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2018.03.22
日本企業は過去20年にわたって、フロントサイドと呼ばれる販売・営業分野でのシステム投資に膨大な金額と工数を投資してきました。しかしその多くはお茶を濁して塩漬けになっています。その理由はデータマネジメントの難しさを過小評価しているからなのです。その結果現場がどうなっているのかを、ノヤン先生の経験から解説します。
ある日のことじゃ、わしが顧問をしておる企業が新しくMA(マーケティングオートメーション)を導入して、その運用を始めるというので会議に呼ばれたんじゃ。
ところが、わしは途中で道に迷ってしもうて、その会社に着いた時にはもう会議も終わってしまっておったんじゃ。仕方がないので帰ろうと思っていたら、誰もおらんはずの会議室で何やら声がするんじゃよ。
不思議に思ってそっと覗いて見たら、なんとCRM、SFA、MA、DMP、メール配信システム、販売管理システムたちが、統合するならどのデータを使うかでもめておったんじゃよ。
仕切っていたのはもうほとんど使われなくなったDWH(データウェアハウス)と呼ばれるシステムだったんじゃ。
MA:「あのはじめまして、MAと申します」
DWH:「おっ、話には聞いてたけど、着任したんだ」
MA:「はい、よろしくお願いします」
DWH:「んで、なにする人?」
MA:「営業や販売代理店に商談を供給する仕組みを作ります」
DWH:「どうやるの?」
MA:「属性と行動の2軸で絞り込むスコアって機能を持ってるんですよ」
DWH:「ほぉ〜、凄いじゃない」
MA:「そうなんです、デマンドジェネレーションって言うんですけど、今旬みたいで」
DWH:「だよね、それで俺たちに何か用なの?」
MA:「はい、マーケティングをするためにまずはデータを集めなきゃいけなくて、データはみなさんの中に有ると思うんですけど、どれをベースにして格納するのが良いのかと思いまして・・・」
DWH:「ほぉ〜、ってことは、誰が良いデータを持ってるのか知りたいってこと?」
MA:「まぁそんな感じです」
CRM:「こほん、あの」
DWH:「おっとCRM、まだ動いてたんだ?」
CRM:「当たり前じゃないですか!」
DWH:「ごめんごめん、最近あんまり聞かないからさ」
CRM:「私がいなかったら会員サイトのIDとかパスワードとか誰が管理するんですか?」
DWH:「あぁ、そこやってくれてたんだ」
CRM:「それに、この中で導入された時期からすると私が最古参だと思うので」
DWH:「確かに」
CRM:「だから統合データのベースになるのはやっぱり私なのかな?って思うんですけど」
DWH:「なんでそうなるかな?」
CRM:「CRMって顧客データベースなので、顧客の購買履歴を網羅してるんですよ」
DWH:「それで?」
CRM:「取引情報って大事じゃないですか?」
DWH:「だから?」
CRM:「だからって・・・」
DWH:「既存顧客は良いけど、未取引はどうするの?」
CRM:「大事なんですか?」
DWH:「展示会で来場してくれた人とか、セミナーに参加してくれた人のデータはどうするの?」
CRM:「取引が始まってからじゃ駄目ですか?」
DWH:「Webからの問い合わせとか資料ダウンロードのデータは?」
CRM:「買ってくれるか分からない人のデータを持ってこられても困りますよ」
DWH:「新規顧客は獲得しなくて良いわけ?」
CRM:「そんなこと言ってませんけど」
DWH:「CRMってカスタマーリレーションシップマネジメントだよね」
CRM:「その通りです」
DWH:「日本語では顧客関係管理だわな」
CRM:「そうそう、よくご存じで」
DWH:「関係ってなに?」
CRM:「購買履歴です」
DWH:「買わなかったら?」
CRM:「入力しません、駄目ですか?」
DWH:「駄目でしょ」
DMP:「あの、私いちおう全部扱えることになってます、DMPってデータマネジメントプラットホームの略だって知ってますか?」
DWH:「名前はどうでも良いけど、全部ってなに?」
DMP:「会社にある顧客関係のデータを全部格納するんです」
DWH:「それで?」
DMP:「最適の人に最適のタイミングで広告が出せるんです、凄いでしょ」
DWH:「一回何かのサイトを見たら、広告がずっと付いてくるあれ?」
DMP:「あっそれそれ、それも私です。リタゲなんて呼ばれてますけど、キライですか?」
DWH:「なんか濡れ落ち葉みたいでちょっとしつこいよね」
DMP:「でも、売り上げに貢献するって言われてるんですよ」
DWH:「買った製品の広告を延々と見せられてもなぁ」
DMP:「でも、関係無い人に広告出すよりましじゃないですか?」
DWH:「さっきは最適の人に最適のタイミングでって言ってたけど?」
DMP:「ちょっと言い過ぎました、へへ」
DWH:「あのね!」
DMP:「すいません」
DWH:「クッキー使うんだよね」
DMP:「はい、オーディエンスデータって言いまして、これが凄いんですよ」
DWH:「でもさ、アノニマス(個人を特定できないデータ)はBtoBではあんまり意味がないんだよ」
DMP:「そうかなぁ、製品ページを見てるなら興味のある人なんじゃないんですか?」
DWH:「新製品のプレスリリースに反応して製品ページに来る人って誰だかわかる?」
DMP:「だから製品に興味のある人でしょ?」
DWH:「ほとんど競合なんだよ!」
DMP:「えっ、そうなんですか?」
DWH:「営業なら誰でも知ってるよ、そんなこと」
SFA:「そうですよね、営業の知見って凄いんです。それでなんですけど、私のデータはその営業が入力しているんですよ。セールスフォースオートメーションなんで、やっぱ私ですかね、情報の鮮度も良いし」
DWH:「はぁ? あのね、この世のデータで一番汚いのは、疲れた営業が入力したデータだって知らないの?」
SFA:「えっ、まじですか?」
DWH:「例えば住所1とか2とかって分けるわなぁ、あのルールって守ると思う?」
SFA:「いやぁ」
DWH:「そもそも社名だって正確に入れないんだよ」
SFA:「そうなんですか?」
DWH:「自分の中のデータ見てみたら?東日本電信電話株式会社ってなってるかね?」
SFA:「えっと、あっNTT東日本ってなってます」
DWH:「日本電気株式会社は?」
SFA:「えっとぉ、NECです」
DWH:「だからさぁ、それでは名寄せ出来ないでしょ」
SFA:「すいません」
DWH:「案件のステータスの定義って揃ってるの?」
SFA:「もちろんですよ!」
DWH:「このS7ってなに?」
SFA:「営業が良い感じって思った案件です」
DWH:「良い感じってどんな感じ?」
SFA:「行けそうって言うか、お金有りそうっていうか・・・」
DWH:「それ定義って言うの?」
SFA:「すいません」
DWH:「じゃS0は?」
SFA:「受注です!」
DWH:「S1は?」
SFA:「口頭内示です」
DWH:「S1からS0での減衰率は?」
SFA:「去年は2%でした」
DWH:「それ刻む意味あるの?」
SFA:「すいません・・・」
販売管理システム:「やっぱり情報系じゃぁ無理じゃないんですかぁ?」
DWH: 「あんた誰?」
販売管理システム:「販売管理システムです、請求書を発行したりする、まぁ勘定系の入り口ってとこですか」
DWH: 「へぇ?」
販売管理システム:「みなさんは縁が無いかと思いますが、私なんて基幹とも連携してるんですよ、はは」
DWH:「基幹システムねぇ」
販売管理システム:「そうなんです。なのでこの役割にはやっぱり一番ふさわしいと思ってますが」
DWH:「じゃ聞くけどさ、なんであんたの中って同じ会社があんなにたくさんの企業コードを持ってるんだ?」
販売管理システム:「あっ、いやそれは仕方がないんですよ」
DWH:「なんで?」
販売管理システム:「その時その時のルールやシステム設定で発番されたコードを消さないで持ってるから」
DWH:「なんで消さないの?」
販売管理システム:「いろんな伝票や決算書と繋がってるから変えられないんですよ」
DWH:「それにしても多くない?」
販売管理システム:「事業所ごとだったり、担当部署ごとだったりするので・・・」
DWH:「ルールって固まってないの?」
販売管理システム:「システムをリプレースするたびにルールも変えるんです」
DWH:「ってことは企業コードってこれからも増え続けるの?」
販売管理システム:「法律も有るので過去は消せなくて、基本的に追加になりますね」
DWH:「なにそれ?」
販売管理システム:「駄目ですかね?」
DWH:「うん、繋いだらむしろややこしくなるからいらないわ」
メール配信:「あの、私はメール配信システムなんですけど、なんかお話を聞いてたら、やっぱりマーケティングなら私のデータかな?なんて思ったもんで」
DWH: 「なんでそう思ったの?」
メール配信:「やっぱりコミュニケーションの主力はメルマガとかじゃないですか」
DWH:「まぁそうだけど・・・」
メール配信:「セミナー集客とかもメールですよね」
DWH:「そうだね」
メール配信:「だから、やっぱり私のデータを元にして・・・」
DWH:「ちょっとデータ見せて」
メール配信:「はい、どうぞ・・・ほら、ちゃんと不達とかのフラグも立ってるでしょ?」
DWH:「電話番号は?」
メール配信:「無いです!」
DWH:「なんで?」
メール配信:「いやだってメール配信なんで・・・必要なんですか?」
DWH:「必要ないと思ったの?」
メール配信:「だって、メルマガ登録で電話番号を記入させるとかおかしくないですか?」
DWH:「おかしいの?」
メール配信:「いや、初対面の女性に、絶対電話しないから電話番号教えてって言う感じがして」
DWH:「あのなぁ」
メール配信:「はい」
DWH:「じゃ、メールに反応があったら次のアプローチはどうすんの?」
メール配信:「個別メール?」
DWH:「メールでアポイント取るのどんなに難しいか知ってる?」
メール配信:「難しいのですか?」
DWH:「忙しい人同士がお互いの時間の都合をメールでやりとりするの大変だと思わない?」
メール配信:「あぁ・・・」
DWH:「だから電話番号が必要なんだよ」
メール配信:「はぁ・・・」
DWH:「住所も無いよね?」
メール配信:「無茶ばっかり言わないで下さいよ、私はメール配信なんですよ」
DWH:「どこで働いてるか分からないのに絞り込める?」
メール配信:「駄目ですか?」
DWH:「明日なら会っても良いよって言ってくれた人が札幌だったら行ける、明日?」
メール配信:「無理です」
DWH:「じゃメールであなたはどこの事業所に勤務してますか?って聞くの?」
メール配信:「変ですよね」
DWH:「電話番号って地域が特定できるんだよ」
メール配信:「そっかぁ、そうですねぇ」
DWH:「それに営業だって忙しいから、まずは電話で話して、訪問する意味がある相手かを確認したいわけよ」
メール配信:「可能性を確認するんですか?」
DWH:「まったく可能性が無いなら時間の無駄でしょ、お互いに」
メール配信:「ですねぇ」
DWH:「だから電話番号がいるんだよ」
メール配信:「インターネットで調べられるじゃないですか?」
DWH:「はぁ?」
メール配信:「企業Webに載ってるでしょ?それをクロールとかで収集して・・・」
DWH:「それ代表電話ね」
メール配信:「えっ、代表電話じゃ駄目なんですか?」
DWH:「ぜんぜん駄目だね」
メール配信:「なんで?」
DWH:「代表電話を受ける人は営業電話を撃退するトレーニングを受けてるの」
メール配信:「おぉ!」
DWH:「おぉじゃないよ、それにね、本社にいない人と会いたいなら代表電話って意味ないよね?」
メール配信:「本社にいない人に会う意味ってあるんですか?」
DWH:「商材による」
メール配信:「商材?」
DWH:「製造業の場合、研究開発センターや設計センターは本社じゃなく事業所の敷地内にあることが多いんだよ」
メール配信:「事業所ってなんですか?」
DWH:「工場」
メール配信:「あぁぁ、じゃ地方じゃないですかぁ、そりゃ無理だ」
DMP:「あの・・・」
DWH:「今度はなに?」
DMP:「あの、アノニマスはBtoBではあんまり役に立たないのは分かりました」
DWH:「んで?」
DMP:「でも、私にはもっと凄いデータもあるんですよ」
DWH:「例えばなに?」
DMP:「IPです!」
DWH:「は?」
DMP:「グローバルIPですよ、インターネットの住所みたいな」
DWH:「それは知ってる」
DMP:「凄くないですか、企業を特定できるんですよ」
DWH:「それで?」
DMP:「だからABMとか流行ってるじゃないですか」
DWH:「だねぇ」
DMP:「凄くないですか?」
DWH:「当たればね」
DMP:「へっ?」
DWH:「ちゃんと当たれば凄いんだけどねぇ」
DMP:「当たってないんですか?」
DWH:「個人を見てないと当たってるかどうかも分かんないもんね」
DMP:「そうなんですか・・・」
DWH:「まぁ君のせいじゃないさ、初期のIPの管理がうまくいかなかっただけだから」
DMP:「すいません」
DWH:「良いって・・・」
MA:「それで、結局私には誰のデータを入れれば良いんですか?」
DWH:「こうなったらもう全部入れて、あんたの中で整理整頓するしかないんじゃない」
MA:「はぁ」
DWH:「名寄せとかの機能はあるんでしょ?」
MA:「もちろんです」
DWH:「プライマリーキーは?」
MA:「メールアドレスです」
DWH:「メアドが無い人のデータはどうすんの?」
MA:「一応登録は出来ますけど、名寄せは厳しいですねぇ」
DWH:「名寄せが出来ないならデータが汚くなるってこと?」
MA:「そうです、なのであんまり入れたくないんですよぉ」
DWH:「メアドが無いデータがこの会社にどんだけあるか知ってる?」
MA:「知りたくないです」
DWH:「じゃぁ、部署でメアドを共有してる人は?」
MA:「上書きされちゃいますけど・・・、駄目ですかね?」
DWH:「個人を違う人に上書きしちゃうの?」
MA:「はい・・・・」
DWH:「・・・」
一同:「・・・・・・・・・」
という訳でじゃ、こんな感じで延々とひと晩中やっておったんじゃよ。
日本の法人データの管理は世界で一番難しいんじゃが、そのことは案外知られておらんのじゃよ。デジタルトランスフォーメーションとか、ビジネスインテリジェンスとか、テクノロジードリブンという言葉はよく耳にするんじゃが、実務で名寄せの問題をちゃんと解説した本や寄稿はめったに見ないんじゃ。ここがはじめの一歩で、ぐちゃぐちゃの汚いデータは使えば事故やクレームを誘発するし、そもそも分析する価値も無いんじゃがの。
ワシらが昔からデータマネジメントにこだわってきた理由がお分かりいただけたかの?
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