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2018.07.09

奇襲と強襲、その効果と事例を古今から紐解けば

戦争でもビジネスでも、攻撃の戦術の中に「奇襲」と「強襲」があります。自社が新しい市場に参入する時、それが奇襲なのか強襲なのか、それぞれで異なる作戦やロジスティクスを設計しなければなりません。という戦術の話をノヤン先生が例を挙げて説明します。

経営によく「戦略」という言葉が使われるように、企業経営と戦争は密接な関係があるんじゃよ。良いか悪いかという視点を横に置くなら、インターネットも、IOT、BI、物流システムなどほとんどの技術は戦争用に開発されたか、戦争用に大きく進化したものを民生に転用したものなんじゃ。今、マーケティングテクノロジーで最も注目されている未来予測ソリューション【Predictive Analytics】は、膨大な都市生活者の中から近未来にテロを実行する可能性がある人を見つけ出すことを目的として一気に技術革新が進んだんじゃ。誰でも爆弾テロの犠牲者にはなりたくないからの。

じゃからワシはマーケティングのヒントを求めて、昔から戦争や戦争学を研究しているんじゃよ。
今回は、その中で「奇襲」と「強襲」の話をしてみようかの。

戦いにおける攻撃には「奇襲」と「強襲」があるんじゃ。相手が迎撃の準備をしておらず油断しているところを攻撃することを「奇襲」、戦いの準備を整えて待ち構えているところを攻撃するのが「強襲」と言うんじゃよ。

太平洋戦争の発端となった日本海軍による真珠湾攻撃を描いた映画『トラトラトラ!』の中で、攻撃開始前にこの映画の題名にもなった暗号『トラトラトラ』を打電しているシーンが有るんじゃが、この映画を観た人から「これはおかしくないですか?」と言われたことがあるんじゃよ。
史実として、真珠湾攻撃に際し攻撃隊隊長の淵田美津雄中佐はオアフ島の上空を飛行しながら、遥か遠くの真珠湾上空に米国の迎撃戦闘機がいないことを目視で確認して、この暗号を打電しているんじゃ。もちろんこの時点では未だ一発の爆弾も魚雷も投下してはおらんのじゃが、これはおかしくはないのじゃよ。この「トラトラトラ」という暗号文の意味は「我、奇襲に成功せり」というもので「我、攻撃に成功せり」ではないんじゃ、つまり「奇襲か強襲か」が何よりも重要だったんじゃよ。奇襲はそれ自体で極めて効果的な戦術なので、奇襲が成功すればその攻撃は成功と言っても良く、奇襲を掛けられた相手に甚大な損害を与えることが出来るからなんじゃ。

奇襲は相手に与える損害だけでなく、味方の損害も非常に少なく抑えられる利点が有るんじゃ。織田信長が僅かな手勢で10倍以上の戦力を持つ今川義元を破った「桶狭間の合戦」、源義経が万全の陣形と戦力で待ち構えていた平家の軍勢を背面のひよどり越えの断崖を駆け下って打ち破った「一ノ谷の合戦」も奇襲の典型じゃな。奇襲に成功することが出来れば、強襲では戦いにもならない程の戦力差が有ったとしても勝利することが出来るし、一方で味方の損害を最小に抑えることが出来るんじゃ。

実はビジネスにおいても、歴史を変えるようなインパクトは奇襲に近い形で登場することが多いんじゃよ。

マイクロソフトがWindows95をリリースするまでは日本のビジネスシーンではNECの98シリーズが90%という圧倒的なシェアを持っていたんじゃ。当時はデザイナーやクリエイターはAppleのMacを、個人でPCを使う人はMS-DOSを、そしてビジネスで使う人はPC-98を、と市場はしっかり分かれておったんじゃよ。
会計、給与計算、勤怠管理、生産管理、CADなどの設計、CAMなどの解析などの膨大な業務アプリケーションの資産と、98上でビジネスを展開する数多くのソフトウェアベンダー(ISV)を持ち、国内市場ではまさに磐石に見えたもんじゃ。油断していたんじゃな。それがWindows95とそれを搭載したIBM PC互換機の奇襲によって、98シリーズはアッと言う間に市場から姿を消してしまったんじゃ。

AppleがiPhoneを発表した時、スティーブ・ジョブスがステージで発表するまではAppleがスマートフォンをリリースすることは極秘だったんじゃ。もちろん、持っている技術や周辺環境から、「Appleはいずれ電話を創るだろう」とは言われており、デバイスの調達などからも常に噂はあったんじゃが、あのタイミングであのスペックで、あのアライアンスで、という予測を立てていた者はおらず、その結果それまで市場を押さえていたノキア、RIM(Research In Motion)、モトローラなどのモバイル通信端末のメーカーの多くが短期間の内に撤退や身売りに追い込まれたんじゃよ。この余波はもちろん日本にも襲来し、シャープ、東芝、三菱電機、NECなどの携帯電話メーカーに大打撃を与えたんじゃ。

ジェフ・ベゾスがAmazonという書籍のオンライン販売をスタートするまでは、米国ではBarnes & Nobleという書店チェーンが大きくシェアを伸ばし、既存の小規模書店の経営を圧迫して社会問題にもなっていたんじゃ。1998年に公開されたトム・ハンクスとメグ・ライアンが主演した映画「You've Got Mail」は、Barnes & Nobleと小規模書店の争いを脚本の下敷きにしており、NYのメインストリートに大型店舗を展開する戦略までもがそのまま使われておったんじゃが、そのBarnes & NobleにとってAmazonの登場はまさに奇襲だったんじゃ。
そもそも小規模書店に対するBarnes & Nobleの優位性は豊富な品揃えだったんじゃが、いかに大型店舗といえどもリアル店舗はどうしても面積の制限を受けるじゃろ?それに対しインターネットに面積制限は存在しないからの。しかもアフィリエイトというインターネット独自の戦術も駆使してサービス開始から2年後には米国証券市場に上場してしまったんじゃ。もちろんBarnes & Nobleも指をくわえて観ていたわけではなく、別会社でオンライン通販を始めるなどの対抗措置をとったんじゃが、なにしろ奇襲だったので、対応が後手後手に回り、市場をごっそり持って行かれて気がついたらもうあらゆる点で手の届かない存在になっていたんじゃよ。

米国ではタクシー業界がこの奇襲の餌食になったのは記憶に新しいじゃろ?UberやLyftなどのインターネットテクノロジーを活用した配車サービスじゃよ。
2009年にUberがサービスを始める以前は、米国のタクシー会社は利用者に最低のサービスを提供していたんじゃ。ワシも何度も嫌な思いをしたもんじゃが、そもそも多くのタクシードライバーは移民1世か出稼ぎの人だったので英語が話せない人も多く、聴いたことがない言葉でずっとイヤホン電話をしていたり、もの凄いスピードで走ったり、スピードメーターを切って走ったりするドライバーも少なく無かったんじゃ。多くの人がこうしたサービスに嫌気がさしているにも関わらずタクシー会社が改善しようとしなかったのは「新規参入は無い」と油断しておったからなんじゃよ。新しくタクシー会社を始めるには膨大な車両と、整備拠点、配車システム、そしてドライバーを用意しなければならず、成長が見込めない市場に今からそんな投資をする人はおらんわい、とすっかり油断しておったんじゃ。
そこに、自分の車を使い、ドライバーや利用客を相互に評価してマッチングするというビジネスモデルで「奇襲」を仕掛けた配車サービスはあっと言う間に市場を席巻し、UberとLyftを合わせると世界での売り上げ(予約額)は4兆円を超えると言われておるんじゃよ。

ただ、こうした「奇襲」は法的な規制が強い市場では成立しにくいんじゃ。UberやLyftは日本では白タクと呼ばれる違法行為じゃからそのままのビジネスモデルでは参入できないんじゃよ。規制緩和は日本の役人が最も嫌うことじゃからの。
しかし、奇襲だけが勝てる戦法という訳では無いんじゃ。

Amazonが米国市場でBarnes & Nobleに仕掛けた戦法はまさに奇襲じゃったが、逆に日本市場に対しては完全な「強襲」で攻撃してきたんじゃよ。日本は「再販売価格維持制度」「委託販売制度」とその元締めである「書籍取次ぎ」を総動員して戦い、2年ほど足踏みさせることには成功したんじゃが、関西の取次ぎ店を突破口にAmazonの市場参入を許し、数年を経ずに日本の出版社は誰もAmazonに足を向けて寝られない、という状況を創り出してしまったんじゃ。織田信長も生涯の戦いの中で「奇襲」を用いたのは桶狭間だけ、と言われているくらいじゃから、最初の勝利を奇襲でものにしたAmazonも以降は奇襲に頼らずに強襲で勝てる企業になったということなんじゃな。

そもそも奇襲はめったに成功するものではないんじゃよ。戦う相手も奇襲された時の損害の甚大さはよく分かっているので充分に警戒するからの。じゃから、実際にはビジネスの現場でも本当の戦争でも、多くの攻撃は「強襲」になるんじゃ。そして強襲の場合、戦力がものを言うのじゃが、その「戦力」とは「兵数・火力」と「補給能力:ロジスティクス」、そして「作戦計画能力」で勝敗が決まると言われておるんじゃ。

例えばAmazonは日本のBtoB市場に参入すると宣言しているのじゃが、この市場で戦うことになる大塚商会、ミスミ、アスクル、楽天などは全力を挙げて迎撃の準備をしているので、この戦いは完全な「強襲」になるんじゃ。ただ、年間の物流ソリューションへの投資だけで2兆円を超えると言われるAmazonに対抗するのは途方も無く難しいことなんじゃよ。じゃからこれから展開される日本市場を舞台にした攻防には世界中が注目しておるんじゃ。

ただ、こうした攻防で心配なことは、日本企業のデータドリブンへの移行スピードがとても遅いことなんじゃよ。情報システム的には高価なシステムを導入し、SIerのエンジニアの常駐などでそこそこの対応はできていたとしても、マーケティングの視座から観るととても脆弱な顧客データ基盤しか持っていないように見えるんじゃ。世界中の企業を震え上がらせた猛獣を迎え撃てる体制には思えんのじゃよ。
欧米企業のデータ収集から格納、分析、そして分析の結果をリアルタイムにマーケティング戦術に組み入れるそのスピード感を観ていると、余計に日本企業の周回遅れのスピードが気になって仕方が無いんじゃよ。
これが杞憂であり老婆心なら良いのじゃがの。

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