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2017.07.26

BtoBマーケティングオーケストレーションとは

シンフォニーマーケティングの社名の由来にもなった「オーケストレーション」という組織のデザイン思想をノヤン先生が自身の体験から語ります。

先日、出張先のアムステルダムで、ドイツのマーケティングエージェンシーの経営者から「なんでシンフォニーマーケティングという社名にしたんだい?」と質問されたんじゃ。実はこの質問はありそうで無かった質問で、創業直後はともかく、最近ではとんと出会わなかった質問なので、ちょっと嬉しかったんじゃよ。そして、この質問に応えて話しをしているうちに、ここに多くの日本企業が苦しんでいる問題に対するヒントがあるような気がしたんじゃ。

シンフォニーマーケティングのWebの会社情報の中に「社名の由来」というページがあって、そこにはこう書いてあるんじゃ。

才能が調和(ハーモニー)し最高のサービスを提供し続ける企業になりたいという「想い」を込めて。

クラシック音楽の中でも「Symphony(交響曲)」は100人近いフルオーケストラで演奏される最も荘厳で完成度の高いものです。
弦楽器、木管楽器、金管楽器・・・、多くの楽器とそのスペシャリスト達が、指揮者のタクトに合わせて演奏し、それぞれの楽器の奏でる音が幾重にも重なった絶妙のハーモニーが生まれます。
私たちも多くの分野から優れた専門家を集め、その才能が調和(ハーモニー)し、クライアント企業に最高のサービスを提供し続けるような企業になりたいという「想い」を込めて社名にSymphony」という言葉を冠しました。

日本企業は、製造現場や一部の技術部門を除けば、社員をゼネラリストに養成したいかのような人事異動で動かす傾向があるんじゃ。そして営業や技術部門であっても、ある程度上に行くとマネジメント要員としていろいろな職種を経験させ、ミニ経営者を育成し、そこから徐々に絞って50代後半に企業の経営を担えるトップマネジメント層を形成し、その中からトップを選出するという手法を採ってきたんじゃな。日本企業の戦後の急成長や、海外での活躍を観れば、この手法が間違っていたとは誰も言えんじゃろ。間違った手法ならあんな見事な大輪の花は咲かんからの。そして強烈な成功体験が有れば有るほど、そこから抜け出すことが難しくなるもんなんじゃよ。

でも、時代は変わったんじゃ。

ワシは現代の経営は、専門家によるオーケストレーションでなければ無理じゃと考えておるんじゃ。それぞれの分野で専門性が高くなり、その分野を経験した事がない人が組織をマネジメントすること自体無理になってきているんじゃよ。

ワシの相棒のマーケターとしてのキャリアは商業施設の企画・マーケティングの会社から始まるんじゃ。大学時代からマーケティング研究会を組織し、新規顧客開拓やロイヤル顧客の定着化を研究していた事を評価されて、当時上場直前の急成長している会社に採用されたんじゃ。この会社の超ブラックな話しは別の機会にするとして、当時の大型商業施設の企画や開発は当時最先端のマーケティングテクノロジーを使っていたんじゃよ。

ショッピングセンターや百貨店などは土地の買収から施設の建設までの初期投資額が非常に大きいので、売り上げ予測を厳密にする必要が有ったんじゃ。よく使われていたのがカリフォルニア大学のハフ教授(David Huff)が考案したハフモデルと呼ばれる「売り上げ予測モデル」だったんじゃが、変数に入れる基礎データを収集するだけで大変な手間が掛かり、数ヶ月の期間を掛けて、コストは数千万円という調査計画を組むんじゃよ。
そして、その売り上げ予測に基づいて施設内のゾーンニングや導線計画を引き、テナントを集め(リーシング)、内装規定を固め、各テナントから内装図面を提出してもらって規定に照らしてチェックし、その施行状況までを監理し、無事にオープンまで持っていく仕事だったんじゃ。

商業施設の既存店や競合店の調査は、要素分解して行うものなんじゃが、その要素にコンサルティングファームの個性が出るものなんじゃよ。相棒が叩き込まれたのは

  1. 環境
    立地、交通アクセス、商圏の人口&所得動態、競合の分布状況

  2. 装置
    施設の規模、外装・内装のデザイン、導線計画、駐車場

  3. マーチャンダイジング(MD)
    サービスを含む広義の品揃え、テナント、ブランド、競合との差別化できる商品

  4. オペレーション
    人員計画、販売員の教育研修、売り上げ分析によるMDの見直し、テナントの入れ替え、顧客管理

  5. プロモーション
    カスタマークリエーション(新規顧客の獲得)、カスタマーリテンション(既存顧客の定着)

の5つの要素でそれぞれ深堀りする手法なんじゃ。
周辺市町村の人口分布や平均年齢、所得、幹線道路の交通量や公共交通機関の輸送量、競合店のカテゴリーごとの床面積、駐車場のキャパシティなどのデータを収集し、それらをハフモデルでシミュレーションを繰り返し、基本設計を何度も引き直し、テナントを埋め、設計、施工してオープンまでこぎ着けるのが、【1.環境、2.装置、3.マーチャンダイジング】まで、そしてその後のオペレーションでは顧客データ管理や売り上げ分析からのテナントの入れ替えや、品揃えの変更、それに伴う組織変更、採用、トレーニング、評価などが【4.オペレーション】で、新規顧客の獲得や、既存顧客の再来店を狙ってさまざまなメディアやイベントを組み合わせて展開するキャンペーンなどが【5.プロモーション】になるんじゃ。

ここまででも、多くの専門性の高いスタッフが必要なことがわかるじゃろ?
そして、それぞれの仕事は他の要素を構成するスタッフにはほとんど理解できない事ばかりなんじゃよ。内装の施工監理をする人は設計図面や建築法規、構造計算は理解しても、売り上げ予測に使うハフモデルはさっぱりわからんし、品揃え(マーチャンダイジング)を考える人にとっては、構造計算や消防検査の知識は必要ないし、販売要員の採用やトレーニングを行う人にとってはプロモーションのメディアプランなどはまったく理解できないことじゃからの。

そして、商業施設に関わる仕事の面白さはこれなんじゃよ。まったく異なる分野の専門家が集まってひとつの目的のために知識と経験と知恵を集める。これは本当にエキサイティングなんじゃ。大型商業施設の場合、都市再開発法や都市計画法などの法規制もあるので、構想からオープンまで10年掛かることも珍しくは無いんじゃよ。オープニングセレモニーでハンカチが必要な気持ちも判るじゃろう?

1990年に自分の会社を創る時、ワシと相棒はBtoBマーケティングもこれと同じ考えでデザインしようと考えたんじゃよ。

その企業の製品やサービス、技術を理解して、マーケティング戦略の基本設計をするのは【コンサルタント】の仕事じゃし、企業内のさまざまな場所にバラバラのフォーマットや状態で分散している顧客・見込み客のデータを収集し、それを名寄せ、企業と個人の紐付け、競合排除、属性情報の付与などのデータマネジメントを行うのは【データオペレーター】じゃし、そのデータの傾向分析をしてキャンペーン設計をするのは【マーケティングプランナー】なんじゃ。【コピーライティング】は独立した専門性が必要じゃし、それはWebなどの【クリエイティブ】も同じじゃな。
キャンペーンを実施したらその効果を測定するのは【アナリスト】で、統計的に探し出した有望見込み客に電話してニーズを確認するのは【インサイドセールス】のやはり専門性の高い仕事なんじゃ。実際に付き合ってみると判るが、このどれひとつとっても高い専門性が必要で、兼務やテンポラリーで間に合うものなど無いんじゃよ。

もしこの中のいくつかの機能しか持っていなければ、顧客は自分たちでその穴を埋めるか、他から探すしかないじゃろう。マーケティングは部分的には機能しても、全体最適の仕組みとしては機能しないことになってしまうんじゃ。

つまりじゃ、実践的なBtoBマーケティングサービスを提供しようと思えば、多くの専門家からなるチームを編成し、マーケティングの基本設計に併せて実行するしか実現は不可能だと言うことじゃし、それはまるで100人近いフルオーケストラが壮大な交響曲(シンフォニー)を奏でるようなものなんじゃよ。みんなが専門性を結集するのは、マーケティングの基本設計で、これが言わばスコア(総譜)と呼ばれるすべてのパートの譜面が入った指揮者用の楽譜なんじゃよ。

最近になってマーケティングの本場米国でも、「マーケティングオーケストレーション」などという言葉が出てきての、米国の知人などと話していると「最新の流行語を社名にしたんだね」などと言われるんじゃが、1990年に付けた社名じゃよ、と答えるとビックリされるんじゃよ。舐めてもらっては困るわい。
それぞれの専門要員を育てる音楽学校のようなインフラはこの国には無かったから、自社で育てるしか無かったし、創っては壊しの試行錯誤の連続で、まともに交響曲が演奏できるまでは本当に苦労したがの。

もしシンフォニーマーケティングという会社がエクセレントなマーケティングを実施出来ているとしたら、このオーケストレーションという基本デザインのお陰じゃと思うし、現代の日本企業が企業買収、財務、法務、そしてマーケティングなど高い専門性を求められる分野で大きな失点を重ね、本来のポジションを失っているとしたら、その原因は、高い専門性が必要なポジションを、専門性を持たない人に守らせた結果だと考えておるんじゃ。

マーケティングに限らず、現代はプロフェッショナルの時代なんじゃよ。

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