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2012.02.27

日本企業の危機の原因は「マーケティングの貧困」にあり!

マーケティングナレッジの蓄積を怠った日本企業は、太平洋戦争の日本と同じ道を辿りつつある・・・。その怖い俯瞰図をノヤン先生が解説します。

最近、日本を代表する企業のウンザリするような巨額の赤字が新聞紙上に躍っておるが、今日はこの壊滅的な負け戦をマーケティングの視座から見てみようかと考えておるんじゃ。

日本企業の経営者にマーケティング部門の出身者がほとんどいないのは仕方が無いことなんじゃ。多くの日本企業にはマーケティング部門なんてつい最近まで存在しなかったんじゃからの。しかし今、経営層にマーケティングのナレッジが無い事が原因で、日本企業は壊滅的な負け戦を戦っておるとワシは考えておるんじゃよ。

物騒な話しじゃが、ちょっと戦争の司令官になったつもりで考えて欲しいんじゃ。味方の兵力が3万人、敵が3万人で戦うとしようかの。兵力はほぼ互角じゃが、味方の軍は左右100kmの長い戦線に分散して展開し、数十ヶ所に点在している部隊同士はほとんど連携も無く、薄い陣形になっているのに対し、敵は全軍を5つに分けて、それぞれがクサビ型の陣形で相手の弱いところに兵力を集中させたらどうなるかの?ある戦場では味方500人に対し、敵が1万2000人、という構図になっておるんじゃ。防衛大学を卒業していなくても、この戦いの結果は予想がつくじゃろう・・・。
そんな間の抜けた戦い方をする司令官がいるものか、と思う人もいるじゃろ。
では分散した薄べったい陣形で苦戦している味方をSONYに、クサビ型で攻めて来る敵をAppleに置き換えたらどうじゃろう?

両社とも売上げは7兆円〜10兆円とほぼ同規模なんじゃ。Appleはこの売上げをMac、iPod、iPhone、iPad、iTunesなど5〜6の事業カテゴリーから作っており、しかもそれぞれの事業は技術的にも、マーケティング的にも密接に関連し、極めて強いシナジーを発揮しておるんじゃ。iPhoneやiPadに搭載されているiOSは基本的にはMacOSXじゃし、アプリケーションもほとんど互換性があり、iTunesで高度な連携が出来るようになっておるんじゃよ。しかも総ての製品のターゲットセグメントは完全に一致しておるんじゃ。

これに対してSONYは、テレビ、デジタルカメラ、ビデオ、コンピュータ、オーディオ製品、プロ用の撮影・編集機材、ゲーム機、光学機器、記録メディア、携帯電話など非常に広い戦線で、しかもシナジーの効きにくい「カンパニー制」と「関連会社」いう陣形で、バラバラのターゲットセグメントに対して戦っておったんじゃ。
こうなると、社内の人的リソースや予算、マーケティング、営業などを広く浅く、つまり薄く布陣するしかなく、そこを携帯音楽プレーヤー、タブレット、スマートフォン、オンラインミュージックストアなどにフォーカスして攻めて来られれば、守りきれるはずもないんじゃよ。
さらに、Appleが世界中に約300近くを展開するApple Storeで顧客と直に接しておるのに対して、SONYは既存の流通への依存から脱却出来ず、相変わらずエンドユーザーの顔が見えない中で戦っておるんじゃ、目隠しをされて戦っておるようなものじゃな。

しかももっと恐ろしいことに、SONYは同規模の日本企業の中では事業領域をフォーカスしている方なんじゃ・・・。驚くじゃろう?多くの日本企業では、ハイテク機器から携帯電話、冷蔵庫、テレビ、電子レンジ、乾電池、蛍光灯までを生産・販売しておるんじゃ。そしてその大半がプロダクトポートフォリオで見れば「負け犬」の象限にプロットすべき事業なんじゃよ。

第2次世界大戦末期の頃、日本海軍と陸軍では「負けている感覚」に差があったと言われておるんじゃ。つまり海軍は多くの大海戦で米国海軍と戦い、負け続けた結果、戦力をほとんど持っていなかったから負けを認めることが出来たのに対し、陸軍は師団や軍団単位での大きな戦いをほとんど経験せずにいたので、「負けた」という感覚が希薄だったんじゃよ。では日本陸軍はどう負けていったのかの?

日本は陸軍部隊の多くを東南アジアなどの南方戦線に派遣し、シンガポール、マレーシアなどの東南アジアから南太平洋の数多くの島に小規模ずつ駐屯させておったんじゃ。こんな途方も無い広い地域に兵力を分散させれば、補給や兵員補充が出来なくなるし、連携作戦もやりにくくなるもんじゃ。その結果、手薄なところを選んで兵力を集中してきた米軍に各個撃破されて負けていったんじゃ。
ニューギニア、グアム、サイパン、硫黄島などでは、守る日本軍は1万人、攻める米軍は5万人〜10万人、という兵力差で、日本軍は武器も弾薬も医薬品や食料すら欠乏する状態で戦っておったんじゃよ。200万人を超えると言われる大戦での戦死者の多くは、病気や飢えで亡くなったか、弾薬の不足で戦えないことが理由での自決と言われておるんじゃ。

この状況は今の日本企業に似て見えんかの?
サムソンは携帯電話と液晶関連の分野に集中して日本企業からシェアを奪っているし、GEはジェットエンジンやタービン関連、医療と金融などにフォーカスして世界的なシェアを押さえておる。Appleはモバイル端末とそのコンテンツにフォーカスして圧倒的なポジションを築いておるんじゃ。
同規模の日本企業は、BtoB向けもBtoC向けも、シロモノ家電もコンピュータもAVも照明器具も総てを残したまま戦線を拡大し、そこに薄くひろく社員と知的リソースを分散させて、各事業で負けておるんじゃ。この構図は太平洋戦争末期にとても似て見えておるのはワシだけかの?

ワシはこうした戦略ミスの原因は「マーケティングの貧困」だと考えておるんじゃ。
良いものを作れば売れる、という過去の栄光に頼って、そもそも誰にとって?という顧客視点を忘れて事業領域を拡大し、しがらみに縛られて撤退しないまま戦線を拡げ続けて来たツケが今一気に顕在化していると考えておるんじゃ。

日本の日経平均にあたる米国のダウ・ケミカルの銘柄に100年前から名を連ねている唯一の企業と言われているGE(ゼネラル・エレクトリック社)は、1960年代には実に170もの事業を抱えておったんじゃ。これでは強い企業は作れないと考えた当時の経営者は、ボストンコンサルティンググループに依頼してプロダクトポートフォリオ(PPM)を策定し、170の事業をこの4つの象限にプロットし、約40に統廃合したんじゃよ。言うまでもなく縦軸に市場成長性を、横軸に市場占有率をとった分析じゃが、いずれも「市場」を見ておるのが判るじゃろ。
自社の伝統とか、技術とか、流通チャネルとか、その事業に関わる社員数とか、工場の数とかではなく、あくまでも市場、つまりマーケットにその判断基準を置いておるんじゃ。そして、セオリー通りに「市場の成長が止り、シェアも低い事業」からは撤退していったんじゃ。これがもう50年前の事じゃよ。その後、1981年に20世紀最高の経営者と言われるジャック・ウェルチが登場すると、GEは事業の統廃合をさらに強力に進め、「世界で1位か2位になれる可能性がある事業」だけを残し、他は売却、廃止などで撤退していったんじゃよ。
このお陰でGEは世界最強の企業の地位を築くことになるんじゃ。ジャック・ウェルチは元々化学分野での博士号を持つエンジニアだったんじゃが、GEのプラスティック部門を任せられると、この新しい事業のマーケティングを担当し、新事業のマーケティングのナレッジとキャリアを引っさげてトップになった人なんじゃ。

半導体製造業のトップ企業だったフェアチャイルドから独立して1960年代にインテルを創業したゴードン・ムーアとアンドリュー・グローブは1980年代には,台頭してきた日本企業にシェアを奪われて瀕死の状態に陥っていたんじゃよ。彼らは様々なマーケティング分析で市場を検討した結果、売上げの大半を占めていたメモリーから完全に撤退し、マイクロプロセッサー(CPU)に集中する道を選んだんじゃ。メモリーでは日本企業に勝てないし、成長に必要な収益を上げることができないと判断したんじゃな。この判断の結果、今ではハイテク世界のトップに君臨しておるじゃろ。

米国企業のトップのほとんどは、マーケティングの基礎知識を持っておるし、強力なマーケティングチームを社内外に抱えておるから、自社の事業分野をイノベータ理論や、プロダクトポートフォリオ、ファイブフォースモデルなどのマーケティング手法で分析し、客観的に事実を捉える事が出来るし、その事業が未だ価値を失う前に競合や新規参入企業に売却することで、自社の得意分野に投資するキャッシュを手に入れて、さらに競合優位性を磨いておるんじゃ。

戦術のミスは戦術でカバーできるが、戦略のミスは戦術ではカバーできない、という原則があるんじゃ。マーケティングの貧困に起因する「戦略」のミスであれば、いかなる「戦術」でもカバーすることは不可能なんじゃよ。マーケティングに立脚した経営戦略を再構築するしか再生の道は無いじゃろう。最適なパートナーを探して、事業を再構築できた企業だけが生き残り、小手先の戦術や、景気の回復に期待している企業は残念ながら太平洋戦争の日本と同じ運命を辿るじゃろうな。
だからワシはマーケティングでこの国を再建せねば、と考えておるんじゃよ。

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