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2010.06.23

カニバリゼーションの戦略的な活用事例

マーケティングでは、市場を創るためにあえて競合する製品を投入することがあります。カニバリゼーション(共喰い)は、マーケターのコントロール次第で、市場を左右する戦略にもなりえるのです。

ノヤンじゃよ。
さて、今日はちょっとばかり怖い「共喰い」の話をしようかの。

カニバリゼーション」という言葉を聞いたことがあるじゃろ?日本では「カニバッテますなぁ」などと使われることもあるんじゃ。
この言葉の語源は生物学の用語で「共喰い」という意味なんじゃ。同じ種族が同族を捕食することで、比較的知能が低いとされている昆虫や魚類では普通のことじゃし、哺乳類でもクマなどはカニバリゼーションを起こしやすい動物と言われておるんじゃ。

マーケティングの世界でも意味は「共喰い」なんじゃ。自社の製品同士や販売代理店が同じ市場で販売シェアを喰い合う状態じゃが、これは必ずしもネガティブではないんじゃよ。
中には「自社の製品がカニバリゼーションを起こすのはマーケティングの設計が稚拙だから」という人もおるんじゃが、これは間違いじゃな。
「稚拙」と断定する根拠は、「同じ市場に競合する製品を投入して、自社の製品同士で市場シェアを喰い合う状況は【STP】がしっかり定義されていないからで、これはマーケティングの無策の証拠ではないか」というものなんじゃが、ワシの知る限り多くの企業で起きているカニバリゼーションは極めて戦略的なものなんじゃ。もちろん戦略的ではないカニバリもあるがの。

では戦略的な方から説明しようかの。

カニバリゼーション(以下カニバリ)の判りやすい例はBtoCの自動車メーカーのマーチャンダイジング戦略じゃろう。
トヨタでも日産でもそうなんじゃが、ある車種の中のハイグレードタイプはその上位車種とスペックや価格で重なっているのに気がつくじゃろう。トヨタのマークXの最上位モデルはクラウンの下位モデルと排気量や内装グレードや価格が重なるように設計されておるんじゃ。ひと昔前なら、カローラ、コロナ、マークⅡ、クラウン、と仲良く並んだもんじゃ。カローラの上位モデルはコロナの下位モデルと、コロナの上位モデルはマークⅡの下位モデルと重なったんじゃよ。

このカニバリの状態を織り込んだマーチャンダイジング戦略は、GM(ゼネラルモーターズ)の元CEOで中興の祖と言われるアルフレッド・スローンという人が考案した戦略で、当時T型フォードというたったひとつの車種の量産で世界最大の自動車メーカーの地位を築いたフォードの牙城に挑むための戦略だったんじゃ。

ヘンリー・フォードの考案した大量生産方式で圧倒的な低価格を実現し、自動車の一般大衆への普及を実現したフォードは、あまりの成功に、この単一車種という方針を変える事が出来なかったんじゃ。
やがて本格的に自動車が普及してくると、市場は単一車種に飽きて、違うタイプや、個性を求めるようになるんじゃ。
その市場を取り込むために考案したのが、低価格帯の大衆車から高額な高級車までの製品ラインを揃え、その製品ライン同士で少しずつカニバリゼーションの状態を作ることで他のメーカーではなく、自社の製品ラインの中で買い替えを促進し、車種同士、また車種ごとの販売ディーラー同士で競わせることで、より強い競争力を発揮しようと考えたんじゃ。
このスローンの戦略は見事に当たって、GMは世界最大の自動車メーカーに成長し、やがて世界の製造業の製品開発モデルの模範になったんじゃ。

この戦略を最もよく取り入れたのがトヨタだったんじゃよ。
上位車種の下位モデルと、下位車種の上位モデルが重なるように設計してカニバリの状態を起こしていると同時に、販売チャネルでもカニバリを創り出しているんじゃ。トヨタは同じ地域に5つの販売ディーラー(ネッツ、トヨペット、カローラ、トヨタ、レクサス)を持っておるじゃろう?これは販売する車種とディーラー網の二重のカニバリを創り出しているんじゃよ。
同じ車種を複数のディーラーで扱っているケースもあるからの。じゃからトヨタのディーラーの営業は、地域内の最も強い競争相手は日産やホンダなどの他社ディーラーではなく、同じトヨタ系のディーラーだと、口を揃えて言うんじゃな。つまりトヨタ系のディーラーで喰い合って、その結果他社ディーラーにつけいる隙を与えない戦略なんじゃ。

ちなみに、この戦略でGMを世界最大の自動車メーカーに導いたアルフレッド・スローンは、私財を提供してスローン財団を作り、その財団からの寄付をベースにして世界有数のビジネススクールと言われるMIT(マサチューセッツ工科大学)のスローン大学院を創設したんじゃ。

このようにカニバリゼーションは製品開発、つまりマーチャンダイジング戦略で用いられることが多いのじゃが、BtoBでは営業の現場で活用されることも多いんじゃよ。営業部門を市場ごとに分ける場合でもわざと境界を曖昧に設定するケースじゃな。

例えば上場企業は東京本社が、それ以外は各地域の営業所が担当する、という分け方をした場合、地方に本社がある東証2部上場の企業はまさに境界線上にあると言えるじゃろうから、本社と営業所で喰い合うことになるんじゃ。
本社の法人営業部と東京営業所が喰い合うのはどこの企業でもある話なんじゃが、これは戦略的な意図が有るんじゃ。この場合では東証1部のまさにエンタープライズと呼べる企業でも、その子会社や関連会社についてはカニバリの状態になるんじゃよ。

さらに日本では販売代理店同士は基本的にカニバリの関係にあるんじゃ。これは日本とアメリカやヨーロッパとの差じゃな。
アメリカなどでは州ごとに代理店を置いたり、地域、例えば東海岸とか、中西部などのエリアで代理店を持っていて、あまりカニバリの無いようにするんじゃが、日本ではほとんどの企業の本社が東京に集中していることもあって、むしろ複数の販売代理店にカニバリをさせながら、競合メーカーに勝とうという戦略を採るメーカーが多かったんじゃ。

大きな病院は通常、数多くの医療機器商社と取引しているもんじゃが、医療機器メーカーはその中の複数の商社を代理店にすることで、どこが勝っても自社製品が納品されるようにしておるんじゃ。
これは日本の商社が独自の進化を遂げた理由でもあるんじゃ。顧客は欲しがる製品をどの商社ルートからでも買うことができるので、商社は製品では差別化ができない。そこで製品のトレーニングやサポートなどのサービスやソフトで差別化をするようになったんじゃ。必要は発明の母とはよく言ったもんじゃの。
販売代理店を同じ地域や同じ市場に複数置いて競わせる、というカニバリ戦略は代理店同士が共喰いして価格を落とすデメリットが在るんじゃが、それでも他のメーカーの製品に顧客を獲られるよりは「まし」という考え方なんじゃよ。

この戦略で圧倒的な地位を築いていたのが、1990年代のリクルートじゃ。
リクルートの販売する媒体は就職情報のリクナビや結婚情報のゼクシイなどいずれも圧倒的なシェアを誇っておったんじゃが、その秘密は、地域内の販売代理店とそこに属する営業マンの圧倒的な数と密度だったんじゃ。リクルート本体の営業と、子会社の営業、販売代理店の営業が入り乱れて同一地域内でカニバることによって他の媒体の販売機会を潰しておったんじゃよ。
リクルートは競合媒体が出ないように、出ても育たないように手を打つ一方で、圧倒的な密度で営業部隊がカニバることによって高いシェアを維持し、価格リーダーシップを握るという戦略を採用したんじゃ。今でも、結婚式場の経営者にとってゼクシイに広告を出さない、という選択肢はほとんど無いんじゃ。凄いもんじゃの。

これが戦略的なカニバリゼーションじゃな。
では、戦略的ではない、つまりコントロールされていないカニバリとはどんな状況なのか見てみようかの。

製品ライン毎に事業部制を採用している企業では、各製品ラインにプロダクトマーケティングがいる場合が多いんじゃが、当然その人たちは自分が担当している製品ラインのマーケティングだけを考えるじゃろう。
すると、自分の製品を価格競争から守り、競合製品から差別化するために、次々と機能を追加してハイグレード版を作っていくのじゃよ。これはやがて自社の上位機種と市場を喰い合うようになってしまうんじゃよ。
こういう現象はあちこちで見かけるし、逆にある製品が価格競争に巻き込まれてどんどん値下げしていった結果、自社の下位機種と価格に差が無くなってしまって、下位機種の売上げを激減させる、という話もよくあるんじゃ。同じ価格で上位機種が買えるのならそっちの方が良いからの。
これがコントロールされていないカニバリなんじゃ。

グループ企業内ではこのカニバリはもはや普通のことなんじゃ。親子や兄弟の製品でぶつかるケースも多いんじゃよ。
例えばコンピュータシステムのオービック社とその子会社で「勘定奉行」で有名になったOBC(オービックビジネスコンサルタント)は、かつては市場を棲み分けておったんじゃ。オービックは大企業を中心に中堅以上のマーケットを、OBCの勘定奉行シリーズがその下の中小・零細企業を、という棲み分けだったんじゃな。

しかし、OBCのテレビコマーシャル戦略が大ヒットして売上げを伸ばし、それに伴って製品ラインをかつての中小企業向け会計システムからERPへと拡大した結果、今ではオービック社のメイン製品である「オービック7」と競合するケースが出てきておるんじゃ。
これも同一企業グループでのカニバリで、決して意図したものではないんじゃよ。

さらに、技術の進化が作ってしまったカニバリもあるんじゃよ。
製造業が導入している、コンピュータを使って3次元で設計するツール、3次元CADでは、フランスのダッソー社の製品であるキャティアがハイエンド製品のひとつなんじゃ。これはユニックスベースで動作するハイスペックの製品で自動車や航空・宇宙産業では必需品なのじゃが、一方ではとっても高額な製品でもあるんじゃ。
もっと低額で手軽に使える3次元CADを求める市場に応えるためにダッソー社は、ウィンドウズベースで動作し、低コストな製品を持っていたソリッドワークス社を買収したんじゃ。この製品は当初はダッソーの目論見どおりハイエンドのキャティアと棲み分けておったのじゃが、技術革新でコンピュータのマシンスペックがどんどん性能アップし、ソリッドワークス上で動作する高度な解析ツールも発売されたことで、この境界が無くなりつつあるんじゃよ。
これもコントロールされていないカニバリなんじゃ。

システム開発で言えば、大型プロジェクトのコンペの説明会場にはNTTグループ、日立グループ、NECグループなどが複数参加していることも珍しくないんじゃよ。グループ内でカニバリが起こっているから、現場から見れば同じグループでも競合なんじゃ。
これも元々は関連会社内でターゲットセグメントをある程度切り分けて、棲み分けておったんじゃが、それぞれが成長し、自身のターゲットセグメントだけでは食べていけなくなると、そこからはみ出して他の市場に参入するんじゃ。でも、そこには別の関連会社がいるんじゃな。

また市場自体も刻々と変化するので、気が付けばグループ内でのカニバリが激しくなってしまうんじゃよ。
ここ数年で起きているシステムインテグレータ企業のグループ再編のきっかけのひとつがこれなんじゃ。

もうひとつのコントロールできていないカニバリの代表例は日本の多層的な販売代理店じゃろうな。
販売代理店のカニバリでも、メーカーがコントロールできる状態はせいぜい2次代理店までなんじゃよ。しかし、日本の複雑な流通に製品を載せた結果、3次、4次、5次という販売代理店がツリー構造で存在し、その結果自社の製品がどこに提案され、販売代理店同士がどう競合し、どんな価格で販売されているか全然判らない、というメーカーもあるんじゃ。
カニバリの状態は誰かがある程度コントロールしないと過当な価格競争を引き起こし、そこを競合に付け込まれる危険があるんじゃよ。

こうしたカニバリゼーションは戦略的に利用することも出来るし、コントロールできなくて損害を蒙ることもあるから、マーケターとしてはしっかり勉強しなければならない重要な項目のひとつなんじゃよ。

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