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2019.07.29

ABMが適した企業と商材。必要なノウハウと組織、ツールとは(ABM:後編)

ABMが向くターゲットと向かないターゲット、ABMに取り組むべき企業とそうでない企業や商材、そして必要なノウハウと組織、ツールについて、ノヤン先生の経験を基に解説します。

さて、前回に続きABMを語ろうかの。
最初に説明したいことは、ABMはどんな企業にも適したマーケティング戦略ではないということなんじゃ。ABMは基本的には大企業(エンタープライズ)に対するマーケティングであるし、多くの場合は仕掛ける側も中堅以上でなければ成果は出ないんじゃ。その理由は「商材」なんじゃよ。
もう一度ABMの定義を見てみようかの。

【アカウントベースドマーケティング】
全社の顧客情報を統合し、マーケティングと営業の連繋によって、定義されたターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す戦略的マーケティング。(出典:究極のBtoBマーケティングABM 庭山一郎著)

ターゲットアカウントからの売上げ最大化、というからにはクロスセル、アップセルの商材を持っていなければ話にならないし、相手がその商材を購買する可能性が無ければならんじゃろ?そして数多くのコンタクトポイントが有るか、という事もABMとの相性としては重要な要素なんじゃよ。
企業の会計ソリューションを例に説明しようかの。

弥生という会計ソフトがあるじゃろ?小規模企業をターゲットにした商材で、会計まわりの機能をひと通り持っているので中小零細企業には便利なんじゃが、会計ソフトは1企業でひとつあれば充分じゃし、多くの場合は5年から7年は使い続けるので、その間はアップセルもなかなか難しいじゃろうからABMには向いているとは言い難いんじゃ。その意味ではターゲット企業の規模がひと回り大きい「勘定奉行」は、「奉行シリーズ」と呼ばれる多様な業務アプリケーションから成る製品群を持っていてクロスセルを狙えるんじゃよ。でも、わしはこの商材にABMが必要かと聞かれれば「不要じゃろ」と答える。なぜかと言えば、ターゲット企業の「売上げ50億円未満、従業員100人未満」という規模を考えると、総ての意志決定が社長や専務などのごく少数で決まるはずなので、社内に多くのコンタクトポイントを作って関係性を維持する必要がないからなんじゃ。でも、これが富士通のGLOVIAシリーズなどになってくれば、税務会計、管理会計、人事給与、販売管理、償却資産管理などで担当部署が異なるし、それぞれに複数存在するキーパーソンとの関係を構築し維持する必要があるのでABMは必須になるじゃろう。さらに言えば、ハイエンドのSAPはエンタープライズ企業に対して企業を運営するためのあらゆるソリューションを展開している企業なので、ABMをマーケティング戦略の中心に据えるべき、と言える程なんじゃ。
同じ会計ソリューションでも、ABMに向いている商材、向いていない商材がある事が判っていただけたかの。

さて、次にABMに取り組む時に必要な組織やノウハウ、そしてツールについて語ろうかの。組織から話せば、これはデマンドセンターという名の組織になるじゃろ。

先ず明確にしたいのは、ABMがデマンドジェネレーションの進化系だと言う事じゃ。
実はこれには異論を持つ人も多いんじゃよ。理由の多くは「インパクト」じゃな。日本でも欧米でも、何か新しい概念が出てくると、従来のものを否定してありもしない対抗軸を作って説明する人が多いんじゃよ。その方が、インパクトが有るからの。ダイレクトマーケティングが出てきた時には、スタン・ラップなどを中心に「従来のマスマーケティングよさようなら、ダイレクトマーケティングよこんにちは」と、マスメディアを使ったマーケティングを徹底的にこき下ろしたし、インターネットが普及した時にデジタルマーケティングの人々は、紙のDMをスネイル(かたつむり)メールと馬鹿にしたもんじゃな。それは「インバウンド」という概念が普及してきた時も、「従来のデマンドジェネレーションはプッシュ型の嫌われるマーケティング、インバウンドマーケティングは見つけてもらう嫌われないマーケティング」と語る人が多かったんじゃ。実際はインバウンドだけで必要な売上げが創れるのはスタートアップ&SOHOと呼ばれる小規模企業だけで、中堅以上の多くの企業における受注の経路は、オーガニック、リードデータ、過去顧客、現在顧客と多岐にわたるものなんじゃ。素晴らしい概念であるインバウンドマーケティングを説明するときに、既存のマーケティングを攻撃する必要があったのか、というのがわしの疑問なんじゃよ。

歴史を俯瞰すれば、新しい技術や概念の多くは既存の進化系であり、対抗軸ではなく補完しながら変化していく関係が成立する事の方が多いんじゃ。それはABMも例外では無いんじゃよ。従来のデマンドジェネレーションをネット(網)と呼び、それに対してABMはスピア(銛)であると説明されることが多いのじゃが、大海原を走る船の舳先に立って銛を投げるイメージはまさにアカウントベースドセールスの姿であって、マーケティングではないんじゃ。

おそらく企業データを販売したり、グローバルIPベースで広告を配信したり、コールドコールを得意としているテレマーケティングベンダーが語れば、ABMはデマンドジェネレーションとは別物で、デマンドセンターなど無くても実行できるとなるかも知れん。しかしじゃ、ABMを導入するユーザーから見れば、結局社内に散在するターゲットアカウント(重点顧客)のデータを収集して統合管理しなければならないし、販売したい商材によって担当する事業所や部署が異なるから、事業所や部署、役職など毎にデータを分類し、その保有や反応をカバレッジで分析しなければならないし、これをグループ企業に拡大しようと思えば、企業をまたいだカバレッジ分析をしなければならんじゃろ?
もちろん、分類や分析をしただけでは意味が無いから、各ターゲットに対してエッジを利かせたコンテンツでコミュニケーションしなければならないじゃろ。BtoBの製品やサービスは、同じ企業でも部署や業務分掌が異なれば、反応するコンテンツもまた異なるものを用意すべきなんじゃ。

HR(ヒューマンリソース)ソリューションってあるじゃろ?人事給与システムとも呼ばれるものじゃが、あれは人事部門から見れば給与計算ツールなので、自社の人事制度や昇級昇格を正確に反映できるツールが欲しいし、情報システムから見れば、法改正や税制改正の時のパッチがどう配布されるかがポイントになる。組織を根本的に見直そうというミッションを背負った経営企画部門からすれば、タレントマネジメントの機能がどの程度使えるかに興味が有るし、経営層から見れば会社の生産性が上がるかどうかが重要じゃろ。つまりひとつの製品を売ろうと思っても社内の部署や担当によって課題が異なるから、それぞれにヒットするようなエッジの鋭いコンテンツをそれぞれに当てないといけないという事なんじゃよ。

マーケティングの大原則である

  • 正しい情報を(Right information)

  • 正しい人に(Right people)

  • 正しいタイミングで(Right time)

というのはABMでこそより重要になるんじゃよ。
そして何より、多くのターゲットアカウントは既存顧客の中の最も大切な「お得意さま」である事が多いので、そのデータやコンテンツの扱いは極めて慎重にする必要があるんじゃよ。

もしデータマネジメントやコンテンツマネジメントの専門部署であるデマンドセンターを持っていないとしたら、いったい誰がこれを安全に実施できるのかの?しかも長期に渡ってじゃよ。
つまり、デマンドセンターを構築しないでABMに取り組むべきでは無い、というのがわしの考えなんじゃ。

わしの相棒はABMに関してはこう説明しておるんじゃよ。

「ABMはデマンドジェネレーションの進化形です。本気でこれに取り組むなら、より高度なデータマネジメントと専門性の高いコンテンツをマネージしなければならない。ハイレベルのデマンドセンターを持っていない企業がABMを始めようとすれば間違いなく失敗するでしょう」

そして、このデマンドセンターのプラットホームとして設計され、進化を重ねてきたのがMA(マーケティングオートメーション)なんじゃよ。だから、どのMAを採用するかは企業によって選択の余地があるにせよ、ABMをスタートするにあたってMAは絶対に必要なツールなんじゃよ。

MAの重要な機能はデータを統合し、名寄せや営業対象外排除、企業と個人の紐付け、分析などを行うデータマネジメント機能と、それぞれの個人がどの商材やサービスに対してどれくらいの興味・関心があり購入可能性があるかを計測するスコアリング機能なんじゃ。

よくABMはターゲットとする企業数が少ないので、ツールが無くても始められるのではないか?という質問を貰うんじゃが、上で書いた通り、基本的にABMは中堅以上の企業が大企業を狙うマーケティングなんじゃよ。相手が大企業であれば、事業所や事業本部が複数在り、それぞれの部署に所属する社員がたくさんおるじゃろう。そう考えると、例えばターゲットアカウントが国内外7つの事業所に合計48部署を持つ企業の場合、特定の部署にターゲットとなるデータが存在しなくても、関連部署に300人のデータがあれば、それが全てターゲットということになるものなんじゃ。このようなターゲットアカウントが10社有ったとして、果たしてツールが必要無いと言い切れるかの?

結論を言えば、MAをプラットホームにしたデマンドセンターを構築し、人材を育成し、データマネジメント、コンテンツマネジメント、アナリティクスのノウハウを蓄積することがABMを成功させる必須の要件なんじゃよ。そして少なくともそのデマンドセンターのマネージメントスタッフには、ABMの源流とも言えるダイレクトマーケティングの基礎知識が必須なんじゃ。何事もそうじゃが、近道なんてものは無いんじゃよ。

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