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2012.09.10

今こそ学びたい、T・レビット博士の歴史的な名論文「マーケティング近視眼」

50年前に世界を驚かせた論文「マーケティング近視眼」を透して今のマーケティングを見てみれば・・・。

偉大なマーケティング学者 T・レビット博士が、世界を驚かせた論文「マーケティング近視眼」を発表してからもう50年以上になるんじゃ。この論文はハーバードビジネスレビュー誌に発表されるやマーケティングや社会学の学者や学生の間のみならず、多くの経営者に影響を与え、さらに出版されると世界的なベストセラーになり、米国やヨーロッパの企業がマーケティングを企業経営のコアに位置づけるきっかけを創った本当に偉大な論文なんじゃよ。
ただ、レビット博士には申し訳ないことに、日本は未だに「近視眼的なマーケティングに基づく経営戦略」が横行し、それが日本企業の大苦戦の原因にもなっているんじゃ。

そこで今日は、この「マーケティング近視眼」を透して観た経営判断の例を観てみようかの。

レビット博士のこの論文は「マーケティングの革新」「T・レビットマーケティング論」(いずれもダイヤモンド社)などで読むことが出来るので是非読んで欲しいのじゃが、要約すると成功した企業が衰退していった原因のひとつは経営者が「マーケティングの近視眼」に陥ったからだと論破しておるんじゃ。

その例として一時は米国を代表する大企業を輩出しながら急速に衰退していった鉄道を挙げ、鉄道会社は自らを人や貨物の輸送業者だと定義せず、鉄道業者と定義してしまい、それが理由で旅客や貨物などの市場が急拡大する中で、それらをトラック、バス、飛行機など鉄道以外の輸送機器を使う後発の企業に奪われて衰退していった、と解説しておるんじゃ。もし鉄道会社が自身の定義を輸送業者としていたら、圧倒的な資金とブランドのアドバンテージを駆使して、トラックやバスを使う輸送会社、航空会社、あるいは旅行会社に進化できたはずじゃ、とな。

この「マーケティングの近視眼が会社を滅ぼす」という例は、今度は30年前に鉄道会社から市場を奪い米国を代表する産業にまで成長した航空業界大手のパンアメリカン航空、ノースウェスト航空、ユナイテッド航空などが、自らを「人だけを運ぶ航空会社」と定義した結果、過当競争から次々と経営危機に追い込まれるのに対し、同じ飛行機を使った「ハブシステム」というまったく新しい物流システムを考案したフレッド・スミスが創業したFedexが大発展したことで繰り返されたんじゃ。

レビット博士はこの論文の中で、もうひとつの代表的な例としてハリウッドの映画産業を挙げて、自らをエンターテイメント産業と定義せずに映画だけの産業と定義したために、後発のラジオ、テレビ、テーマパーク、ゲームなどのエンターテイメント業者に市場を奪われて急速に衰退していったと書いておるんじゃ。
実は映画を作るプロセスとテレビドラマを作るプロセスはとても似ているんじゃ。当たり前じゃがの。でも当事者の映画人から見れば「あんな小さな画面で迫力が出せるか!」ということになるんじゃな。それで、台本を書き、役者や監督をキャスティングし、撮影し、編集し、という同じプロセスでノウハウや役者のネットワークを活かせたにも関わらず、テレビ時代の到来をチャンスと考えず、脅威と捉えた結果、番組制作やテレビ局というビジネスに進出できずに衰退期を迎えたんじゃよ。実はこれも、40年後に繰り返されることになるんじゃ。
今度はインターネットが出てきた時に、テレビ局は自らを総合メディアともエンターテイメントとも定義せずに、テレビ放映会社と定義したために、後発のネット企業に市場を奪われ、米国ではAOL、国内では楽天、ライブドアのようなネット企業に買収を仕掛けられたんじゃよ。歴史は繰り返すというのは本当なんじゃな。
さらにレビット博士は、ドライクリーニング業界、電力業界、デトロイトの自動車業界などを次々に例示しながら、近視眼の弊害を説いてくれているんじゃ。

では、日本ではどうじゃろうか?

日本が世界に誇る自動車メーカーはせっせと車を製造して販売しておるじゃろ。その車の90%以上は任意保険に加入しておるんじゃ。そして自動車保険に加入するタイミングはもちろん「車を購入した時」なんじゃ。つまり保険に加入するタイミングを誰よりも把握しているのは車を販売した系列カーディーラーなんじゃ。では国内大手の損害保険会社はどこかと言えば、船舶や海上貨物の火災を扱っていた保険会社なんじゃよ。社名と違って現在の彼らの収入源は圧倒的に自動車保険なんじゃ。

では、なぜ自動車メーカーやその販売代理店であるカーディーラーが最大手の保険会社に進化できずに代理店に留まっているんじゃろうな?
ワシはその理由はこの「近視眼」だと考えておるんじゃ。彼らは自分たちを自動車製造会社、自動車販売会社と定義したんじゃ。一方自動車を購入する人にとって車の購入は目的ではなく手段なんじゃよ。目的は家族でドライブしたり、通勤したり、幼稚園の送り迎えをしたり、営業車であれば顧客訪問や社内拠点の輸送に使うんじゃ。そしてそうした利用において保険は絶対に必要なものなんじゃ。
だから本来はセットで販売されるものじゃし、自動車産業から最大手の保険会社が出てもなんの不思議も無かったんじゃ。同様に最大の中古車販売ネットワークも、タイヤ販売も自動車メーカーやディーラーの中から進化して良いはずなのに、そうはならなかった理由も、メーカーは自分たちを自動車の製造と定義し、ディーラーは新車の販売と定義したからなんじゃ。

では、近視眼にならなかった例を見ようかの。

実は、レビット博士の論文から50年経った現代のハリウッドは、見事に復活を遂げてとても元気なんじゃよ。でもこれは彼らが、ただじっと不景気が通り過ぎるのを待っていたからではなく、自分たちの定義を映画産業から総合エンターテイメント産業に再定義したからなんじゃ。その先陣を切ったのがウォルト・ディズニーなんじゃよ。

ディズニーは自分の創造した映画やそのキャラクターたちがもっと多くの場所で活躍できると考えたんじゃな。彼は映画産業の人間じゃが、アニメという当時では本流とは思われなかった分野をひとりで切り拓いた人なので、柔軟な発想が出来たんじゃろう。その結果、ミッキーマウスやドナルドダックを使ったテレビ番組の制作を開始し、さらにカリフォルニアやフロリダにディズニーランドを創ってディズニー映画のテーマパークとして大成功させたんじゃ。
1996年には全米3大ネットワークテレビ局のひとつABC(American Broadcasting Company)を買収し、さらにAppleのiTunesでの映画ビデオ販売にもいち早く乗り出して、総合エンターテイメント会社として成長を続けておるんじゃ。多くのハリウッドの映画スタジオもこれに続いて、多角的な収益構造を確立し、見事に近視眼から脱却したんじゃよ。

国内では、今や一兆円企業に成長した京セラが近視眼にならなかった良い例の典型じゃろうな。1959年の創業当時は京都セラミックという社名で、松下電器(今のパナソニック)のテレビ事業部にブラウン管に使われる絶縁素材を納品していた従業員30名足らずの町工場だったんじゃ。

しかし、彼らは自分たちを松下電器の下請けとも、ブラウン管の部品屋とも定義しなかったんじゃ。セラミックという素材がハイテク機器の絶縁素材として可能性があることを見抜いた彼らは、米国のシリコンバレーで急成長していた半導体産業に対して売り込みを掛けることに成功し、フェアチャイルド、インテルなどを次々と顧客にし、京セラの積層セラミックパッケージとして世界の半導体産業に無くてはならない存在にまで駆け上がったんじゃよ。
しかも彼らは自らをハイテク機器の絶縁素材メーカーとも定義しなかったんじゃ。得意の粉体工学や結晶工学の応用範囲すべてを自分たちのフィールドに定義し、セラミックの摩擦係数の少なさを活用して紡績機械の糸送りを開発したり、その成功をヒントに釣り竿のリングに応用したり、果ては結晶工学を応用して人工宝石まで作ってしまったんじゃ。クレサンベールという京セラグループの人工宝石ブランドは、今では確固たるシェアを持っているんじゃよ。
さらに京セラは携帯電話、カメラ、医療機器、複合機などの完成品の製造・販売、果てはKDDIという通信会社まで作ってしまったんじゃ。もし京セラが、自分たちを「松下電器の下請け」「ブラウン管の電子銃の部品屋」「半導体の絶縁素材メーカー」と定義したら、今の姿ではなかったはずだとワシは思うんじゃ。

こう観てみると、経営者が自分の会社をどう定義するか、ということは恐ろしいまでの影響力を持っていることがわかるじゃろ?そしてT・レビット博士はこれを50年前に見抜き、この「マーケティング近視眼」という論文にまとめていたんじゃよ。まったく凄いもんじゃの。
だから、自分の会社が近視眼に陥っていないかどうかの警鐘を鳴らすのもマーケティング部門の重要な仕事なんじゃよ。

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