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2013.07.29

ポジショニングとトレードオフの関係をマイケル・ポーター博士の視点で見てみよう

戦略ポジションを守れた企業と守れなかった企業の違いは「トレードオフ」。つまり戦略的に「何を捨てたか?」と言う事。
何かを捨てなければエッジが立たず、競合にあっという間に模擬されてシェアを奪われてしまうという事をノヤン先生が解説します。

昔ある会社で「これから最も衰退する業種は、頭に総合と付く業種です」と話した事があるんじゃ。その会社はまさに日本を代表する「総合」な会社だったので、ずいぶん失礼な話だったんじゃが、心の広い方々で面白そうに話を聞いてくれたんじゃ。

  • 総合病院
    風邪からいぼ痔から肺がんまで、病気ならなんでも治します。

  • 総合家電メーカー
    蛍光灯から冷蔵庫、携帯電話、パソコンまでなんでも作っています。

  • 総合検査機器
    テスターからオシュロスコープまで何でも作っています。

  • 総合建設業
    ダムでも橋でも道路でも、工場でもホテルでもオフィスビルでも作ります。

こういう企業がこの10年大苦戦している事は周囲を見渡せば判るじゃろう。これを学問的な表現では、「戦略ポジションにトレードオフが無く、エッジの無い状態」と言うんじゃよ。

経営戦略論などでマイケル・ポーター博士をはじめ多くの学者が論じているポジショ二ングと、現代マーケティングの父とも言えるP・コトラー博士の「STP」の最後のポジショニングはちょっとニュアンスが違うんじゃよ。
ポーター博士が言っているポジショニングとは、コトラー博士のSTPで言えば「T」のターゲティングに近いんじゃ。つまり「勝てる土俵を探して選択する」というプロセスじゃな。

ポーター博士の代表的な理論であるファイブフォースモデルは「ポジショニング論」とも呼ばれ、産業もしくは業界を俯瞰的に評価する具体的な方法なんじゃ。このファイブフォースモデルの解説はいつかじっくりするとして、このモデルを使う上で重要な事は、参入すべき産業や業界、つまりセグメントを決めるに当たって、そこに参入すべきかどうかだけでなく、参入した後に守れるかどうかをチェックすることなんじゃ。
自分たちが新規参入する側なら、その時の自社の位置は「新規参入の脅威」になるし、自分たちの持っている技術やノウハウが、既存の技術を葬り去ってしまうものなら自社の位置は「代替品の脅威」になるじゃろ。フロッピーディスク業界から見ればCD-ROMは代替品じゃし、駅馬車業界から見れば鉄道は代替品なんじゃよ。ここまでは判りやすいじゃろ?
問題はその後なんじゃ。ある産業に参入すれば、自社の位置は「脅威」から中心の「既存の競合関係」に移ることを意味するので、今度は確保したポジションを新規参入者や代替品の脅威から守れるか?というテーマで検討を尽くすべきなんじゃよ。

ある業界に新規参入して既存企業との競争に勝利して良いポジションを確保しながら、そこを守れないことなんてあるのか、と思うじゃろ?実は守れなかった例の方がはるかに多いんじゃよ。

例えば、つい先日IBMはロータス1-2-3を市場から消滅させるアナウンスをしたじゃろ?今でこそスプレッドシート(表計算)と言えばExcelが圧倒的なシェアを持っておるんじゃが、その前はロータス1-2-3が圧倒的なシェアを持っておったんじゃ。
IBMがパーソナルコンピュータのOSにMS-DOSを選択したことによって、16ビットパソコンのスタンダードOSはMS-DOSになるんじゃ。じゃからこれを搭載したPCはIBM-PC互換機と呼ばれたんじゃが、これらのIBM-PC互換機用に最も売れたソフトのひとつがロータス1-2-3だったんじゃ。
ビジカルク(VisiCalc)という世界初のパーソナルコンピュータ用の表計算ソフトからシェアを奪って、大成功したソフトだったんじゃが、マイクロソフトがExcelをMS-DOSやその後継であるWindowsに対応させたことでシェアを逆転され、市場から消えていったんじゃよ。つまりポジションを守れなかったんじゃ。

そのIBMも今ではPC事業を中国企業に売却し、栄光のThinkPadブランドすら手放してしまったんじゃが、Appleが切り拓いたパーソナルコンピュータ市場にIBMが参入した時は、証券アナリストが疑問視した「2年で50万台を販売する」という計画を、4倍以上の実績でクリアし、参入後は世界のパーソナルコンピュータ市場の王者に君臨したんじゃ。
しかし、そのポジションも守れなかったんじゃよ。パーソナルコンピュータのコアテクノロジーであるCPUはインテルから、OSはマイクロソフトからどの企業でも購入することが出来たので、すぐコンパック、ゲートウェイ、DELLなどのPC専業メーカーが出現し、あっという間にIBMからシェアを奪い取っていったんじゃ。

ネットスケープもしかりじゃな。インターネット閲覧ソフトであるブラウザを開発し、創業者のマーク・アンドリーセンが「このソフトは世界のすべてを変える!」と豪語してあっとう間に株式上場まで果たしたネットスケープ社は、マイクロソフトがWindows 98にブラウザを組み込んで実質無料にしてしまったことで、あっという間にシェアを失い消えて行ったんじゃ。

この無料化することで競合を駆逐する戦略は、ポーター博士の3つの基本戦略のひとつ「コストリーダーシップ」の発展系で、後にGoogleがこの手法でアクセスログ解析ソフトの大半を市場から駆逐してしまった時に再現されたんじゃ。これは記憶に新しいじゃろ。
つまり新しいテクノロジーを真っ先に採用して、短期間素晴らしいポジションを取る事が出来ても、そこを守れなければ意味が無いんじゃよ。

では、守れた企業と守れなかった企業の戦略にどんな違いがあるのかの?その鍵が「トレードオフ」なんじゃ。トレードオフとは、そのポジションを獲りに行く時に「何を捨てたか?」と言うことなんじゃよ。何かを捨てなければエッジが立たず、競合にあっという間に模擬されてシェアを奪われてしまうんじゃ。だから「競合が捨てられない何か」を捨てる事で競合優位性を確固たるものにするんじゃよ。

DELLがパソコンのダイレクト注文生産販売(BTO:Build to Order) で急成長した時の事じゃ、多くのパソコンメーカーもこのダイレクト販売を導入しようとしたんじゃよ。IBMも「IBM PC-Direct」という新しい販売チャネルを立ち上げたんじゃ。1990年代前半にこのIBMの販売チャネルの基本設計を担当したのはコネチカット州に本拠を置くマーケティング会社で、ディレクターはワシの友人だったんじゃよ。
しかし、この非常に精緻に考えられたモデルは、実際に始めてみると既存の販売チャネルからクレームの大合唱に遭って立ち往生になるんじゃ。ダイレクトチャネルで売るなら店頭のIBM製品を全部撤去する、とか全額返品するとかでの、危うく集団訴訟まで起きるところだったんじゃよ。お陰で導入が決まっていた日本ではついにWebの深い階層でこっそり紹介するだけで誰にも気付かれずに終了したんじゃ。

DELLは最初から既存の流通チャネルに販売してもらうことや、店頭に並ぶことを期待していないから、このトレードオフが織り込まれた戦略ポジションが取れたんじゃな。何かを取ろうとすれば必ず何かを失う、逆に言えば失うものが大きい程、既存の競合はそれを捨てられないから強固なポジショニングが可能だと言う事なんじゃよ。
パソコンメーカーの人が、家電量販店との値引き交渉でげんなりしているのを見たことがあるかの?実はAppleだけはなんの妥協もせずに量販店に売らせているんじゃ。彼らは直営のアップルストアと独自のオンラインチャネルで十分に売上げを作れるので妥協する必要は無いんじゃよ。その代わり、他のPCメーカーのように作った製品をダイワボウのような流通にそっくり買ってもらうという「楽」はしてこなかったんじゃ。
ユニクロの自社生産、自社販売で原材料の仕入れから店頭までを完全にコントロールできる戦略も同じじゃよ。製造したものを自社の店舗だけで売り切らなければならないから、リスクも高いのじゃが、ユニクロにこれをやられると、販売は小売店に依存している衣料品メーカーも、製造はメーカーに依存している小売店も対抗できないポジションになるんじゃよ。

もうひとつの例を挙げればLCC(格安航空会社)じゃろう。LCCの圧倒的な低価格が食事やドリンクの有料化で実現できたと思っている人はまさかおらんじゃろう?あれを実現したのは、航空業界のセオリーとも言うべき「ハブ&スポーク」を捨てたところから出ているんじゃ。
ハブ&スポークとは自転車の車輪のように、中心のハブに対してスポークが広がっているように、世界の数ヶ所にハブを持ち、ハブ間は航続距離が長く多くの旅客を乗せることが出来る大型機で繋ぎ、ハブからの中・近距離は中型機で繋ぐという運航スタイルで、多くの航空会社はこの方法で運航されているんじゃよ。とても効率は良いのじゃが、これの欠点は多くの種類の航空機を用意しなければならない点で、機種が多いと、それぞれの整備技術を学び、部品をストックし、操縦を学ばせ、ライセンスを取らせなければならないんじゃ。これがすべてコストに反映されるんじゃな。
実は多くのLCCは単一機種なんじゃよ。その機種では行けない距離には飛ばないし、近すぎて効率が悪いところにも飛ばない。とにかく単一機種で運行できることを第一に経営しておるんじゃ。こうなると多機種を持たざるを得ないハブ&スポークで運営されている大手航空会社には実現できない低コストを実現できるんじゃ。

つまりこうした「トレードオフ」で、既存の競合が依存しているものを「捨てた」戦略ポジションをとれば、そう簡単に模擬できないんじゃよ。だからトレードオフ、つまり「捨てること」が大事なんじゃ。その延長線上にある現実が「総合」が付く業種はダメですよ、ということなんじゃ。「なんでも出来る」は「なんにも出来ない」と同義じゃからの。

さて、戦略ポジションや、その選定であるポジショニングに関しては、ポーター博士に代表される学派と、それぞれの企業固有の経営資源をベースに組み立てるべき、というゲイリー・ハメルやジェイ・B・バーニー、デービット・アーカーなどのRBV学派などがあるんじゃが、それはいずれファイブフォースの解説の時にでも説明しようかの。

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