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2011.05.26

イノベータ理論とマーケティング設計のポイント

イノベーションのベルカーブの住人はどんな人?各セグメントの住人の特徴とマーケティングのポイントをノヤン先生が解説します。

2011年3月に開催されたApple社のイベントでCEOのスティーブ・ジョブズは、同社のオンライン電子ブックストア(iBook store)での電子ブックの販売(ダウンロード)が累計で1億冊を越えた、と発表したんじゃ。これは、Apple社だけで言えば「iTunes」「App store」に続く第3のコンテンツストアが順調に伸びている、ということなんじゃが、マーケティング的には「電子ブック」という製品カテゴリーがイノベータ理論で言うところのメイン市場に入った、という宣言でもあったんじゃ。

そこで、今回と次回の2回に分けて、この「イノベータ理論」を解説しようと思うんじゃ。イノベータ理論については、2007年10月にも簡単な解説を書いておるんじゃが、今回はもう少し深堀りして、他のマーケティングフレームワークとの関係なども解説しようと考えておるんじゃよ。
1回目がイノベータ理論の概要と各セグメントの解説とマーケティング設計の注意点、2回目はイノベータ理論と他のマーケティングフレームワークとの関係と、実際にPDA(Personal Digital Assistant:携帯情報端末)という製品カテゴリーで起きた事例を中心に話していこうかの。

イノベータ理論とは1962年、米国スタンフォード大学の社会学の教授であったエベレット・ロジャーズが著書「Diffusion of Innovations(邦題:イノベーション普及学)」で提唱した理論なんじゃ。
1962年と言えば、ワシが生まれた年じゃよ。考えてみれば、セオドア・レビットがせっせと論文を書いたのも、フィリップ・コトラーが革新的な「STP理論」を考案したのも、ジェローム・マッカーシーマーケティングミックスと呼ばれる「4P」を考案したのも1960年代なんじゃ。まさにマーケティングの基礎となる理論やフレームワークの黎明期、言わばマーケティングのカンブリア紀だった訳じゃな。

そして、この「イノベータ理論」は、次回で説明する「PPM:プロダクトポートフォリオマネジメント」や、「PLM:プロダクトライフサイクルマネジメント」にも大きな影響を与えておるし、セオドア・レビットが考案した「ホールプロダクト理論」、そして後にジェフリー・ムーアが考案した「キャズム理論」とも密接にリンクしておるんじゃ。
勉強する気になったかの?

では、説明をはじめようかの。
イノベータ理論は、イノベーティブ(革新的)な製品カテゴリーと市場とその構成員の関係を時系列に説明したものなんじゃ。イノベーションを受け入れる市場を早い順に

  1. イノベータ・・・革新的購入者(2.5%)

  2. アーリー・アドプター・・・初期購入者(13.5%)

  3. アーリー・マジョリティ・・・初期主要購入者(34%)

  4. レイター・マジョリティ・・・後期主要購入者(34%)

  5. ラガード・・・購入遅滞者(16%)

の5つに分類し、ベルカーブ(釣鐘型)のグラフで表現したんじゃよ。

さらに、同じ論文の中で、イノベータ+アーリー・アドプターの合計16%を境界とし、市場成長のS字カーブが急激に上昇するラインと一致するとした 「普及率16%の法則」 を合わせて提唱したんじゃ。
この法則では、新しい製品カテゴリーは、普及率が16%を越えると、それを境にして急激に市場が拡大する、としたもので、つまり、新しいカテゴリーのマーケティング担当者は、兎にも角にも普及率を16%まで持っていくことができれば後は急速に普及していく、と信じていたものなんじゃ。これがクリティカルマスじゃよ。これは事業計画で言う「損益分岐点」とは違うんじゃ。売上が急上昇したら黒字になるとは限らんからの。

マーケティング担当者がこのイノベータ理論をきちんと理解する必要がある理由は、自社の製品が今ベルカーブのどこに在るかによって、マーケティング戦術がまったく異なるからなんじゃ。それぞれの市場にはまったく異なった価値観、判断基準を持っている人たちがいるんじゃからの。市場が違えば、異なる戦術やツールを使うのは理の当然じゃろう。
では、それぞれの市場を見てみようかの。

イノベータ

イノベータは、その名の通りとにかく新しいものが大好きなんじゃ。じゃからテクノロジーマニアなどと言われておるんじゃ。彼らは「まだ誰も持っていない」という言葉にとっても弱いんじゃよ。これをこっそり囁かれるともう我慢できない人なんじゃな。こう書くと秋葉原の裏道を連れ立って歩いているデイパックを背負った色白でメガネをかけた男を想像すると思うんじゃが、そうとは限らないんじゃよ。

例えば1980年代の後半にFaxが急速に普及した時のことじゃ。それまでは書類は郵便で送るしか方法がなかったし、海外とのやりとりはテレックスといって、長いテープに穴が開いている暗号のようなもので情報を送っていたもんじゃから、Faxはそれは凄い発明だったんじゃよ。それでも最初にFaxマシンを購入した人は明らかなイノベータなんじゃ。なにしろ、最初に購入した人はどこにもFaxを送れないし、どこからも送られてこないんじゃからの。この人が購入したFaxへの投資を回収するには、Faxの普及がクリティカルマスを越えるまで待つしかないんじゃよ。
ではなぜこの人はまったく使い道のないFaxを購入したのかと言えば、理由はただひとつなんじゃ。「まだ誰も持っていないから」。これこそが彼がFaxを購入した理由であり、彼がまぎれもなくイノベータである証明なんじゃよ。

冒頭で紹介した電子ブックの例で言えば、自分の好きな書籍をスキャンしてPDFファイルに変換し、それを自分のタブレットやノートPCにダウンロードした怪しいPDFビューワーやスマートフォンで読みはじめた人たちがイノベータじゃろうな。
イノベータをターゲットにしたマーケティングで重要なのは、完成品にしない、ということなんじゃ。彼らは完成して出回った製品にはあまり興味がないからの。ベータ版、試作モデル、あるいは、試作したけれど欠陥があって発売できなかった製品、などが大好きなんじゃよ。それを彼らは自分の力とイノベータのネットワークで動くようにしてしまうんじゃ。「危なくてとても普通の人にはさわらせられない」なんて言いながら試作品を見せられたら、彼らは死ぬほど欲しくなるんじゃよ。
このイノベータのもうひとつの特徴は、所属する組織で「浮いている」場合が多いことなんじゃ。他の組織に所属しているイノベータ同士の関係は良好でも、自分の組織ではうまくコミュニケーションが取れない人が多いんじゃよ。つまり「変わり者」と見られているんじゃな。じゃから、彼らが採用してくれたからと言って開発した製品が「売れる」と認識してはいかんのじゃ。変わり者は残念ながら周囲に対する影響力は弱いし、いかんせん少数派なんじゃよ。

アーリー・アドプター

アーリー・アドプターは、イノベータと違って「まだ誰も使っていない」というだけの理由では買おうとしないんじゃ。でも「ビジョナリー」とも呼ばれ、常に革新的で時代の先端を走りたいという願望が強い人たちなので、じっとイノベータたちを見ているんじゃよ。そして彼らが飛びついた新しい技術の中で、自分のビジネスに役立ちそうなものを選び、それを使いはじめる人たちなんじゃ。テクノロジーマニアではないが技術を理解する力を持ち、イノベータとは近接した関係にあるんじゃな。
そしてイノベータと最も違うところは、彼らは所属している企業や団体から「浮いていない」ということなんじゃ。それどころか、周囲から信頼され、影響力を持っていることから、「オピニオン・リーダー」と呼ばれることもあるんじゃ。多くの場合上司や経営層からも信頼され、ある程度の権限と予算を持っているから、イノベーティブな技術や製品カテゴリーにとってはパトロン的な役割を果たしているケースが多いんじゃ。

もうひとつの特徴は「わがまま」な人が多いことじゃ。カスタマイズや仕様変更・追加などの要求が多く、対応するのは大変なんじゃ。でもこの人たちを味方にしないと次のメイン市場にはたどりつけないんじゃな。それが判っているメーカーは、特にスキルの高いスタッフを担当につけて、できるだけ要望に応えようとするんじゃ。ジェフリー・ムーアはハイテク産業のコンサルタントじゃから、彼の本にはこの辺の苦労話がいっぱい書いてあるんじゃよ。

また、この人たちは情報リソースも豊富で、それを確認する手段も持っておる。インターネットを使いこなし、英語の解説サイトを読みこなして、情報をしっかり取っているタイプじゃな。情報量も他のセグメントの人たちに比べて圧倒的に多いから営業の売り込みトークに左右されることはないんじゃ。
じゃから彼らからの受注は多くの場合、営業が獲得するのではなく、アーリー・アドプターの方からアプローチが入るんじゃ。Webからの問い合わせや資料請求、セミナーへの参加申し込みなどじゃな。
アーリー・アドプターからの問い合わせが増えたからと言って「ウチはもうプル型で売れるようになった」などと勘違いしたらダメじゃよ。
彼らは営業の話を聞かない代わりにイノベータを注意深く見ておるんじゃよ。少数派にもかかわらずイノベータへのアプローチが大切なのは、これが理由なんじゃ。電子ブックで言えば、海外出張などでキンドルや、バーンズ&ノーブルの専用タブレットなどを購入して読書をしていた人たちがアーリー・アドプターじゃが、この段階ではまだメイン市場には到達していないんじゃ。

アーリー・マジョリティ

アーリー・マジョリティは、さらに現実的な人たちじゃ。彼らは新しいものを使うことには魅力を感じないんじゃ。それがちゃんと動作し、自分の仕事に使えることを信頼できる事例で確認しなければ購入しない人たちじゃよ。製品のオフィシャルページで調べ、口コミサイトものぞき、盛り上がっていることを確認しても、まだ慎重になっている人たちじゃな。
じゃから彼らはイノベータやアーリー・アドプターの導入事例にはあまり反応しないんじゃ。彼らは別の世界の人たちじゃから、あくまでも自分たちと同じステージ、つまり同じアーリー・マジョリティの人や企業の導入事例しか参考にしないんじゃよ。

じゃからこの人たちがセミナーに参加して最初にすることは「参加者の人種を見ること」なんじゃ。自分と同じアーリー・マジョリティに属する人なのか、それともイノベータなのかを慎重に確認するんじゃな。もしセミナー参加者の大半が自分とは異なる人種、つまりイノベータだった場合、彼らは「お勉強モード」になって、決して導入を主導しようとはしないじゃろう。
じゃから、彼らに対するマーケティングはより同一セグメントに限定したチャネル、言葉遣い、事例の企業属性などに気を遣わなければならないんじゃ。周囲の多くが使いはじめ、教えてくれる人が身近にいて、本屋に行けば解説本も売っている、という状態にならなければ使わない人たちじゃ。この人たちを攻めるには何よりも安心、そして使いやすさが重要なんじゃ。そもそも新しいことは嫌なタイプなので、少しでも面倒くさければダメなんじゃ。
電子ブックで言えば、iPadを購入し、はじめて新聞や雑誌を講読して「こりゃ便利だ」などと言っている人たちじゃろうな。

レイター・マジョリティ

レイター・マジョリティの人たちとアーリー・マジョリティの違いは、第1に技術に比較的弱いこと、第2により保守的なことじゃろう。日本の大手企業に多い人たちじゃな。
彼らは、少しでもリスクがあれば使わないし、購入しようとはしないんじゃ。やらなければならないことは判っていても、来年までなら今のままでも行ける、となれば決して今年変えようとはしない人たちじゃな。
彼らが使いはじめるのは、周囲の大半の人や企業がそれを使いはじめ、使っていないことが自分や自社の立場を悪くするような状況になってはじめて検討する人たちなんじゃ。とにかくあらゆるプロセスを変えることを嫌うんじゃな。

会計システムで言えば、どんなにシステム会社から良いパッケージの提案を貰っても頑として既存のレガシーを使い続け、海外に工場を出すとか、SOX法などの新しい会計基準が施行されたとかの「どうしても変えなければならない理由」が発生してはじめて提案に耳を貸す人たちじゃな。
従ってこのセグメントに対するマーケティングは「購入の必然性を喚起するもの」になるんじゃ。例えば「この先は奈落の底ですが、このまま進んで大丈夫ですか?」というメッセージを主体に組み立てることになるんじゃよ。
でも、あれほどキラ星のようなマーケティングの大家が揃っていた米国で、鉄鋼、家電、半導体、自動車などの産業が奈落の底に沈んでいったということは、このレイター・マジョリティの頑固さは並大抵ではないということを教えてくれているんじゃな。

日本はもちろん世界的に見ても、電子ブックはまだこの人たちの市場では受け入れられていないんじゃ。ただし、精密機器の整備マニュアルなどで環境が整えば受け入れる人たちなんじゃ。ただし電子ブックとしてではなく、あくまで整備マニュアルのデジタル版として使うんじゃな。パソコンが普及した時にファンクションキーにシールを貼って、せっかくのコンピューターを伝票の入力など特定の用途にしか使っていなかった人がおるじゃろう。あの人たちじゃな。

ラガード

ラガードは、とにかく頑固で、理由もなくイノベーションを受け入れない人たちじゃ。
電子ブックで言えばワシのように、本はハードカバーの本として本棚に並べたいと考える人間じゃろう。iPadにはまっ先に飛びついて、実はちゃっかり電子ブックも出版しているワシなんじゃが、新聞や雑誌やPDFはiPadで読んでも、本は決して読まんのじゃよ。
ワシにとって本とはやっぱり「紙」なんじゃ。じゃから、電子ブックが普及して、出版社の廃業が増え、街の本屋さんが姿を消すことがとっても心配なんじゃよ。ラガードじゃろ?
マーケティングコンサルタントの多くは、このラガードに対するマーケティングは放棄するのが良いと言っておるんじゃ。投資した時間や労力に見合ったリターンが期待できないからの。

*

これがイノベーションのベルカーブにいる人たちの特徴なんじゃ。
実はイノベータ理論の特徴は、同じ人や企業が、ある製品カテゴリーではイノベータでも、あるカテゴリーではレイター・マジョリティだったりする事なんじゃ。じゃから製品カテゴリーとセグメントの対比で見ていかないと間違った判断をしてしまう危険があるんじゃよ。例えば日本の製造業は、オンライン広告などのあるカテゴリーで見れば、考え方が古くてラガードのように見えているかも知れんが、インターネットというイノベーティブなネットワークが出現した時、CAD図面の転送やバックアップ、3次元CADへの移行に伴う研修プログラムなどで、いち早くこれを取り入れたのは製造業なんじゃ。

さて、次回は他のフレームワークとイノベータ理論の関係とPDAでの事例を説明しようかの。

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