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2018.06.07

未来予測のカギを握る「データコンバイン」と「リアルタイム」

BtoBマーケティングのバズワードにもなっている「Predictive Analytics」。なぜ今、これが重要なのかを「データコンバイン」と「リアルタイム」というふたつのキーワードでノヤン先生が説明します。

今回はこの「ノヤン先生のマーケティング講座」の第100回なんだそうな。
100回かぁ、ちょっと感慨じゃな。12年前の2006年にこのコラムを始めた時には、まさか100回も書くとは思っておらんかったからの。2014年には本にもなったし、長く続けられたことに本当に感謝じゃよ。

さて、前回の「SIerが作ったパッケージが“さっぱり売れない”理由」は多くの方に反響をいただいたのじゃが、では100回記念に何を書こうかの?と考えて、今回はBtoBマーケティングで今最も注目されているキーワードである「Predictive Analytics」を書いてみようと思うんじゃ。未来の話じゃから100回に相応しいじゃろ?

今、世界のBtoBマーケティングで最も流行っている言葉は何かと言えば、やはり「Predictive Analytics(未来予測)」ということになるじゃろうな。
ここで言う未来予測とは、人類の未来を予想する、という大きな話ではなくて、次のクォーターにどの企業が何に投資をするか?もっと具体的に言うなら、工場の受変電設備メーカーからみて、来年受変電設備を入れ替える工場はどこか?という近未来の商談を予測することを言っているんじゃよ。

1980年代の中頃に日本でファックスが普及した時のことじゃ。それまでのテレックスという穴の開いた紙のテープでのテキスト通信から見ればファックスは革新的なプロダクトだったんじゃよ。経済学の専門家や経営評論家が口々にファックスの普及を予測し、1990年までに日本企業の50%以上がファックスを導入するでしょう、と予測していたのじゃが、ファックスの販売代理店の経営者や営業は
「未来の普及はどうでも良いから、来月ファックスマシンを購入する会社がどこなのかを教えてくれ!」
と言ってイライラしておったんじゃ。本当に知りたいのは遠い「未来」ではなく「明日」なんじゃよ。

実はデータを分析して未来を予測するという試みはマーケティングの世界だけでもずいぶん昔から行われているんじゃよ。例えば、ショッピングセンターや百貨店などは初期投資が巨額になるので、売り上げを予測する統計モデルが発達したんじゃ。誰も大損はしたくないからの。この分野では1980年代に当時カリフォルニア大学のハフ博士(David Huff)が考案したハフモデルが有名じゃな。再開発予定地の周辺の人口や幹線道路の交通量、競合店の床面積、計画している商業施設の床面積などの膨大なデータを変数として入力して計算すると、かなり精緻に売り上げの予測が出たもんじゃ。
このハフモデルは都市計画や都市再開発の商業調査にも採用され、補助金の対象にもなったので、マーケティングコンサルティング会社や都市計画のコンサルティング会社がこの調査でたっぷり儲けたもんじゃよ。

1980年代初頭にRFM分析を応用して大成功をおさめた航空会社のマイレージプログラム(FFP:フリークエンシーフライヤープログラム)も、過去の利用データから未来に最も収益をもたらせてくれる人を選び出して優待しようというもので、ある種の未来予測と言えるじゃろうし、1990年代に世界的に流行したデータマイニングなども、目指したのは未来の予測じゃな。マイニングとは採掘のことじゃから、データを宝の山に見立てて、深堀りして分析することで未来に通じる予測を出そうとしたんじゃよ。まぁスーパーの陳列棚の並び替えくらいしか事例が出なかったがの。
さらに言えば、もう300年以上昔に生きた英国の牧師トーマス・ベイズが考案した「ベイズの定理」なども未来予測に向いているということで最近になって注目を浴びているんじゃ。ベイズさんもお墓の中でびっくりしてるじゃろうの。

つまり、人間は昔から過去のデータを分析することで少しでも良い未来を築こうとしてきたんじゃよ。

では、その普遍的な「未来の予測」がなんで最近になってBtoBマーケティングの世界で脚光を浴びているのかの?

BtoBビジネスの特徴のひとつは「情報に反応する期間が短い」というものなんじゃ。ちょっと意外じゃろ?BtoCの場合は購買の動機が個人の欲求や趣味嗜好に起因することが多いので、意外なことにBtoBと比べて「情報への反応が長く続く」という特徴があるんじゃよ。言い換えればビジネスチャンスが長いということじゃな。

例えば、健康に興味がある人はあらゆる健康法やサプリメントに長く深く興味を持つ傾向があって、まるで「健康のためなら死んでも良い」と思ってるような人が沢山いるんじゃよ。彼らの「健康」というキーワードの入った情報への関心は恐らく死ぬまで続くじゃろう。
ダイエットも同じじゃな。残念ながら人間が太るのは持って生まれた体質、つまりDNAレベルに原因があることが多いので、一度は減量してもまたリバウンドするんじゃ。じゃからそういう人の家に行くと、廊下や倉庫にありとあらゆるダイエット器具やダイエットのDVDがあるんじゃよ。誰の周囲にも何人かはいるじゃろ?
同じように、車が好きな人はたとえ気に入った車を購入した後であっても車の情報への関心が薄れることはないんじゃよ。

ところがBtoBの場合、ある情報に反応するのは趣味や嗜好ではなく、あくまでも「仕事」の場合が多いんじゃ。樹脂系素材の摩擦係数の数値に反応する人は、熱に強い素材を探している人かもしれんし、ある画像解析技術に反応する人は次の工場の製造ラインで、部品に印刷されたバーコードを正確に読ませることでラインスピードを上げたいと考えている人かも知れないんじゃ。情報収集の目的がはっきりしているので、それを採用することで企業内のどの課題をどの程度解決するのか、それは費用対効果からみて経済合理性があるか、などを検証して購入するかを決定するからかなりロジカルで、しかも「課題が解決するまで」という短期的な関心なんじゃよ。
じゃから、企業の担当者がその製品の周辺情報に興味を持つのは、社内で課題が顕在化してから、解決手段として決定し「どこかに何かを発注するまでの間」で、長くても1年、短ければ数週間ということになるんじゃ。製品やサービスを提供するベンダーサイドは、その短い間に情報収集している担当者を発見し、競合が気がつく前にアプローチすることが出来なければビジネスをものにすることは出来ないんじゃよ。もし他社の製品やサービスを採用し、リースを使ったとしたら、次のビジネスチャンスはリースが切れる5年後にしか回ってこないんじゃ。

このビジネスチャンスの短かさがBtoBで未来予測が重要な理由なんじゃが、これだけでは「なぜ今なのか?」という説明にならんの。

その答えは「テクノロジー」なんじゃ。インターネットを中心にしたテクノロジーの発達が、昔は理論だけで語られていた未来予測を実現できるようにしてくれたんじゃよ。

「Predictive Analytics」の世界では「データコンバイン」と「リアルタイム」というふたつのキーワードを多く目にするんじゃ。コンバインとは、「組み合わせる」「混ぜる」という意味じゃが、自社の保有するファーストパーティデータ、パブリッシャーの持つセカンドパーティデータ、メディアが収集したサードパーティーデータなどを「コンバイン」して、出来る限り「リアルタイム」な予測を実現しようとしているんじゃよ。

実は、この「Predictive Analytics」の技術進化の裏には軍事技術からの応用が大きく影響しているんじゃよ。この分野にイスラエルで開発された技術が多いのはそれが理由なんじゃ。現代の戦争の大きなテーマは国家間の戦争ではなく、対テロ戦なのは知っておるじゃろ?
雑踏を行き交う多くの人の中から近い将来テロを起こす可能性のある人物を見つけ出さなければならないんじゃ。その人の属性や行動を二次元、三次元で見張りながら、テロを未然に防いでおるんじゃが、その技術の一端がマーケティングに応用されているんじゃよ。そう考えるとちょっと怖い気もするがの。

さて、こうして世界のBtoBマーケティングでは大きな流れになっている「Predictive Analytics」は、日本では個人情報保護関連の法令があってなかなか米国のような「コンバイン」な使い方は出来ないんじゃ。これは2018年5月から始まるEUのGDPRも同じじゃな。こうした国ごと地域ごとの背景に差はあるのじゃが、マーケティングが近未来を予測し、ビジネスチャンスを最大活用したいと考えるのは当然なので、「Predictive Analytics」は、これからも目を離せない重要なムーブメントと言えるじゃろうな。

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