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2010.10.21

ディズニーリゾートに見るマーチャンダイジング戦略

今後、BtoBマーケティングでもますます重要になる「マーチャンダイジング戦略」についてディズニー社の戦略を例にとって解説します。

こんにちは、ノヤンじゃよ。
今日は、マーケティングの重要な要素のひとつであるマーチャンダイジングの話をしようかの。
この言葉は狭義では「仕入れ・品揃え」を指すんじゃが、広義では商品・サービスの開発や調達、人事トレーニングなどを含めた戦略的な言葉なんじゃよ。このマーチャンダイジングの重要性を理解するにはBtoCの事例の方が判りやすいので、ディズニーの戦略を例にとって説明しようかの。

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アップルのCEOで、ディズニー社の筆頭株主でもあるスティーブ・ジョブスは、2010年6月に開催されたD8カンファレンスの中で、「私たちはコンシューマビジネスにフォーカスしてきたし、エンタープライズ市場(BtoB)は好きではなかった。その理由は、コンシューマ市場はとてもシンプルだからだ。コンシューマ市場は良い製品を作れば買ってくれる。素晴らしい新製品を発表すれば最高の評価をしてくれる。
それに対して、エンタープライズ市場は複雑だ。多くの場合、製品を使うユーザーは自分で使う製品の選定に関わっていないし、製品の品質以外の多くの要素が入り混じって、混乱しているようにさえ見える。」と言っておるんじゃ。まさにBtoC、BtoBそれぞれの特徴をよく押さえておる言葉じゃの。

BtoCで成功しようと思ったら素晴らしい製品やサービスを揃えることに尽きるんじゃ。これをマーケティングの世界ではマーチャンダイジング(MD)戦略と呼ぶんじゃよ。

例えば、美味しいラーメン屋で、場所を説明されても見つけられないような店に行列が出来ているのを見たことはないかの?蕎麦屋も同じじゃ。ワシは昔、蓼科の山奥にある蕎麦屋を友人に紹介されたんじゃが、迷いに迷って偶然やっとたどり着いた経験があるんじゃ。つまり、立地が重要と言われている飲食店でさえ、圧倒的に美味しいメニューさえ用意できれば、顧客が探して来てくれるんじゃよ。
ラーメン屋や蕎麦屋ばかりではないんじゃ。巨大なリゾートでさえ、マーチャンダイジングで立地条件のハンディキャップなど吹き飛ばした例があるんじゃよ。

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テーマパークの分野は半世紀にわたってディズニー社の独壇場なんじゃ。
長編アニメーションで大成功を収めたウォルト・ディズニーが、最初に手がけたテーマパークが1955年にカリフォルニア州アナハイムに建設されたディズニーランドなんじゃ。

ウォルトには女の子が2人いたんじゃが、この子達にせがまれて遊園地に行くのがとても苦痛だったんじゃな。なぜなら遊園地はどこも「子供だまし」のチープな乗り物やショーやデザインで溢れていて、ベンチには自分と同じようにつまらなそうな顔をした父親が何人も座っておったんじゃよ。

ところが、ウォルトがデンマークの首都コペンハーゲンに旅行した時に訪れたチボリガーデンはまったく違ったんじゃ。乗り物もショーも、ショップやレストラン、カフェのデザインも素晴らしく洗練されていて、そこにいるどの大人の顔にも子供のような笑顔があったんじゃ。
ウォルトが、自分が産み出したキャラクターたちとチボリガーデンを組み合わせて、大人が楽しめる本当に素敵な美しいテーマパークを創ろうと考え始めたのは、このデンマーク旅行からなんじゃ。

そうして開業したカリフォルニアのディズニーランドは大成功したんじゃが、ワシが注目したのはここではなく、フロリダのウォルト・ディズニーワールドなんじゃよ。とにかく投資額から集客マーケティングまでの事業リスクが凄まじいのじゃよ。

テーマパークも含めた商業施設は装置産業じゃから、外部からでもおよその投資額やそこから導き出される損益分岐点(利益と損失を分ける売上げライン)を推測することが出来るんじゃ。

ワシはブティックやレストラン、それらの集合体である大型商業施設を客として訪れて、投資額や損益分岐点を推測するトレーニングを徹底的に受けたんじゃ。今、存在している店やレストランの事業分析が出来てはじめて未来に企画する商業施設の収益予測や事業計画が立案でき、それを実現するためのマーケティングプランが作れるのじゃからの。
今でも食事に入ったレストランなどで内装レベルや空調設備、厨房の大きさなどから開店時の投資額を推測し、一方で客単価や回転率、味から推測する材料原価率、従業員の数からの人件費などからその店の損益分岐点を計算して「ここは赤字じゃな、長くないわい」とか、「ここは意外と儲かっておるぞ」などとシミュレーションしてしまうことが在るんじゃ。

そういう初期投資と損益分岐点という視点で見ればディズニーのリゾートはレベルの違う先行投資をするんじゃよ。

例えば東京ディズニーリゾートで、園内にあるレストランや売店に商品や食材を補充する場面を見ることがないじゃろう。週末や夏休みともなればレストランもショップも猛烈な勢いで売れるから、間違いなく数時間で棚や冷蔵庫は空っぽになるはずなんじゃが、どの店もそんな品切れは起こさんじゃろう。町のコンビニでよく見かけるような、店の前で商品を降ろしている配送車や、店内で検品をしている様子は誰も見たことが無いはずなんじゃ。
これは地下に園内を網の目のように張り巡らせた搬入通路網が整備されていて、そうした舞台裏を一切見せることなく食材や商品、スタッフなどを補充・交代が出来る仕組みを持っているからなんじゃよ。
ウォルト・ディズニーの「魔法の国では現実を感じさせるものを出来る限り排除する」という徹底したコダワリの成果なんじゃ。実はこれがディズニーのマーチャンダイジング戦略なんじゃよ。

しかし、フロリダプロジェクトの場合、オーランド郊外の広大な沼地に計画されたんじゃ。そこはワニが出没する見渡す限りの湿地帯で、大きな建物の建設には適さない軟弱地盤だったんじゃよ。地下トンネル網の建設はとても不可能で、ここだけは地上で商品デリバリーをするしか無いと言われておったんじゃ。
しかしウォルトは絶対に妥協を許さず、先ず地上にトンネル網を建設し、その上に土を盛り上げて整地し、そのさらに上に東京ディズニーランドとほぼ同じ大きさのマジックキングダムを建設したんじゃよ。
その土を掘ったところが現在のディズニーワールド内にある2つの大きな湖なんじゃ。ウォルトは土を掘ったあとの巨大な穴に、近くのデイトナビーチから美しい白砂を運ばせて敷き詰め、きれいな湖とビーチを作ったんじゃよ。

こうした表面から見えないコストに加えて通常の建設費、アトラクションの開発・設置費、世界一のサービスレベルを確立する採用や従業員(キャスト)のトレーニングなどを計算するとぞっとする程の初期投資をしていることが判るんじゃ。
しかも、このディズニーワールドが出来る前のフロリダ州オーランドはアメリカ人でもほとんど誰も知らない地域で、フロリダ州の大都市であるマイアミからでさえ車で数時間も掛かり、全米の大都市から来るには飛行機を乗り継がなくてはならなかったんじゃ。
そんな交通の便が悪く、ニューヨークや西海岸の人口集積地からも遠く離れた場所に巨額の投資をする・・・いくらカリフォルニアで成功した後とはいえ、誰もが絶対に成功しないと考えたプロジェクトだったんじゃよ。

でも、ここを選んだのには理由があったんじゃ。ウォルトは完全なマーチャンダイジングを求めたんじゃよ。
ウォルトはチボリガーデンで感動した経験から、テーマパークのマーチャンダイジングの中心はアトラクションや売店よりもむしろ、「雰囲気」だということを確信していたんじゃ。
カリフォルニアに最初のディズニーランドを建設した時には、資金不足から十分な広さの土地を購入できず、その結果、パークの中からディズニーランドの来場者を目当てに後から建設されたホテルの看板などが見えてしまったんじゃ。
これをウォルトは非常に後悔していたんじゃよ。ディズニーランドで魔法の王国を楽しんでいる時に、周辺のホテルやタバコの看板が見えてしまえばせっかくの魔法が台無しじゃからな。つまりウォルトにとっては不完全なマーチャンダイジングだったんじゃ。
だからこそ周辺の風景までを含めたすべてをコントロールでき、年間を通して営業できる広大な土地を探していたんじゃ。それがフロリダ州の真ん中に広がる沼地、オーランドだったんじゃよ。

そんな不便な場所に、毎年1000万人以上を集客しなければ赤字で倒産する巨大なテーマパークを建設する勇気とロマン・・・
自分がマーケティング担当者だったら、どうやって毎日パークを埋めるだけの集客プランを考えたじゃろうか、そんなことを考えて、夏のフロリダで鳥肌が止まらなかったのを今でも覚えておるわい。まぁ、ワシはもともと鳥じゃがの。

多くの金融機関やエコノミストが必ず失敗すると予測したフロリダプロジェクトは大成功したんじゃよ。ミッキーマウスに誘われ、フロリダの奥の沼地に建設されたウォルト・ディズニーワールドに全米どころか世界中から人々が押し寄せたんじゃ。

ウォルトは広大な敷地内で早速次のマーチャンダイジングプロジェクトに着手するんじゃな。それがEPCOT(エプコット)プロジェクトじゃ。EPCOTとは「Experimental Prototype Community Of Tomorrow」(近未来の在るべきコミュニティの実験的モデル)の略で、人が住み、働き、学ぶ実験都市として計画されたんじゃ。
晩年のウォルトの関心はアニメーションよりむしろ都市計画に移っていたと言われておるんじゃ。ワシはこれには異論があるんじゃ。

ウォルトからすれば、ファミリーエンターテイメント市場へのマーチャンダイジング戦略においては、映画もキャラクターもテーマパークも要素のひとつに過ぎなかったと思うんじゃよ。

ウォルトの死後も発展し続けるフロリダのウォルト・ディズニーワールドは、現在、マジックキングダムと、その1.5倍の規模を持つEPCOTセンター、MGMスタジオなど6つの大きなテーマパークと20以上のオフィシャルホテル、2つの湖やビーチ、ゴルフ場、牧場などからなる世界最大の総合リゾートになっておるんじゃ。
カリフォルニア、フロリダ、東京、パリと合わせれば年間の集客数は1億人を超える史上空前の偉大なテーマパーク・・・。誰もが「また行きたい」と思うその理由は、特定のアトラクションでもレストランでもない、全体の雰囲気、つまりトータルなマーチャンダイジングなんじゃ。それは絵が下手でアニメーターになる夢を断念せざるを得なかった一人の青年が60年前にコペンハーゲンの遊園地で描いた夢から始まったのじゃよ。

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BtoBの世界では、マーチャンダイジングは製品そのものの機能だけで考えられていることが圧倒的に多いんじゃ。それは筐体デザインや梱包のデザイン、取扱い説明書などは、購入の稟議に関係無い、と思われているからの。
でも、「製品の箱を手にした時からユーザーの体験が始まる」と定義しているAppleは梱包の細部にも細かい神経を使い、今ではどの会社よりも洗練されて、コンパクトで、機能的な梱包スタイルを確立し、これは物流コストの圧縮や、CO2の削減に大きく貢献しているんじゃよ。そしてAppleにとってiPhoneやiPadはBtoB市場への戦略商品でもあるんじゃ。

「マーチャンダイジング戦略」は今後BtoB企業が大いに取り入れるべき重要な要素になるじゃろうとワシは考えておるんじゃ。

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