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2015.06.08

デービッド・アーカー博士とブランド論を辿ってみれば

マーケティングの大きな要素である「ブランド」。その認知と役割は時代とともに変化し続けてきました。今回は、ブランド論の第一人者デービッド・アーカー博士の功績を振り返り、ブランド論のルーツとその変遷をノヤン先生がご案内します。

世界有数の経済誌フォーブスが「The World's Most Valuable Brands 2015」を発表したの。
Appleが1位でMicrosoftが2位、Googleが3位なのは良いとして、日本ではほとんど知名度のないVerizonや、少ないシェアしか持っていないAmerican Expressが上位にいるので、「世界の」ではなく「米国の」と言えるランキングじゃから異論や反論は山ほどあるのは置いておくとして、このランキングの出し方が「収益額」または「株価収益率」を参考にブランドの貢献度を比較しているんじゃよ。面白いじゃろ。つまり単なるアウェアネス(認知度)ではなく、売上げや利益への貢献度を物差しに算出されたランキングなんじゃよ。

David Aaker(デービッド・アーカー)博士

David Aaker 
(デービッド・アーカー)博士

このブランドの収益への貢献という考え方を世に広めた人が、David Aaker(デービッド・アーカー:以下アーカー)博士なんじゃ。

もし今、「ブランド論の第一人者は誰ですか?」と質問すれば多くの人はアーカー博士の名前を挙げるじゃろ。
アーカー博士は1938年にノースダコタ州で生まれたアメリカ人で、MIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業した後スタンフォード大学で統計学の修士を、さらに経営学の博士号を取得した理工系からの経営学者じゃな。つまりこの人は「経営学」の学者なんじゃよ。学位取得後はUCB(カリフォルニア大学バークレー校)の大学院で教鞭を執っておって、日本にもたくさんの教え子がいるんじゃよ。
それにじゃ、アーカー博士にはJennifer Aakerというとっても美しい娘さんがいて、彼女もスタンフォード大学の大学院でマーケティングを教えているんじゃよ。ソーシャルネットワークの研究者として有名な学者で作家でもあるんじゃ。もちろん親のコネで何かができる世界ではないから、才能あふれる娘さんなんじゃな、まさに親子鷹じゃ。

現代の経営学、あるいは経営戦略論の第一人者と言えば、マイケル・ポーター博士の名前が真っ先に挙がるじゃろ。ハーバードビジネススクールで、史上最年少で正教授になり、「ファイブフォース理論」を提唱し、世界のベストセラーを何冊も書き上げ、ビジネススクールの経営戦略論の教科書にはほとんどこの人の本が採用されるというくらいなんじゃからの。
この「ファイブフォース理論」は外部環境に立脚した経営戦略論と言われておるんじゃ。中心に「既存の業界内のライバル関係」を置き、これを「仕入先の交渉力」「購買者の交渉力」と「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」が上下左右で囲んでいる構図でファイブフォースを表現するからこう呼ばれるんじゃが、実はこの理論にはアンチが多いのじゃよ。

そのアンチの代表格が「内部経営資源学派(Resource Based View:以下RBV)」と呼ばれる一派で、「経営戦略というのは、あくまでもその企業内の経営資源に立脚して立案しなければ役に立たない」と主張する人たちじゃな。
ゲイリー・ハメル博士やC.K.プラハラード博士、ジェイ・B・バーニー博士などがこのRBV学派の中心的な人たちなのじゃが、アーカー博士もこのRBV学派に分類されることが多いんじゃ。アーカー博士は元々経営学の学者な上に企業ブランドというのは紛れもなく内部経営資源のひとつじゃからの。

アーカー博士を最初に有名にしたのは「Managing Brand Equity:邦訳『ブランドエクイティ戦略論』」という本じゃろう。この中でアーカー博士は、ブランドは「エクイティ」、つまり資産だから、これを構築するために費やしたコストは会計上きちんと計上されるべき資産なんじゃと。そしてこのブランドの価値を上げれば企業や製品の価値も増大し、逆にブランドを放置したり、ブランドを傷つけるような問題を起こせばブランド価値は毀損し、企業や製品の価値も下がるという考え方なんじゃ。もっともな事じゃろう?

そしてブランドは貴重な企業の無形資産だとした上で、その管理手法、組織、組織運営の考え方、さらにはブランドを破壊する場合の注意事項までを数多くの著作の中で詳細に解き明かしておるんじゃよ。
アーカー博士は後年さらに踏み込んで、ブランドは企業内部への浸透が大切じゃと説いておるんじゃ。「内なるブランド戦略」じゃな。つまり従業員や関連会社に対してブランドを浸透させることが出来れば、彼らひとりひとりがその言動や行為によってさらにブランドを輝かせ、逆に内なるブランドの浸透を怠ると、彼らが先ずブランドを傷つける、と言っておるんじゃ。これも恐ろしい話じゃの。

重要な事は、このアーカー博士の功績によって、ブランドを資産として評価することが正当化されたことじゃな。今日では企業を買収する時に行うデューデリデンス(第三者が企業の資産価値を算定する作業)で、企業や製品のブランドを「のれん代」として算定して計上することは当たり前になっておるんじゃよ。もちろん資産じゃから、売買することも出来るし、原価償却や特別損失の対象にもなるんじゃよ。これもアーカー博士が「ブランドは資産である」といい続けたおかげなんじゃよ。

実はワシもずいぶん前から、「顧客を含むリードデータベースは資産であり、それを構築するための展示会や名刺のデジタル化などのコストは無形固定資産として計上し、減価償却をするべき」と提唱しておるんじゃよ。会計畑の人に言わせると「管理会計なら無理すれば出来なくはないですかね?」とか「いやぁ無理でしょう」と言われることが多いのじゃが、アーカー博士の成功があるからの、ワシは諦めないで言い続けようと考えておるんじゃわい。

「このブランドは価値のある企業資産だ」という考えを基点にして米国ではある法律が出来たんじゃ。アメリカで十数年前に話題になったサイバースクワッティング法というのを覚えておるかの?正式には「アンチ・サイバー・スクワッティング・コンシューマー・プロテクション・アクト(ACPA:Anticybersquatting Consumer Protection Act)」という長い名前の法律なんじゃがな。
この法律はインターネット上の名称とも言える「ドメイン」が、早い者勝ちで取得され、もしこのドメインを使いたかったら買い取れと言って、法外な金額を要求する手口が横行したんじゃよ。そしてもし買い取らない場合は、相手のブランド価値を毀損するようなことをする、ある種恐喝のような事案まであったんじゃ。
米国ではこれに歯止めをかけるために、サイバースクワッティング法を作ったんじゃが、この法律ができた瞬間から、ドメイン保持の構造が正反対になったんじゃ。これも米国らしいの。つまりさっきのある企業の社名や製品名と同じドメインを取得した人に対して、企業が「このブランドは自分たちが何十年もかけて築き上げたブランドなので、もしこれを使って商売をするならこれだけ支払え」って言えるんじゃよ。そしてそのブランドを確立するために自分たちは過去何年にも渡ってこれだけ投資をしたからと言って、過去の宣伝広告費など全部を原価とし、収益への貢献度などを考慮したブランドの資産価値から算出した使用料を請求できるんじゃ。
これもブランドは資産であるとアーカー博士が主張したおかげじゃな。

このようにアーカー博士のブランド論に対する功績が非常に多いのじゃが、元来が経営学や経営戦略論の学者だったこともあって、どうもブランドだけでは説明できないことまでブランド論で語るきらいがあるような気がするんじゃな。特にイノベーションや事業シナジーに言及する時にこの癖が出るんじゃよ。
でも、ブランド論を確立した偉大な学者であることは事実じゃよ。

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