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2010.04.21

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)とそれぞれのマーケティング戦術

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントを前提にして、事業や製品のポジションを客観的に観てみれば、マーケティングで強化すべきポイントがきっと見えてきます。

マーケティング戦略を立案する上で、担当する事業や製品・サービスの市場でのポジションを把握することは必要不可欠なことじゃ。このプロセスを端折って戦略を立てるということは、病院に運ばれてきた患者を診断もしないで、いきなり治療することに似ているんじゃ。「お腹が痛い」と言っているからといって、便秘の人に下痢止めを投薬したり、下痢で苦しんでいる人に下剤を飲ませたりしたら大変なことになってしまうじゃろう。だからちゃんと診断して、症状を確認してから治療を始めることが重要なんじゃ。
今日はその診断のためのフレームワークのひとつ、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の話をしようと思うんじゃ。

「経営とは経営資源の再分配である」という言葉を聞いたことがあるじゃろう。
ここでいう経営資源とは人、物、金、設備、販売チャネル、ブランドなどすべてじゃな。これらの配分を最適化するには、自社の事業や製品の、それぞれの市場でのポジションを正確に把握することが重要で、また非常に難しいことなんじゃ。
ましてや、多くの事業や製品群を持つ現代の大企業にとって、お金や人などの経営資源をどう配分したら良いのか、が最も重要で経営に決定的な影響を及ぼすテーマなんじゃ。
もし、単純に現在収益を稼いでいる事業だけに経営資源を集中配分すれば、企業の未来を創るための新規事業への投資が出来なくなってしまうし、将来有望な新規事業でさえ収益がまだ上がらないという理由でどんどん撤退に追い込まれるじゃろう。

こうした問題で最も頭を悩ませていたのは、1960年代後半に当時170以上もの事業を抱えていた巨大企業のGE(ゼネラル・エレクトリック)だったんじゃよ。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(以下PPM)は、彼らがこうした問題を解決するためのツールとして、アメリカの大手戦略コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)やマッキンゼー・コンサルティングと開発したフレームワークなんじゃよ。

PPMは縦軸に市場の成長率(可能性)を、横軸に自社のシェア(競合優位性)をとって、4つの象限を作成し、そこに自社の事業や製品をプロットして分類していく手法なんじゃ。
4つの各象限 を、【問題児:problem child】、【花形:star】、【金の成る木:cash cow】、【負け犬:dog】と名付け、それぞれの象限ごとに経営資源の分配をベースにした戦略・戦術を立案していくんじゃよ。

では一緒にそれぞれの特徴とマーケティング戦術を見ていこうかの。

問題児:problem child

ここにプロットされた事業や製品は、市場の成長率は高いが自社のシェアは高くない事業や製品で、成長するためには今後大きな投資を必要とするんじゃな。
市場の成長率が高いので、シェアさえ拡大できれば「花形」に成長できる可能性もあるが、経営資源を投入すれば育つという保証は無いので、経営判断が最も難しい象限なのじゃよ。経営者の腕の見せどころじゃの。

ベンチャーキャピタルや、ネット関連事業など、そのビジネスの性格上「数多く張る」ことが必要な事業では、ここを大量に抱えないとダメなんじゃ。この象限を「金喰い虫」「大喰らい」などと表現することもあり、経営戦略のセオリーでは「もし育つなら食わせてやれ」と言われておるんじゃ。育つかどうかの見極めがとっても重要じゃな。
ここのマーケティングは、シェアを急速に拡大しなければならないので、展示会やリスティング広告でアグレッシブに見込み客リストを収集(リードジェネレーション)し、メルマガやセミナー、Webで育成(リードナーチャリング)して直販営業チームや販売代理店を支援しなければならないんじゃ。

マーケティング部門が「営業案件創出マシン」として最も活躍し、費用対効果が最高のパフォーマンスになるのは、担当する事業や製品がこの象限にある時なんじゃよ。

花形:star

市場の成長率も高く、自社のシェアも高いため、今後も多くの収入を見込める象限じゃから、ここにプロットされた事業や製品はその企業にとって最も重要な事業や製品・サービスと言えるじゃろう。ここは「絶対に守りぬく」ということが何より重要なんじゃ。
ただし、成長率が高いということは競合にとっても魅力的な市場であるため、既存の競合はどんどん新製品を投入してくるし、新規参入も多いので、現在のシェアを守り抜くためにはかなりの投資も必要で、売上げは上がっても利益という点ではそれ程の貢献は望めないんじゃ。しかし、この市場が成熟し、この象限の事業が将来「金の成る木」になるためには、今投資を繰り返してシェアを維持しなければならないんじゃ。つまり決して負けることを許されない象限なんじゃよ。

ここで活躍するのが、CRM(Customer Relationship Management)じゃ。そもそも顧客との関係を管理するためのソリューションがCRMじゃから、顧客を守り、クロスセル・アップセルで顧客との関係を深めることが重要な【花形】のマーケティングには不可欠じゃな。顧客との関係が希薄になって、気がついたら他社製品にリプレースされていた、ということがあってはいけないんじゃよ。

ここのマーケティングの特徴は、企業の主力製品であるから予算が確保しやすいということじゃ。予算をたっぷりもらったマーケティング部門はどうしても大味なプランを立てたがる傾向が強いんじゃ。地道に顧客データを管理したり、育成したりせずに、ホテルを借り切ったプライベートイベントや、大規模広告キャンペーンにPRを絡めたりする企画を立てるものなんじゃよ。
ワシはそういうマーケティングが費用対効果で成功したことをあんまり見たことがないんじゃな。もっと地に足のついたマーケティングで顧客企業内の他部門や関連会社への横展開や、アライアンスパートナーと組んだテンプレートの整備などで手堅く守りを固めて欲しいと考えておるんじゃ。ここのミッションは「守り抜く」なんじゃからの。

金の成る木:cash cow

この象限は、市場の成長は止まり、もう昔ほどは成長しないのじゃが、過去にたっぷり経営資源を投入しているので高いシェアを持っており、しかも市場の成長期にはたくさんいた競合企業もほとんどは撤退し、安定した収益を出せるようになっているんじゃ。市場が成長しないので、今後はほとんど追加投資をしなくても良く、それどころか、設備などの過去の投資の償却も済んでいる場合が多く、人的にも十分な経験値を持っているので、今後も少ない投資でしっかり儲けることを期待されているんじゃ。
まさに金の成る木じゃな。

ここでのマーケティングは、営業効率を限界まで上げることが主なミッションなんじゃ。投資を最低限にしなければならないからの。
営業拠点や営業要員の数を減らして、その分「仕組み」で全体パフォーマンスを落とさないようにすることが大事なんじゃ。営業活動のプロセス毎にマネージメントする必要があるので、やはり「売れる仕組み」の構築と活用がキーになるじゃろう。
企業はここで、最小の投資で最大の利益を上げて、獲得した資金を「花形」の維持や「問題児」の育成への投資に当てるんじゃ。社歴の浅いベンチャー企業にはこの「金の成る木」が無いから、他の方法で「問題児」を育てる資金を確保しなければならないんじゃよ。

負け犬:dog

市場の成長率も鈍化し、自社のシェアも低い象限。ここにプロットされた事業や製品には将来性は無いので、人やお金を投入することを早急に止めなければならないんじゃ。
仮に追加投資をしてシェアを上げることに成功しても、市場自体が縮小しているので投資を回収できる可能性は低いんじゃよ。しかも過去の投資が少ないということは、企業のコアメンバーは、この分野での経験値をほとんど持っていないということじゃから失敗や事故を引き起こすリスクが高いんじゃ。
じゃからここは撤退、売却、閉鎖などが選択肢なんじゃ。企業が工場を閉鎖したり、事業売却をしたりするのは多くの場合この象限の事業なんじゃよ。

ただし、本当に誰からみてもダメな事業は売りたくても買い手が現れるはずもないじゃろ。つまり、ある企業にとっては「負け犬」であっても、それで稼いでいる企業、つまりその製品分野でトップシェアを持っている企業にとっては安い投資で「金の成る木」をさらに補強できるのでM&Aが成立するんじゃよ。
ここでのマーケティングは、もちろん「マーケティング活動をしないこと」じゃ。

*

ボストン・コンサルティング・グループが最初にこの4つの象限でのフレームワークを考案し、GEとマッキンゼーは、これを縦横で各3つ、つまり9つの象限でのフレームを考案したんじゃ。意味はもちろん同じじゃよ。

GEは1970年代に、170以上持っていた事業を40近くまで整理統合し、さらにこのPPMを使って投資の優先順位を合理的に決めて大躍進を果たしたんじゃよ。そして1980年代に入ると、20世紀最高の経営者のひとりと言われるジャック・ウェルチがトップに選出され、この40の事業をさらに、「世界で1位か悪くても2位になれる事業か?」という設問で再精査し、GEで最も伝統のあるテレビやエアコンなどの家電部門を売却するなどして、徹底した経営改革を断行したんじゃ。
当時ジャック・ウェルチは、企業を残すために大量のリストラを行ったので、建物を残して人だけ殺してしまう中性子爆弾をもじって「ニュートロン・ジャック」というニックネームまで付けられてしまったんじゃよ。
でも、そのお陰でGEの株式時価総額は50兆円を超えるまでになり、世界最強の企業と呼ばれるまでになったんじゃ。

さて、こんな実績のあるPPMも実はそのままマーケティングに使うのは問題があるんじゃよ。というのは、このPPMはあくまで投資の優先順位を決めるための仕分けが目的なんじゃ。
基本的に、事業を育てるには資金を投資する必要がある、という前提の基に、その資金の投資先として回収率からの優先順位付け、という目線が強いからなんじゃ。

マーケティング活動とは、その決められた資金の使い方のひとつじゃからの。つまり、戦略を決めるツールが「PPM」であり、その中の例えば【金の成る木:cash cow】から期待通り最低の投資で収益を稼ごうとする時の具体的な戦術としてマーケティングが出てくるんじゃ。
通信販売の会社であれば、コストの掛かるカタログの制作と送付をある予算内に抑えるための顧客分析手法としてRFM分析を活用したり、コミュニケーションチャネルを人からオンラインに移行したり、販売代理店網を再構築したり、営業拠点を統廃合して、営業の前工程を本社のマーケティング部門に移管して現場をスリム化する、などの戦術を駆使するわけじゃな。

マーケターの仕事は言うまでもなく、マーケティング戦略・戦術の立案と実施じゃから、その前提である自社の事業や製品のポジションをこうしたフレームワークを使って確認し、プランニングに活かして欲しいもんじゃの。

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