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2019.06.10

ABMはリトマス試験紙。多くの企業が導入に苦労している理由(ABM:前編)

言葉だけ先行してしまった感があるアカウントベースドマーケティング(ABM)。これを導入して成果を出すために大事なことを、ノヤン先生が前編と後編に分けて掘り下げます。

米国のIT産業に特化したアドバイザリーファームであるITSMAは、アカウントベースドマーケティング(以下ABM)の起源をドン・ペパーズマーサ・ロジャーズが1990年代の初期に書いたベストセラー「One to One マーケティング:「The One to One Future」(1993年)」としているんじゃが、実際にABMという言葉が語られるようになり、米国でGoogleアクセスが上昇してきたのは2013年頃からなんじゃ。それ以降はBtoBマーケティング関係者の中で必ず話題に出るようになり、2015年にはBtoBマーケティングの主役となり、2019年の現在ではエンタープライズBtoBマーケティングのメインストリーム(主流)と言っても過言では無い程の存在になっておるんじゃ。
つまり、当初あちこちで言われておった。

バズワードではないのか?(Just a buzz word?)」
「何も新しくないし、たいしたアイデアでもない(Nothing new, Nothing big idea)」
「営業から見れば普通のことだけど(Sales people doing it normally)」

というネガティブな見方が間違っていた事を証明し、多くの導入事例から実際にビジネスに大きく貢献することが立証されたんじゃ。でなければこんなに続かないからの。
今の日本でもBtoBマーケティングの話題には必ずABMが登場するし、これに取り組もうと組織再編に取り組む企業も多いんじゃ。相棒が2016年に書いた「究極のBtoBマーケティング ABM(日経BP社)」という本も未だに良く売れ続けておるそうなんじゃ、ありがたい話じゃな。

しかし、逆にこの取り組みに失敗するケースや、取り組んではみたものの成果が出なくて困っている企業も少なくないんじゃよ。そこで、今回から2回にわたって現状の日本のABMとその問題点を、以下のテーマで書いてみようと考えておるんじゃ。

  • ABMはリトマス試験紙。多くの企業が導入に苦労している理由(ABM:前編)

  • ABMに必要なノウハウと組織、そしてツールなど(ABM:後編)

ABMはリトマス試験紙。多くの企業が導入に苦労している理由

ABMはBtoB企業にとってはリトマス試験紙のようなものなんじゃ。これに取り組むことで、その企業の中でマーケティングがどの程度しっかり根付いているかが判明してしまうんじゃからの。ちょっと恐いじゃろ?
さらに言えば、その企業の中でABMがどう定義されているかも、取り組みを通して明確になるんじゃよ。担当する部署の権限や予算、割り当てられた人員などから、その企業にとってABMが経営戦略なのか、戦術のひとつなのか、それともただのキャンペーンなのかが浮彫りになってしまうんじゃ。だからABMはリトマス試験紙なんじゃよ。

アカウントベースドマーケティングとは

全社の顧客情報を統合し、マーケティングと営業の連繋によって、定義されたターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す戦略的マーケティング。(出典:究極のBtoBマーケティング ABM(日経BP社))

これに照らせばABMはキャンペーンでも戦術でもなく、企業の戦略でなければならないんじゃ。戦略とは経営の根幹じゃな。だから、もし経営者がABMに取り組もうと意志決定したなら、社内の誰も「ABMなんて要らない」などと言うことは許されるべきではないんじゃよ。

「戦術には自由度を持たせ、戦略には決して自由度を持たせてはならない」というのがセオリーじゃからの。

このセオリーを例えて話すなら、「今年中に我が山岳会のメンバーをエベレストの山頂に立たせる」というのが戦略だとしたら、どんなルートで、どんな装備で、どんなチーム構成で、いつ誰が山頂にアタックするか、というのは戦術なので現場の判断に任せるべきなんじゃよ。天候や体調はコントロールできんからの。でも「エベレストは難易度が高いので他の山にします」というのは許容したらダメじゃろう?つまり戦略には自由度を与えてはならないんじゃよ。

ところがじゃ、蓋を開ければどの会社も「ウチの部署はABMなんていらない」「他の部署からどうぞ」「私の顧客には必要無い」という声が溢れておるんじゃよ。困ったもんじゃろ?

その理由は、多くの場合ターゲットアカウントとは既存の大口顧客であり、それぞれの顧客には腕自慢の優秀なアカウントセールスや特約店が張り付いていて、彼らが大きな売上げ予算とそれに比例した発言力を持っておるからなんじゃ。細心の注意で顧客との関係を築き、維持している人から見れば、マーケティング部門が自分たちの頭越しにメールを配信するなどのコミュニケーションをすることは許せないんじゃな。

わしは日本企業の大きな弱点のひとつは、大口顧客とのインターフェースが「人間だけ」という事だと考えておるんじゃ。もちろん大口顧客を担当する営業は優秀なんじゃよ。何億、何十億の予算を持ち、それを達成することは並大抵では出来ないし、経営陣から信用されていなければその重要な顧客を担当することも無いからの。しかしじゃ、どんなに優秀でも人間は人間じゃから、時間と肉体という制約から逃れることは出来ないじゃろ?夜中に顧客を訪問できないし、重要顧客といつもWeb会議という訳にはいかんから、どうしても移動して訪問することになる。そもそもWeb会議では、商談は出来てもハイタッチの重要なプロセスである「飲むこと」も「ゴルフすること」も出来ないからの。そしてこの時間と肉体の制約は「数的な制限」という形に表れるんじゃ。顧客企業内に自社の製品やサービスの情報を知って欲しい人が200人いたとして、このアカウントセールスが毎週のように会っているのは3〜5人、月に一度は電話などでコンタクトする人が10人いたとしても、残りの180人以上には情報はほとんど届いていないことになるじゃろう。ここを参入してくる競合が狙うんじゃよ。

さらに、人間には「得意、不得意」と「好き、嫌い」があるんじゃよ。得意な商材や販売経験のある商材とそうでない商材、好きな商材とあまり評価していない商材が存在するのが普通なんじゃ。でも、インターフェースが人間だけなら、その人が説明しない商材は顧客に知られることは無いじゃろ。知らないものはどんなに良い商材でも購入しようがないじゃろう?実は既存顧客が買ってくれない商材の多くは、知られていないんじゃよ。

この問題解決には、ABMデマンドセンターがデジタルでアカウントセールスをサポートする仕組みを構築するしかないんじゃ。
情報を同時に正確に伝えるのはデジタルの方が得意じゃし、その情報を受け取った人がどう振る舞ったかを感知するセンサー機能もデジタルの方が優れておるんじゃよ。
「マーケティングと営業の連繋によって、定義されたターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す」というのは言い換えると、「デジタルでアカウント営業を支援することによって、ターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す」ということなんじゃ。

ところが、実際には「ABMに取り組んでいます」という企業でも、「上位12社は対象から外しています。アカウントセールスがどうしても嫌だと言うので・・・」という場合が多く、その12社からの売上げが全社の50%を越えていたりするもんじゃから、もうABMとはとても言えないという例もあれば、ABMを是非やりたいが対象は新規に限定したい、というちょっと理解できないケースもあるんじゃよ。
創業したばかりの企業や、日本に進出したばかりの外資系企業なら話は分かるんじゃが、長い社歴を持つエンタープライズ企業で、口座が無い、つまり過去に取引実績の無いターゲットアカウントなどめったに無いんじゃよ。

もう一度定義を見てみようかの。

「マーケティングと営業の連繋によって、定義されたターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す」

となっておるじゃろう?ここが肝心要なんじゃ。連繋するには信頼関係が構築できていなければ不可能じゃし、マーケティングを前工程、営業を後工程とすれば、マーケティング部門がその仕事ぶりで営業からの信頼を勝ち得なければ成立しないものなんじゃよ。
アカウント営業が積極的に顧客のデータを開示し、顧客企業のエグゼクティブへのコンタクトを許してくれるなら、その企業はマーケティングがしっかりと根付き、マーケティング部門は営業からの信頼も得ていてABMは企業の戦略として位置づけられていると言えるじゃろう、つまり合格じゃな。でも、そんな会社は実に少ないものなのじゃよ。

わしはABMのターゲットアカウントを定義する時に新規を含めるのは反対では無いんじゃ。既存の大口顧客とよく似た属性を持つ企業なら、将来大口顧客になってくれる可能性は有るじゃろうからの。でも既存の大口顧客を外すのは反対なんじゃよ。それはマーケティング部門が営業部門から信頼されていないという事であり、同時にABMが企業の戦略として位置づけられていないと言うことの証明でもあるからなんじゃ。新しい事にチャレンジする時に経営者の強い意志が無ければ組織は動けないものなんじゃよ。

次回の後編では、「ABMに必要なノウハウと組織、そしてツールなど」を説明しようかの。

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