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2014.02.18

ジェフリー・ムーアとマーケティングバイブル

ハイテクマーケティングのバイブルと言われる「キャズム」。その著者であるジェフリー・ムーアとはいったいどんな人なのか。
ジェフリー・ムーアの人となりと、そのキャリアをノヤン先生が語ります。

さて、今日は現代のBtoBマーケティング、特にハイテク分野でのマーケティングに関しては圧倒的な影響力を持つジェフリー・ムーアについて語ろうかの。何しろムーアが1991年に書いた「キャズム(原題:Crossing the Chasm)」は世界的なベストセラーになっただけではなく、発売直後から今に至るまでハイテクマーケティングのバイブルと言われ続けておるんじゃよ。米国のマーケティング関係の講演や書籍ではたびたび引用され、この本を読んでいない人なんていない、という前提で話が進む程なんじゃ。
ベストセラーを書いただけでなく、その中で提唱した「キャズム理論」や「コア/コンテクストアナリシスフレームワーク」は現代ハイテク企業の経営戦略を立てる上での重要な指針になっておるんじゃ。

でもワシは、ムーアの評価はその偉大な功績に対して未だ足りないと思っておるんじゃよ。その理由を考えるに、フィリップ・コトラーセオドア・レビットピーター・ドラッカーゲイリー・ハメルマイケル・ポーターなどの学者と違ってムーアはコンサルタントなので、一段下に見られているのかも知れんの。これがちょっと不満なんじゃな。

さて、彼の略歴を紹介しようかの。ジェフリー・ムーア(Geoffrey Alexander Moore)は1946年に米国オレゴン州のポートランドで生まれたんじゃ。米国有数の名門大学であるカリフォルニアのスタンフォード大学文学部を卒業、ワシントン大学でも英文学を専攻し文学博士号を取得しておるんじゃ。
実はムーアは短期間じゃが英文学の講師としてミシガン州の大学で教鞭を取ったこともあるんじゃよ。彼の著作が読み物としても面白く、優れた比喩や言い回しを多様し、時にユーモラスに判りやすく書かれているのは、こうした文学のバックボーンがあるからじゃろうな。しかし文学青年として英文学の研究者であったムーアに大きな転機が訪れるんじゃ。

家族とともにカリフォルニアに移転し、そこでランド・インフォメーション・システムというソフトウェア会社で営業とマーケティング担当の重役として採用されるんじゃ。ここから彼のシリコンバレーでのキャリアがスタートするんじゃが、その後の10年間で3〜4社のハイテク企業でマーケティングやセールスマネージャーとして勤務した後、その経験を活かしてレジス・マッケンナグループに参加するんじゃよ。
この会社はハイテクマーケティングの元祖とも言われたレジス・マッケンナ氏が創業し、アップル、インテル、タンデムなどのシリコンバレー創成期のハイテク企業をクライアントに持つ当時世界有数のマーケティングコンサルティングの会社だったんじゃ。ムーアは、今までの経験と、マッケンナグループのナレッジを組み合わせてハイテク分野の戦略コンサルタントとして活躍し、プリンシパルからパートナーへと駆け上がったんじゃ。さらにベンチャーキャピタルの経営にも参画し、今度は投資家として投資先の選定やスタートアップ企業の経営の梃入れや整理などを経験することによって、学者とはまったく異なる非常に実務的で多様性のあるキャリアを形成していたんじゃ。
そしてそれらが文学博士の表現力と化学反応を起こして、最高に面白い経営戦略本の執筆へと昇華していったんじゃよ。人生とはつくづく面白いもんじゃの。

こうしてシリコンバレーのハイテク産業の中で実務のマーケティングを行いながら、ムーアはひとつの大発見をするんじゃ。それがイノベーションのベルカーブ上に存在する「亀裂(キャズム)」なんじゃよ。
「キャズム理論」を簡単に説明すると、社会学の権威エベレット・ロジャーズ博士が1962年に提唱したイノベータ理論のベルカーブに亀裂(キャズム)があることを発見し、なぜそこに亀裂が存在するのか、なぜ多くの製品や企業はそこに落ちるのか、また落ちた場合はどうやって這い上がるのかを説明した理論なんじゃ。

ということで先ずロジャーズ博士のイノベータ理論を簡単に説明せねばならんじゃろ。これはロジャーズ博士が、農村で農業に関する新しいイノベーション、つまり新しい農法や農機具、改良された品種などが入ってきて、それが地域に普及していく過程を研究し論文にまとめたものなんじゃ。
横軸に時間を、縦軸に普及度(シェア)を取ったグラフで表現するとちょうどシンメトリックス(左右対称)な鐘の形になることから「イノベーションのベルカーブ」と呼ばれておるんじゃよ。そのベルカーブの中のそれぞれの集団の特性を、時間軸の早い方から「イノベータ」「アーリー・アドプター」「アーリー・マジョリティ」「レイター・マジョリティ」「ラガード」の5つに分けて説明しておるんじゃ。ちなみに最後尾のラガードは何があっても新しいものを使うのは嫌じゃ、という人たちじゃな。

マーケティングの世界では長い間、このベルカーブの最初のイノベータとアーリー・アドプターを足した全体の16%のポイントを「クリティカルマス」と呼び、ここまで普及させることが出来れば後は一気にマスマーケットに普及すると言われてきたんじゃ。だから市場に新しいコンセプト(イノベーティブ)の製品やサービスを投入する時のマーケティングプランは、いかに早く全市場の16%(クリティカルマス)まで普及させるかがメインテーマだったんじゃ。
ところがムーアはBtoB、特にハイテク市場においてはこのクリティカルマスは必ずしも存在せず、逆にこの16%のところに大きな亀裂(キャズム)が存在し、多くの製品・技術・企業がそこに落ちて這い上がれずに消えて行っていると指摘したんじゃよ。ムーアはシリコンバレーのハイテク企業でのキャリアの中でこれを発見し、やがて自分の会社「キャズムグループ」を設立して、長年に渡ってこのキャズムと戦ってきたんじゃ。
そしてその経験を基に書かれた本が、ムーアが1991年に初めて著した「キャズム」なんじゃよ。このマーケティングコンサルタントと投資家と経営者の視点を併せ持つムーアだから書けた本は世界的な大ベストセラーになり、現代のマーケティングバイブルの一冊にまでなったんじゃ。

このキャズムの発見と実証をムーアの第1の功績とすれば、第2の功績は、そのキャズムに落ちない、又はキャズムからの脱出方法をロジャーズ博士のイノベータ理論に、セオドア・レビット博士のホールプロダクト理論をクロスさせて考案したことじゃろうな。
故レビット博士は言うまでもなくマーケティングの大家で、教授を務めていたハーバード大学のみならず、世界的なマーケティングの権威として多くの論文や著作を世に出した人なんじゃ。この人の代表的な理論のひとつである1960年代に発表した「ホールプロダクト理論」をイノベータ理論と組み合わせ、マジョリティ市場を獲得するには同心円の外側がいかに重要かを説いておるんじゃよ。

このキャズム理論の他にも、ゲイリー・ハメル博士やC.K.プラハラード博士などのリソースベースドビュー(RBV)学派の学説を取り入れた「コア/コンテクストアナリシスフレームワーク:(Core/Context Analysis Framework)」を提唱し、その実施法に救急医療の分類手法である「トリアージ」を取り入れるなどムーアの功績は数知れないんじゃよ。そうしたムーアの理論はおいおい紹介していこうと思っておるんじゃ。

最後に、このムーアが脚光を浴びたキャズム理論のベースとなったイノベータ理論の提唱者であるロジャーズ博士との関係を話そうかの。
実は、エベレット・ロジャーズ博士はこのキャズム(亀裂)の存在をはっきり否定しておるんじゃ。これが不仲説の原因じゃな。ロジャーズ博士がこのイノベータ理論を発表したのは1962年に出版した「Diffusion of Innovations:邦題 イノベーションの普及」という本なんじゃが、博士はこの本を40年以上にわたって手を入れ、加筆修正を繰り返して改訂し続けたんじゃ。その最後の改訂版の中ではっきりと「アーリー・アドプターとアーリー・マジョリティの間に亀裂(キャズム)が存在するという研究者(ムーア)がいるが、これまでの研究ではその亀裂(キャズム)なるものが存在するという主張を裏付ける知見は無い」と言い切っておるんじゃ。こうも明確に否定するのもどうかと思うんじゃが、ワシが思うにこれはロジャーズ博士の専門が農村の社会学(BtoC)なのに対し、ムーアの専門分野がシリコンバレーのハイテク産業(BtoB)なので、起こる現象やその構造がまったく違ったということではないかと考えておるんじゃ。そもそも良く勘違いされるんじゃがエベレット・ロジャーズ博士はマーケティングの人ではないからの。そしてこの論争はロジャーズ博士が2004年に亡くなったことで終止符が打たれたんじゃ。

この現代のマーケターの必読書とも言える「キャズム」じゃが、実は日本の製造業や流通業などのIT以外の分野の人にはあまり読まれていないんじゃ。社内研修などで講義をする時に「キャズム理論は知ってるかの?」と質問すると意外に知らない人が多いんじゃよ。これは非常にイカンことじゃな。コトラーやポーター、レビットなどの古典ももちろん重要じゃが、このムーアも必ず押さえておくべきオピニオンリーダーの一人なんじゃよ。

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