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2017.03.23

ABMの源流にLTVが位置づけられた理由

世界のBtoBマーケティングを席捲しているABM。その源流には、25年前に世界的なベストセラーになった一冊の本がありました。ABMとLTVの関係をノヤン先生と勉強しましょう。

さて今日は、Account Based Marketing(以下ABM)の源流にして、シェアの概念の転換点となったLife Time Value(以下LTV)について勉強しようかの。
日本語では「顧客生涯価値」とも訳されるLTVじゃが、最近まではBtoCの要素が強く、BtoBマーケティングには馴染まないと言われていたんじゃよ。ところがじゃ、最近BtoBマーケティングで脚光を浴び、論文や講演などで取り上げられることが増えているんじゃ。面白いじゃろ?

でも、その前にLTVのおさらいをしようかの。
ドン・ペパーズという人をご存じかの?アメリカのマーケティングコンサルタントで「One to Oneマーケティング」という言葉を広めた人物なんじゃ。マーケティングの学者である才媛マーサ・ロジャーズとのコンビで1993年に「The One to One Future―顧客リレーションシップ戦略」という本を出版したんじゃよ。この本は、ビジネス書としてはありえないくらい世界中で大ベストセラーとなり、著者であるこのコンビは一躍有名になったんじゃ。日本でも比較的早く、米国から遅れること2年後の1995年に出版されておるんじゃ。
ハイテクマーケティングのバイブルと言われたジェフリー・ムーアの「Crossing the Chasm(邦題:キャズム)」が日本での出版まで10年も掛かったのと比べると大違いじゃの。
ドン・ペパーズは「One to One」という言葉を商標登録し、CRMソリューションなどがこの言葉を使うときの使用料と、世界中での講演、そして著作権でコネチカットにそりゃあ立派な豪邸を建てたんじゃ。凄いもんじゃの。

この本の第2章の中で彼らが説明しているLTVは、それまでのシェアの概念を劇的に変えたんじゃよ。実はこの本の以前から統計の世界でLTVは知られておったんじゃが、経営戦略の中での意味や、具体的な手法に落ちていなかったので、ただの計算式として認知されていたんじゃよ。そういう意味では、LTVとデータベーステクノロジーを組み合わせて新しいマーケティングカテゴリーを創ったとも言える本なんじゃよ。

それまでシェアと言えば、市場占有率だけだったんじゃ。例えば埼玉県で2016年に2000ccの車が30万台売れ、その中の15万台がトヨタの車だとしたら、メーカー別のシェアで見るとトヨタが50%、ということで、まぁ文字通りのシンプルな市場占有率じゃな。つまり製品やサービスのカテゴリーを定義し、エリアと期間を定義することでそのエリア内での占有率(シェア)を算出したわけじゃ。
そしてこのシェア(市場占有率)を上げることがマーケティング活動の目的であり指標になったんじゃ。シェアを上げるための代表的な手法としては、マスメディアを使って認知度や好感度を上げ、それをテコにして店頭に集客するというものがあり、BtoCでは定番のマーケティング活動だったんじゃ。

自動車販売であれば、ある車種がモデルチェンジしたら、自動車メーカーはテレビや全国紙、雑誌などのマスメディアに大量に広告を出稿し、販売する各ディーラーはそれぞれの地方メディア、つまり地方紙や折り込みチラシ、地元のFMラジオなどに広告を出稿し、最寄りの営業所に誘導して、展示してある車を見たり、試乗したりさせるようにしたものなんじゃよ。そして来場した人からはアンケートをとり、それを担当エリアに振り分けて絨毯爆撃のような営業を仕掛けたものなんじゃ。今でもこうやっているカーディーラーは多いがの。

これに対して、ドン・ペパーズは、市場シェアではなく、個人のシェア、つまりLTVを獲るべきだと主張したんじゃよ。

LTV(顧客生涯価値)とは、顧客個人の生涯の中でのある製品カテゴリーの占有率を指すんじゃ。よく知られたことなんじゃが、アメリカ人はとっても統計好きでの、それはいろいろな統計データを持っているんじゃ。平均的なアメリカ人は、生まれてから死ぬまでにハンバーガーを何個食べる、ジーンズを何本購入する、歯の治療にいくらのお金を使う、そして車を何台購入するなど、非常に多様で精緻なデータを持っておるんじゃよ。

オレゴン州に住むAさんという人が、生まれてから死ぬまでに17台の車を買うとして、その中の何%のシェアを獲ることが出来るか、つまりその人が生涯で、そのカテゴリーに使うお金の何%を占有できるか、という概念がLTVなんじゃよ。つまり「シェア」という概念が、エリア区分から個人になり、単年度から生涯になったんじゃな。

このLTVを獲得するには、顧客データベースが無いとどうにもならないんじゃよ。
よく「ダイレクトマーケティング=データベースマーケティング」と言われるのは、ダイレクトマーケティングをやるにはデータベースがないと実質的には不可能だからなんじゃ。

なぜデータベースが必要なのか考えてみようかの。

例えば自動車で個人のシェア(LTV)を取ろうと思えば、ライフイベントとライフスタイルを把握する必要があるんじゃよ。

ライフイベントとは就職、結婚、出産・育児などじゃな。独身の頃は2ドアのスポーツタイプに乗っていた人でも、結婚して子供が出来ればベビーカーの積み下ろしや、奥さんの買い物などの使い勝手も考えるから、やはりワンボックスやワゴンタイプに替えるじゃろうし、もしローンで住宅を購入すれば、もう車に回す予算は以前ほどでは無いかも知れないじゃろ?これがライフイベントじゃな。

ライフスタイルは把握がもっと難しいんじゃ。まさに十人十色じゃからの。
例えば、家族でスキーを楽しむ人であれば、車は4輪駆動でスキーキャリーが取り付けられる車を買うじゃろうし、動物好きで大型犬を飼っていれば、大型犬用のケージが積めるタイプを選ぶじゃろう。ゴルフが趣味の人はやはりトランクの大きさを気にするはずなんじゃ。ゴルフバッグが人数分積めないと困るからの。
こうしたライフスタイルも車の選定には非常に重要な要素になるんじゃよ。じゃから、この情報を持っていなければLTVを獲得することは不可能なんじゃ。そしてこうしたライフスタイルやライフイベントを格納しておくのは顧客データベースなんじゃよ。

このデータベースをCRM(Customer Relationship Management)と言うのじゃが、1990年代の活用事例にお米屋さんの事例が有ったんじゃ。
このお米屋さんは、米の消費量は家族構成で決まり、家族構成が変わらなければ消費は一定ということに着目して、顧客の家庭ごとの消費を可視化できるシステムを組んだんじゃ。つまり米びつの中の残量が判る仕組みじゃな。これを見ていると「浮気」つまり他店で購入した家庭がすぐに分かるんじゃ。米びつが空なのに買いに来ないんじゃからの。そのお米屋さんが言うには、浮気は1回で止めさせないと、2回以上続くと今度はその浮気先のお店の常連になってしまうので、次の米びつが空になる前に何が何でも取り返す、ということを実施しているそうなんじゃ。
実はこのCRMを運用し始めてから、顧客の離反率が明らかに減っていたんじゃよ。これが典型的なCRMの活用なんじゃ。まさにLTVの獲得じゃな。

では、そろそろ「なぜ今、BtoBマーケティングでLTVが取り上げられているのか」という事を説明しようかの。
BtoBは文字通り法人営業企業じゃな。法人には自然人のような寿命もライフイベントもライフスタイルもないじゃろう。何かを購買する時には経済合理性が優先され、機能や納期、価格などで決定するので、LTVの考え方はBtoBには馴染まないと言われてきたんじゃよ。それが一気にBtoBでも語られるようになったきっかけは、2012年頃から米国で脚光を浴びてきた「ABM(Account Based Marketing)」なんじゃ。
2017年現在では、ABMは世界のBtoBマーケティングの主流になっており、昨年(2016年)私が参加したいくつかの海外のマーケティングカンファレンスでも、セッションやアナリストカンファレンスのテーマはほとんどABMだったんじゃ。

ABMの定義は、

【全社の顧客情報を統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売り上げ最大化を目指す戦略的マーケティング】

というものなんじゃ。つまりターゲットとして定義した企業(アカウント)から、企業にとってのLTV(顧客生涯価値)を獲得しようというものなんじゃ。企業には人間のような寿命は無い代わりに、人間やその家族とは比べものにならない数の社員や部署、事業所を抱えておるから、企業の内部で発芽したニーズを誰よりも早く発見し、顧客の求める情報やヒントを提供することで、「人と人という点」ではなく、「製品と顧客という線」でもなく、「企業と企業という面」での関係を構築し、その結果としてターゲット企業からの売り上げ最大化を目指すというマーケティングなんじゃよ。
LTVを獲得するためにCRMという顧客データベースが必要だったように、ABMにもMA(Marketing Automation)という顧客データベースが必要なんじゃ。そしてABMの胆はデータマネジメントであり、その要諦は、企業データと個人データを完全に名寄せし、企業と個人を紐付け、企業に業種や社員数、売り上げなどの属性情報を付与することが最初の一歩であり、その状態を永く維持する事が最も難しいんじゃよ。だから、MAをプラットホームにしたデマンドセンターを持っていない企業が、いきなりABMをやろうとしても出来るわけがないんじゃ。

ABMを世界で最初に提唱したのはボストン郊外に本部を置くITSMAというIT分野に特化したアドバイザリーファームだと言われておるんじゃよ。そこでSenior Vice President and ABM Practice LeadをつとめるBeverley Burgessは2016年暮れにワシが出版した「究極のBtoBマーケティングABM」に熱いメッセージを寄せてくれたんじゃよ。ありがたいもんじゃの。
このITSMAは最近になって1993〜2016年までに亘るABMの歴史を「The Rise of Account Based Marketing」という図でまとめたんじゃが、その中で最初の起点となっているのは、ドン・ペパーズとマーサ・ロジャーズが1993年に出版した「The One to One Future」なんじゃよ。
ABMの源流にLTVが位置づけられている事を理解してもらえたじゃろうかの。

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