って大損をしなかった、というだけの話で、そもそもSFAで解決しようとした問題は何も解決されることなく残ることになるんじゃから不健全極まりない話なんじゃ。

SFA導入企業が運用を失敗する原因を大きく分けると「営業のコアタイムを侵食した結果」と「SFAの不得意な機能を使う」という2点が最も多いように見えるので、今回と次回でこの問題を考えてみようかの。

今日はまず「営業のコアタイムの侵食」から説明しようかの。
SFAを導入した企業で、担当者のこんなぼやきを聞いたことがないかの?

「そもそもウチの営業はマジメに入力しないのです」
「住所や名前などの入力ルールを守らない」
「人や部門によってルールの徹底にばらつきがある」
「案件のステータスのルールを徹底できていないので同じ案件が人によってAだったりBだったりする」
「社名を略式表記で入力するので名寄せができない」
「誤入力が多くて、特にメールアドレスが使い物にならない」
「古い名刺を気まぐれに入力するので、古い名刺で最新の名刺を上書きしてしまう」

こうした問題はSFAを導入した企業ならどこでも抱えているものなんじゃ。

一方、営業の現場では「昼間から会社でパソコンを叩いているとは何事か!訪問しろ!電話を掛けろ!」と叱り飛ばす人もいて、慣れない入力作業を押し付けられた現場はますます混乱するんじゃ。実はこんな鬼軍曹タイプの人がいる営業部隊ほど売上げは高いものじゃから事態は益々深刻なんじゃよ。
こんなことが続くと、SFA導入を主導した情報システム部門と営業部門がすっかり険悪な状態になるのは当たり前で、コンサルテーションのスタートが喧嘩の仲裁から、というケースも一度や二度ではないんじゃよ。

ではなんで営業部長はそんなに怒っておるのかの?
「営業マンに毎日SFAに入力させる」という行為を営業部長の立場から見ればその怒りが理解できるじゃろ。

例えばある平均的な営業マンが1日に3件客先を訪問し、来週のアポイントを埋めるために10件に電話を掛け、担当している10件の顧客と電話で会話し、2本の見積もりを書いてメールで送信したとしようかの。これらの営業活動を夕方に帰社してから入力する訳なんじゃが、もちろん簡単な作業ではないんじゃ。

朝の電話の会話を完全に覚えているかと言えば中々難しいじゃろうし、掛けるだけでなく、掛かってくる電話もあるから益々思い出すのが大変なんじゃ。日本の営業マンは移動しながら携帯電話で話すことが多いのでいちいちメモも取れないし、例えノートPCを持っていても、電話のたびにカフェに入ってコーヒーを飲むわけにも行かんじゃろ。電波状態も良い場所ばかりではないし、しかも最近はセキュリティの問題でノートPCを持ち出させない企業が増えておるから益々帰社してからの入力作業が増えるんじゃよ。
お客さんと一杯飲んで直帰でもしようものなら翌日には2日分を思い出さなくてはならず、こうなるともう拷問のような気分になるんじゃ。かくして営業マンは毎日夕方の2時間、3時間をSFAの入力作業に費やすことになるんじゃよ。

1人毎日2時間なら21営業日として月に42時間、年間で504時間、営業部門に40人が在籍していれば年間20,160時間をSFAの入力に割いている計算になるんじゃ。1日の労働時間を8時間とすれば、この40人の営業チームはまるまる10人分の年間労働時間をSFA入力に使っている計算になるんじゃ。この時間を客先の訪問に使えばどれだけ売上げに繋がるか・・・普通の営業部長ならそう考えるじゃろ。

「どうしてもルールを守って毎日入力しろと言うならウチの部門の売上げ予算を25%引き下げてくれ」というのが営業部長の最後のセリフなんじゃ。これは十分に根拠の在る数字なんじゃよ。
でも売上げ目標を25%も引き下げてまでSFA入力を優先させる企業は稀なんじゃ。多くの場合は「まぁまぁそうムキにならんでも・・・」となって入力ルールは緩くなる。
言うまでもなく、緩いルールは存在しないとの同じなんじゃ。

こうした場合、ワシは先ず入力項目を出来るだけ減らすことと、名刺などの基本情報の入力は専門業者やアシスタントの仕事として営業マンには入力させないように業務フローを変えることから始めるんじゃ。
すると情報システム部門からは「アンタはSFAの導入コンサルのくせに営業部門の肩を持つのですか?」なんて怒られてしまうし、経営層からは、「自分で交換した名刺をその日の内に営業本人が入力するのは当然でしょ」なんて言われてしまうんじゃよ。

そんな時、ワシは「そうではありません。私は売上げと最も強い因果関係を持っている【営業のコアタイム】を削らないように注意を払って入力項目やフローを見直しているだけです」と丁寧に説明するんじゃ。

【営業のコアタイム】とは「顧客と会っている時間」「顧客と電話している時間」「顧客にメールを書いている時間」など「直接顧客とコンタクトしている時間」のことなんじゃ。営業の行動を解析すると判るものじゃが、ほとんどのBtoB企業では、この「営業のコアタイム」と売上げは最も強い因果関係で結ばれており、大抵は正比例するものなんじゃ。
ニーズが無ければ顧客が時間を作って会ってくれることは無いし、ルートセールスだとしても、用が無ければ客先の滞在時間や電話の通話時間は短いはずじゃからの。

その反対の「営業のノンコアタイム」とは移動時間、デスクワーク、社内会議、見積もり作成、などでもちろんSFAへの入力時間も代表的な「ノンコアタイム」なんじゃ。これらの「営業のノンコアタイム」は売上げとの因果関係はほとんど無いんじゃよ。
忙しそうにしている割に売れない営業は、ほぼ例外なく「営業のコアタイム」が短く、「ノンコアタイム」にたっぷり時間を掛けているものなんじゃ。
顧客より業者さんと、社外の人より社内の人とのコミュニケーションに時間を使っておることが多いし、アポイントの段取りが悪く移動時間にも途方も無い時間を使っているものなんじゃ。ここにメスを入れずにSFAの入力ルールを厳しくすると、こうした「営業のノンコアタイムで忙しくしている人」つまり「忙しぶっている人」に素敵な隠れ蓑を提供することになってしまうんじゃ。

そして何より怖いのは「売れている営業マン」から「営業のコアタイム」を奪ってしまうことなんじゃ。これは売上げに直接ヒットするし、トップセールスのモチベーションをどんどん下げてしまうから会社にとっては致命的な事態なんじゃ。

実はこれがSFAの運用を止める最も多い原因なんじゃよ。
会社は理由の判っている経費の増大には耐えられても、理由の判っている売上げの低下には耐えられないものなんじゃ。

じゃから「営業のコアタイム」には最新の注意を払わなければならないんじゃ。
使うかどうかも決まっていない項目をやたらと必須項目にしてしまうのはこういう危険が在るんじゃよ。
それに、疲れた営業が早く帰りたくて急いで入力したことが原因で発生する誤入力された名刺データが、後の運用でどれ程業務の足を引っ張るかも実際に運用を経験しないと判らないものなんじゃ。

SFAを導入した企業が期待していることは「営業の生産性を上げる」ことなんじゃよ。「営業の生産性」とは「営業のコアタイム」を増やすこととほとんどイコールなんじゃ。
じゃから、SFAの導入では、可能な限り営業のコアタイムを侵食しないように業務フローを設計しなければならないんじゃよ。

次回は、「SFAの不得意な機能を使う」というもうひとつの深刻な問題を考えてみようかの。

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