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2012.02.27

モバイルマーケティングの今後の展望

text:Shunsuke Ueno

急激に成長したスマートフォン市場に伴い、可能性を拡大させているモバイルマーケティング。その現状と今後の動向についてUeno氏が解説します。

必要は発明の母と言いますが、その逆もあり、利用者側が必要性を認めなければすでに発明されているものも意味がありません。ご存知の通り日本のモバイルマーケティングは市場の特殊性からかなりの独自進化を遂げていますので、様々な企業が「日本で大流行」と掲げ、様々なものを売ろうとしましたが、どれもこれもうまくいかなかったのを見てきました。数年前までは日本で行っている方法や技術をそのまま海外に持ってきても利用価値は非常に低いものでした。

今でも日本の方法をただ単に輸入して利用するのでは意味がないのですが、実証された技術や手法などを、研究して改良するのは安全で早くかつ低コストです。そしてここ1年半ほどのスマートフォンの爆発的普及のおかげで、アメリカでのモバイルマーケティングはずいぶん日本に追いついてきた気がします。特にモバイルを絡ませた複数メディアで行われるマーケティングが目立つようになってきました。

たとえばQRコードですが、これもまたずいぶん前から取り入れようとする企業が後を絶ちませんでした。しかし、対応端末の普及などが全く追いついておらず、結局「珍しいもの」の域をでなかったのです。2年前に企業側の強い希望で雑誌広告などに入れたときは、結果的にほとんどの消費者がそもそもQRを何に使うのか知らないという大問題が改めて発見されたりしたものです。それがここ1年でずいぶんと改善されてきました。
最近ではStaplesという大規模文具品チェーン店の店内で高額商品(プリンターとか)の値札にQRがつけられていて、QRそのものに対する説明書きはありません。QRはモバイルで見るという一般的な知識が十分な数の消費者に広がった証拠です。このQRの目的は日本と同じで、サイズの限られた値札や商品棚に、説明書やカタログを置く代わりとなっています。

また位置情報などを利用したマーケティングもよく見受けられるようになってきました。多くの飲食店などでは、店舗に来てモバイル端末からfoursquareなどの位置情報ソーシャルメディアで「チェックイン」をした消費者にクーポンなどを渡す事で消費者を「お得意様」に効率よく変換します。
またその他の小売店などもLivingSocialなどの位置情報マーケティングサービスなどに広告をのせる事でリアルタイムに近いかたちで集客ができるようになってきました。どちらも、モバイルと実在する店舗とのコラボマーケティングです。考えてみればモバイル以外のメディアでは当たり前の事なのですが、モバイルの技術が追いついていなかったため、「当たり前」が当たり前になるのにずいぶん時間がかかりました。

今はスマートフォン端末が普及し、3Gもほぼ全土を網羅し、料金体系も使い放題が月に$4〜50になり、また高速インターネット接続の出来る無料WiFiも、自宅はもとより、職場、学校、喫茶店から近所の公園に至るまで普及しており、モバイル端末からの実用性のある通信が、技術的にも経済的にも可能になりました。
これからもモバイルの携帯性という特徴と、高速通信をかけあわせたモバイルマーケティングがもっと流行っていくのは間違いないでしょう。この業界に最初からいる者として、この加速度的発展はとてもうれしいことです。

しかし私が思うに、モバイルマーケティングの中での大局的な位置づけは相変わらずはっきりしていません。モバイル自体が発展途上であるため、ほとんどの企業のモバイルマーケティングにおいて、長期的ビジョンが見えません。つまり、なぜモバイルが「絶対に」必要なのか、答えが出ていないのです。
モバイルは「今すぐ」が重要な要素であり、モバイルマーケティングがその場で直ちに使える何かを提供するのは道理にかなった話です。さらにモバイルゲームや音楽ダウンロードなどいくつかの例外はありますが、基本的にモバイルメディア単体でのマーケティング効果は非常に限られたものです。モバイルマーケティングは上記の例のようにクロスメディア、できれば複数のメディアチャンネルを使う方が効果的ですので、一つ一つのキャンペーンを見るとモバイルはその他のメディアへの橋渡しに、一度きりの利用に使われるのもまあ仕方ない事と認識しています。
しかしモバイルは本来、双方向通信のための道具です。またせっかく顧客に覚えてもらったモバイル端末の操作方法を無駄にするのも、もったいない話です。個々のキャンペーンにこだわりすぎず、モバイルをほかのメディアと平行して長期に渡って使ってもらうようなモバイルマーケティングが、まだあまり見当たらず残念です。コンサルタントは仕事を選べませんが、もし選べるのであればそういう仕事をしたいですね。

ノヤンのつぶやき

ノヤン

モトローラやブラックベリーなどが普及していた米国では、スマートフォンと言われる多機能携帯の普及は確かに日本より遅れていたんじゃな。でも、元々マーケティングのナレッジは圧倒的に進んでおるから、普及した後のマーケティング分野での活用は途方も無いスピードで進化するじゃろうな。だから、その最前線に居るUenoさんのレポートからは目を離せないんじゃよ。

Shunsuke Ueno プロフィール
単身アメリカに渡り、20年間インターネット、モバイルなど常に時代の先頭にたったマーケティング活動を行う。マイクロソフト社、インテル社、Verizon社など、大手企業のモバイルマーケティング戦略を手掛ける。現在はフリーランスとして活躍中。