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2016.03.18

アンゾフマトリックスが解き明かす、日本企業の現状と今後のマーケティング戦略

アンゾフ博士が【多角化のための戦略】という論文で提唱した有名なフレームワークである「アンゾフマトリックス」。縦軸を「市場」、横軸を「商品・サービス」とおき4つにセグメント分けをしたものです。それぞれの象限について、日本のBtoBマーケティングの現状に沿ってノヤン先生が解説します。

今日はアンゾフマトリックスの話をしようかの。
イゴール・アンゾフ博士という学者を知っておるかの?2002年に惜しまれて亡くなった偉大な経営学者での、「企業戦略論の父」とまで言われた人なんじゃよ。マイケル・ポーター博士やゲイリー・ハメル博士など現代経営・マーケティング理論を牽引している大学者達が大きな影響を受けた人なんじゃ。

簡単にアンゾフ博士のプロフィールを紹介すると1918年に極東ロシアのウラジオストックで生まれ、後に父親が米国生まれのロシア人だった関係で米国に移住し、ブラウン大学で応用数学の博士号を取得した後、民間企業で10数年間を過ごして主に製造業で要職を歴任し、最後は航空機メーカーのロッキードエアクラフトの技術担当副社長を経て、カーネギーメロン大学でアカデミックの世界に戻り、以後は世界の経営戦略論をリードした人なんじゃ。

インド人経営学者スマントラ・ゴジャール博士が提唱した「意思決定の3Pモデル」を知っておるじゃろ?

  • 目的(Purpose)

  • プロセス(Process)

  • 人(People)

実はこれはアンゾフ博士が提唱した以下の「意思決定の3Sモデル」を発展させたものなんじゃ。ワシにはこっちの方がすっきりするがの。

  • 戦略(Strategy)

  • 組織(Structure)

  • システム(Systems)

そのアンゾフ博士が提唱した理論の中で最も有名なフレームワークがアンゾフマトリックスなんじゃ。
1957年に発表した【多角化のための戦略(Strategies for diversification)】という論文の中で紹介したんじゃ。もう60年近くも昔に考案されたフレームワークが未だに新鮮さを失わず、現代経営で活用できるのは、T・レビット博士やP・コトラー博士とも共通するところじゃな。

アンゾフマトリックス

これが別名「アンゾフの成長戦略」とも呼ばれるアンゾフマトリックスなんじゃ。

縦軸に「市場」をとるんじゃが、ここを「企業」と読み替えると実感が湧くじゃろう。上が既存の市場(既存顧客)で、下が新市場(新規取引先)じゃな。日本の製造業が新市場と言う場合はここには海外市場が入る事が多いんじゃ。
そして横軸が「製品・サービス」なんじゃ。左が既存製品・サービス、右が新製品・新サービスじゃな。

それぞれの象限を日本のBtoBマーケティングの現状に沿って説明しようかの。

左上は【市場の浸透:Market Penetration】と呼ばれ、「既存市場に既存製品・サービスを売る」という象限なんじゃ。
この象限は、マーケティングというより営業力で守り抜くところじゃな。営業接待による「呑みニケーション」や「ゴルフ」が効力を発揮するし、イベントも展示会に出展するというより内見会のような営業が担当顧客を連れてくるようなハイタッチ型が合っているんじゃよ。

この象限への対応は恐らく日本企業は世界で最も得意だとワシは考えておるんじゃ。日本企業に営業職として配属されると、先輩や上司から「先ず顔と名前を覚えてもらえ」と教えられるじゃろ。フットワークとクイックレスポンスで徹底的に顔と名前、そして販売している製品やサービスを覚えてもらえば、やがてその顧客から「宿題」をもらえるようになるもんじゃ。「これの在庫って今どのくらいありますか?」「この表面処理ってこう仕上げてもらえますか?」「これ何個オーダーしたらこの価格で出してもらえますか?」・・・。
これが「引き合い」と呼ばれる日本の営業が最も大切にしている案件なんじゃ。

実は日本はこの「既存市場に既存製品・サービスを売る」という象限が拡大し続けた珍しい国なんじゃよ。国内市場も海外市場も戦後から始まってリーマンショックまで断続的に成長したんじゃよ。そのお陰でこの象限でだけしか売り上げを創れない「引き合い依存」の企業が多くなってしまったんじゃ。

右上は【製品開発:Product Development】と呼ばれ、市場を企業と読み替えた場合は「既存取引先に新製品・新サービスを売る」と言う象限になるんじゃ。
すでに取引が有り、担当もついて銀行口座も開いている顧客に対して、新しい製品やサービスを買ってもらうという象限なので、よく「クロスセル」と呼ばれる活動じゃな。これは実はあまりうまく行っている企業が少ないんじゃよ。それは、中堅以上の企業になれば既存顧客と言えども事業所や部署が違えば別の企業のようなもんじゃから、相手にとっては良く知らない企業や製品になるんじゃよ、そうなると宿題、つまり「引き合い」は発生しないので引き合い対応しかしてこなかった営業にとっては勝手が違うんじゃ。
期待した程売れなくて生産中止に追い込まれた製品やサービスの大半は実は対象顧客に知られぬまま市場から退場しているんじゃよ。

この問題の解決策が数年前から米国のBtoBマーケティングシーンで大流行しているABM(アカウントベースドマーケティング:Account Based Marketing)なんじゃよ。社内にさまざまなフォーマットで分散している顧客・見込み客データを統合し、データマネジメントした上で、ターゲット企業を戦略的に攻略していこうという思想じゃな。つまり、ここは営業ではなくマーケティングがしっかりワークしないと攻められないセグメントなんじゃ。

左下は【市場の開拓:Market Development】と呼ばれ、日本企業がもっとも深刻に困っている象限なんじゃ。
ここは「既存の製品・サービスを新市場に販売する」という活動になるんじゃが、なぜか日本企業はサイズに関係無く「中期経営計画」というやつを立てるんじゃ。その中でアグレッシブに目標設定してしまうのがここの象限なんじゃよ。
「2020年までの海外売り上げ比率を今の12%から40%まで引き上げる」「3年以内に医療機器製造分野からの売り上げを今の3倍にする」などじゃな。それはもちろん戦略的に正しいんじゃよ。でもじゃな、多くの場合具体的な「How?」、つまり戦術が無いんじゃ。「みんなでがんばる」「打って一丸となってやりぬく」というのでは戦術では無いんじゃよ。

そして、戦術を持たない戦略は「絵に描いた餅」なんじゃな。その戦術がマーケティングプランなんじゃよ。
国内の新市場にしても、海外市場にしても、その市場のリード(見込み客)データをどう収集し、データマネジメントし、啓蒙・育成し、その中から興味・関心が高まり、かつ所属している企業の業種や規模、所属部門などが営業が訪問したいと考えているセグメントと一致する人を探し出して、電話でニーズを確認する、というマーケティングが無ければ砂漠に落ちた小石を探すような気持ちになるじゃろう。そしてこのマーケティングこそがデマンドジェネレーションであり、それを担当する組織こそがデマンドセンターなんじゃ。

最後の右下は【多角化:Diversification】と呼ばれる「新市場に新製品・新サービスを売る」という象限じゃな。もともとこのフレームワークを提唱した論文が【多角化のための戦略 (Strategies for diversification)】じゃからの。

ただ当たり前じゃが、ここは顧客軸でも製品・サービス軸でもシナジーが効きにくいので、現実を考えれば【製品開発】や【市場開拓】で売り上げを伸ばしたいんじゃよ。特に日本企業は【市場の浸透】つまり「引き合い」しかやっていないので、多角化戦略を採らなくてもまだまだ売り上げは伸ばせるとワシは考えておるんじゃ。そこがあらゆる可能性を探り尽くして、最後の多角化に挑むしかない欧米との違いかも知れんの。

歴史的な背景から欧米並みのマーケティング部門やナレッジを持たない日本企業が、この右上と左下の2つの象限で苦戦を強いられている事は、ここを攻略しなければ生き残れない現実を考えればとても笑い事では無いんじゃよ。
繰り返すが、ワシは、この答えは「デマンドセンターの構築と正しい運用」だと考えておるんじゃ。もちろんアンゾフ博士がこの論文を書いた50年前にはデマンドセンターという概念も、それを実現するためのプラットホームであるMA(マーケティングオートメーション)も存在してはおらんかったがの。現代においてはこれだけが解決策じゃし、これ以外に合理的にこの問題を解決できる手法は無いとさえ考えておるんじゃよ。

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