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スペシャル対談

前編後編

2017.09.20

スペシャル対談「“良い製品”から“良い経験”を売る時代へ ダッソー・システムズが考えるマーケティングの未来」(後編)

世界をリードするダッソー・システムズ様のスペシャルインタビュー。後編では、同社のリブランディングによってどのような変化が起きているのかをお話いただきました。

「企業にとって価値とは何か」をクライアントと共に考える

庭山:前回、部門や国を超えた情報共有によって“価値の創出”に貢献するというお話を伺いました。非常に素晴らしいアイデアですが、一つ問題もあります。日本においては、R&D部門とデザイン部門とマーケティング部門は別の建物にいます。例えば、R&D部門は関東近郊の研究センターの中に、マーケティング部門は本社のある東京都内にあるといった会社がほとんどで、双方が関わることはほぼありません。

メンギニ氏:マーケティング部門とR&D部門が話をしていない、営業と財務部門が話をしていないというサイロのような現象は、日本に限らずどこの国でも見られるものです。これは、各部門に権限を持たせることが重要なカギとなります。
例えば、Jaguar Land Rover Automotiveで私たちが対話をしていた人物はマーケターではなくCEOのラルフ・スペッツ博士です。彼と一緒に、Jaguar Land Rover Automotiveという会社の将来の価値創出をどのように進めていくべきかを話し合い構築しました。アイデアベースで構想を練る段階から、設計、エンジニアリング、マーケティングといった企業の全体像がわかり、それを俯瞰して見て判断することのできる人物と共に進めることが大切なのです。

庭山:あなた方が戦略についてディスカッションをしている企業のCEOは、マーケティングの経験がある方ですか?

メンギニ氏:いいえ、エンジニア出身です。ラルフ・スペッツ博士もドイツ人エンジニアですし、バックグラウンドとしてマーケティングの経験があるかどうかは、必ずしも必要なことではありません。それよりも、“価値の創出”に関わっており、それが何らかの理由で前進をやめたときに受ける企業のダメージを理解した人でなければならないのです。
CEOであれば継続的に価値を創出し続けることの重要性や、そのプロセスを理解しています。もちろん、世界中のCEOと直接話をしなければならないわけでなく、CMOでもデジタルマーケティングの話ができるCTO(最高技術責任者)でも良いでしょう。

庭山:日本のBtoBマーケティングはまだ始まったばかりで、部門として持てる予算も非常に少ない上、投資の対象にもなっていません。

メンギニ氏:CEOやCMO、CTOなど経営層と話をするということは、より大きな企業規模での予算を見ることになります。私たちが提供するものはエンタープライズ向けのプラットフォームですから、エンジニアリングに製造、販売から物流に至るまで企業内の7つのシーンで活用できます。さらに、導入後も活用する部門を拡大することができます。そのため、マーケティング部の予算だとか販売部門の予算だとか、そういった規模ではなく企業規模でみることになります。だからこそ採用されやすくなります。

CADの会社から脱却した、ダッソーのリブランディング

庭山:なるほど。ところで、3D CADは一部の人や部署で使うものですから、多くの人々は「ダッソー・システムズ=設計ツールの会社」と認識されていると思います。その状況を、いかにしてグローバル戦略ソリューションの企業としてブランディングし直したのでしょうか。

メンギニ氏:リブランディングを行ったのは7年前になります。おっしゃる通り、ダッソー・システムズはCADの会社でした。当時はいわゆる「デザイン」すらできない、あくまで設計をするためのツール屋です。そう定義されたままでは、時代をリードできなくなる・・・そこで私が加わった7年前に、「ダッソー・システムズは3Dエクスペリエンスの会社である」と再定義し、そのために必要となるプラットフォームをR&D部門と一緒に創りました。それは、ツールでもなくソフトウェアでもない、プラットフォームという位置づけのものです。
また、新しいプロダクトを展開するにあたり、多くの企業買収も行いました。マーケティングのツールをプラットフォームの中に持つ必要があったので、これも買収により内部に取り込みました。過去のダッソー・システムズと今のダッソー・システムズは全く異なる組織です。
7年前のソリューションは、今提供するものの一部分に過ぎません。数多くのソリューションを抱えたポートフォリオを持つプラットフォームこそ、ダッソー・システムズがお客様に提供するものであり、リブランディングの全てなのです。

庭山:素晴らしい。マーケティングの近視眼に陥らなかった成功例ですね。今後、充実させていく計画があるソリューションはありますか?例えばMAやSFA、CRMなどですが。

メンギニ氏:今名前が挙がったソリューションを追加することは考えていません。企業としてダッソー・システムズが持つ価値がないものですし、CRMはすでに機能として含まれる部分がありますから。投資をしてまで新たに開発する必要はなく、今あるソリューションに装備されているもので十分役割を果たせると考えています。

庭山:『3DEXPERIENCEプラットフォーム』を販売するための特別なトレーニングプランはありますか?日本の営業マンは、足と汗で努力して稼ぎ営業目標を達成してきた経験はありますが、ソリューションを売ることはあまり得意としていません。

メンギニ氏:教育が必要だなんて、信じられません!そもそもトレーニングという考え方自体が、旧態依然のものではありませんか?誰かを教育するというよりも、会社の内部で働く人々からの理解を深めることに意味があると思います。
サイロは瞬間的になくなるものではなく、少しずつ減っていくものです。日本も、今はまだ過去に引きずられた状態かもしれませんが、あるときに大きな飛躍や急速な変化がもたらされるかもしれません。それがいつになるかは誰にもわかりません。しかし、たとえばトヨタがその変革を起こしたら、それは自動車業界のロールモデルとなり他社も続くでしょうし、たとえばP&Gがそうであれば、消費財業界全体が動き出すでしょう。必要なことは、教育ではなくロールモデルです。

グローバルカンパニーが見た日本の製造業のこれから

庭山:最後の質問です。弊社の7割近いクライアント企業は大手製造業です。彼らは今、ヨーロッパのマーケットを見据えています。ヨーロッパを代表する企業であるダッソー・システムズからメッセージをいただけますか。

メンギニ氏:日本経済はアベノミクスが下火となり、最近はあまりうまくいっていないように見受けられます。残念ながら、経済をいかによくするかに効く魔法のレシピは持ち合わせていません。一つ言えることは、アメリカとヨーロッパが冷戦のような状態になっていますが、ヨーロッパ全体は良い方向に向かっています。特に製造システムはインダストリー4.0然り、大きな変革が起こっています。
日本においては、昔からの製造システムを使い続けており、さらにボトムアップを重視する商慣習もあることから、デジタル化には時間がかかるでしょう。しかし、一旦動き出せば世界の5倍の速さで変革が進む可能性をも持ち合わせていますし、そのエネルギーがヨーロッパで展開する際の糧となります。すでにヨーロッパ市場に参入しているトヨタのようなマーケットリーダーがいれば、それに続く企業も増えるでしょう。ヨーロピアンはトヨタブランドが大好きなんですよ。
日本は世界の中でも、ものづくりに長けた素晴らしい国です。どのブランドも、製品をエンジニアリングする点では大変優れています。しかし、これからは製品に基づいた経済から経験に基づいた経済へとシフトする流れがあります。製品力だけで勝負する時代の終焉を迎えた今、日本のものづくりは完璧な経験をつくるところにマーケティングをシフトする必要があり、それが成功のカギとなるでしょう。

庭山:素晴らしいお話をありがとうございました。