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2020.04.07

ファネルの物語【後編】

フレームワークやモデルは実務家にとってはある種の道具ですから、目的に合わせて使い分ければ良いし、自分に合ったものを選ぶことはどの世界でもとても重要なことです。しかし理解していなければ、最適なものを選ぶことも正しく評価することも出来ないはずです。今回はBtoBマーケティングには縁の深い「ファネル」とその歴史を、2回にわたってノヤン先生が解説します。今回は第2回となる後編です。

サングラムと一緒に

サングラムと一緒に

SiriusDecisionsは2017年に、BtoBマーケティングのスタンダードモデルとして定着していたThe Demand Waterfallを進化させたDemand Unit Waterfallという第3世代のモデルを発表して実務家を大混乱させたんじゃが、このきっかけはAccount Based Marketing(アカウントベースドマーケティング:ABM)なんじゃよ。2014年頃から米国のBtoBマーケティングではABMが台頭し、一過性ではない継続的なムーブメントとして定着し、さらにはエンタープライズBtoBのメインストリームにまでなってきたんじゃ。
こうした流れを受けて、ABM専門のコンサルティングファームやツールベンダー、サービスベンダーなどが出てきて、彼らがABMのイベントなどを開催するようになったんじゃよ。その中心にいるのがterminus(テルミナス)というツールベンダーの共同創業者のSangram(サングラム)や、Marketoの共同創業者で上場までCMOをつとめ、今は独立してengagio(エンゲージオ)というABMソリューションのサービスベンダーを創業したJohn Miller(ジョン・ミラー)なんじゃ。

ジョンと一緒に

ジョンと一緒に

彼らがファネルをひっくり返したんじゃよ。ABMはターゲットアカウントにフォーカスしたマーケティング戦略じゃから、狙うターゲット以外のデータは必要無い代わりに、ターゲットアカウントのデータは広範囲に収集する必要があるんじゃよ。つまりリードジェネレーション(見込み客データの収集)のやり方が大きく異なるので、それを表現するにはファネルをひっくり返すのがてっとり早かったんじゃな。それで「Flip My Funnel」というモデルを構築し、この名前でコンソーシアムを組織し、イベントも開催して大きなムーブメントを起こしているんじゃ。

出典:FlipMyFunnel

出典:FlipMyFunnel

また、最近ではHubSpotを中心に丸い循環型のFlywheelモデルを推奨する動きが活発なんじゃ。実はこのFlywheelを最初に提唱したのは、ビジョナリーカンパニーシリーズで大成功した、米国のビジネスコンサルタントでベストセラー作家でもあるJim Collins(ジム・コリンズ)なんじゃよ。彼の名作「ビジョナリー・カンパニー2(Good to great)」の第8章「Flywheel(弾み車)の法則」を覚えている人もいるじゃろう。
最近コリンズはここからのスピンアウト本で「ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則」を出版したんじゃよ。この法則に乗っ取って偉大な企業への道を歩んだインテル、アップル、アマゾン、バンガードなどの例をあげて、弾み車の考え方や事例を集めた本じゃな。偉大な企業になるのは「弾み車を10回まわしたら、さらに10億回まわし続ける会社だ。10回まわしたら新しい弾み車で1からやり直し、それが10回転したらまた別の何かへとエネルギーを浪費する会社ではない」と喝破しているんじゃ。なかなか厳しい本じゃろ。

キップと一緒に

キップと一緒に

もちろん転換はゆっくり進むというこの法則の本質はそのままで、最初はぴくりとも動かなかった重い歯車を一定方向から辛抱強く押し続けた結果、少しずつ回りはじめてやがて止められないほどに強く高速に回転するという、やや哲学的な考察を含んだ法則なんじゃ。
その事例の中でひときわ目を引くのがアマゾンの事例なんじゃが、2018年に開催されたHubSpotのイベント「INBOUND18」で、同社の創業者でCEOのBrian Halligan(ブライアン・ハリガン)がこのアマゾンの事例を紹介した上で、弾み車の内側に「Engage」「Delight」「Attract」などの要素を埋め込んだHubSpot Flywheelモデルをユーモアたっぷりに紹介したんじゃよ。
SiriusDecisionsのThe Demand Waterfallが極めて実践的であり、実数を入れて設計して検証することを前提に作られているのに比べると、このFlywheelモデルは概念を説明する時には優れていても、金額を入れた実施設計には向かないような気もするんじゃが、そこはこれを推奨しているHubSpotの人に教えてもらうのが良いじゃろな。HubSpotのCMOのKipp Bodnar(キップ・ボドナル)がこのFlywheelの論客なんじゃ。

いずれにしても、こうしたあちこちで発芽しているダイナミックな動きを受けて、SiriusDecisionsは2017年にABMまでカバーした新しいThe Demand Unit Waterfallモデルを発表したんじゃ。しかし前の世代があまりにも良く出来ており、すでにスタンダードモデルとして普及しておったから、定着するまではかなりの混乱を招いたんじゃよ。SiriusDecisionsのサミットやイベント、カンファレンスでも「SQLはどこに行ったんだ?」「減衰率はどう計算すれば良いのか?」「ADRはどこに置くのか?」などと質問が止まらない程だったんじゃよ。
実はSiriusDecisionsもこのモデルがあまり判りやすく無い事は承知していて、今も改良を続けておるんじゃ。技術も含めて世の中の流れが速いので、理論的な牽引者の立場を維持するのも大変なんじゃな。

ということで、2020年現在は、2012年にSiriusDecisionsが改訂したThe Demand Waterfallモデルと、2017年に発表したThe Demand Unit Waterfallモデル、そしてABMのコンソーシアムが提唱しているひっくり返したFlip My Funnelモデル、さらに弾み車に進化させたHubSpot Flywheelモデルがあって、他にたくさんの派生形があるんじゃ。

わしはどれが正しく、どれが間違っているなどと言うつもりは無いんじゃよ。フレームワークやモデルはある種の道具じゃから目的に合わせて使い分ければ良いし、自分に合った道具を選ぶことはどの世界でもとても重要なことなんじゃ。

大事な事はそれぞれのモデルやフレームを理解した上で、目的や自分に合ったモデルを選ぶことなんじゃよ。時々「時代はFlywheelでThe Demand Waterfallなんてもう古いですよ」などと言っている人を見かけるんじゃが、そんな人に限ってThe Demand Waterfallをちゃんと理解していないことが多いんじゃよ。理解していないものを批評出来るはずがないし、道具は使ってみないとの本当の性能は判らないものなんじゃ。そういう人にはきっとFlywheelも使いこなせないじゃろうし、どの分野であっても一度はスタンダードになったものなら、それは真摯に学ぶに値するとわしは思うんじゃよ。

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