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2017.09.20

今回は、オランダ・アムステルダムで開催されたIDN(InterDirect Network)のエグゼクティブ会議の様子を報告します。

IDN(InterDirect Network)
IDNのWeb

IDNのWeb

今回の欧州出張のメインの目的は、今年から加盟したIDN(InterDirect Network)のエグゼクティブ会議に出席するためでした。
IDNは、1988年にオランダを代表するマーケティングエージェンシーの創業者のピーター・バンデンバスキンを中心に設立されました。世界各国の独立系マーケティングエージェンシーが協業して、それぞれの顧客の国を越えたキャンペーンをサポートすることを目的に誕生しました。

世界のマーケティングエージェンシーは、広告代理店やコンサルティングファームと同じように二つに大別されます。
ひとつは顧客のグローバルキャンペーンを世界中で同時に展開できるリソースを持つエンタープライズエージェンシーです。Ogilvy One、Merkle、Wundermanなどがこれに該当し、世界中に拠点を持ち、数千人のスタッフを抱えています。いずれも元は独立系でしたが、現在は大手広告代理店グループの傘下に入っています。

もうひとつはブティックエージェンシーと呼ばれるもので、スタッフ数が30人から150人くらいの規模です。小規模なので、経営幹部が直接顧客を担当することが多く、顧客企業の製品のマーケティング戦略や、販売計画にも関わり、顧客企業のマーケティングチームと一体になってワークします。しかし、リソースの問題で顧客のグローバルキャンペーンをサポートすることはできませんでした。

このIDNは各国のブティックエージェンシーが、IDNという組織に加盟し、密接に協業することで、顧客企業のグローバルキャンペーンをサポートすることを目的に設立されました。
そのために創設者のバンデンバスキンが考えたコンセプトが、「1ヶ国1エージェンシー」です。しかも、加盟資格があるのは、その国を代表する実績を持つ独立系のブティックエージェンシーだけで、IDNが事前に審査し、選ばれたエージェンシーを招待する方式を採っています。
現在、フランス、ドイツ、オランダはもちろん北欧のすべての国、ルーマニア、ポーランドなどの東欧諸国、そしてイタリア、ポルトガルなどの南欧諸国、シンガポール、インド、タイ、中国、そして日本のアジア諸国、そして米国の世界30ヶ国からそれぞれ1社のマーケティングエージェンシーが参画し、その社員数を合計すると2,100人を超え、クライアントは600社を超えています。
この密接な関係の中で、過去の国をまたいだキャンペーンのナレッジや、それぞれの国内でのナレッジ、そして最新のテクノロジーやサービスなどの情報を共有し、それを顧客企業にフィードバックすることで、顧客に提供するサービスレベルを向上させています。
ケーススタディを見ていると、錚々たる大手エージェンシーとのコンペで勝利しているのが判りますし、その成果も非常にレベルが高いものでした。

IDN会議の様子

IDN会議の様子

弊社シンフォニーマーケティングも約6ヶ月の選考期間を経て、2017年2月から正規のメンバーとなりました。

今回のエグゼクティブ会議は、弊社の初めての参加だということと、多くのメンバーが日本市場にとても興味があるとのことで、会議の初日に30分のプレゼンテーションを行いました。題して「Japan is no longer a country That's Mysterious to you」(日本はもう訳の判らない国ではないよ)。
欧州の人たちから見ると日本は、戦後の焼け野原から奇跡の復興を遂げ、瞬く間に世界の経済大国に上り詰めた国でありながら、マーケティングについてはほとんど語られることが無かった不思議な国だからです。

日本のBtoBマーケティングの現状と、その背景、歴史、そしてこの数年間に起きた大きな変化とそのきっかけ、さらにはこの先にある日本企業のグローバルマーケティングの近未来をまとめてお話ししました。

コーヒーブレイクの時や、夜のパーティーで、「とても良かった」「日本のことがやっと判った気がしたよ」「こんな風に日本のBtoBマーケティングを説明してくれたのはあなたが始めてだ」とお褒めの言葉をいただきました。

IDNでのプレゼン

IDNでのプレゼン

クリエイティブのレベルは世界最高峰

CRM、SFA、MA、DMPなどのマーケティングテクノロジーの数や、開発スピードなどに置いては米国が世界の中心ですが、もう一方の重要な要素であるクリエイティブのレベルでは欧州にはいつも圧倒されます。それもそれぞれの国の文化や伝統を反映したデザインでありながら、どれも非常にレベルが高いのです。
それは、Webデザインに限らず、企業のロゴやサイン、包装紙、パンフレット、さらには再開発の街並みや、レストランの店舗デザインなどに至るまでで、クリエイティブというのはその国の歴史や文化を反映すると言われる理由が良く分かります。

欧州の中でも、総合的なレベルが高いのは英国とオランダだと思います。英国はノーブルでスタンダードなデザインを得意とし、グリーンやネイビーブルーを使わせたら英国にかなう国は無いでしょう。英国のノーブルなデザインに少しだけ欧州らしい明るさを足したのがオランダのダッチデザインという感じがします。なにしろ光の魔術師と呼ばれたレンブラントやフェルメール、ゴッホを生んだ国であり、アムステルダムは芸術と運河の中に人が住んでいると言っても過言ではない街です。このダッチデザインは世界的にも注目されており、多くの企業がオランダのデザイン会社をプロジェクトに加えています。

そして色使いのセンスで圧倒するのはやはりフランスです。デザインの傾向としては白の使い方が傑出していて、一目でフレンチデザインとわかるものが少なくありません。
古城や壁画などの古いモチーフを使うのがうまいのはやはり圧倒的な歴史を持つイタリア・スペイン、そしてポルトガルで、淡いトーンで優しく心地よい世界を表現するのはデンマークやスウェーデン、さらに白を基調にした独特のデザインはフィンランドやノルウェーです。そして質実剛健で無駄の無いのはドイツで、これが工業デザインで多く採用される理由でしょう。

こうしたクリエイティブの多様さもこのネットワークの強みで、米国企業が、基本デザインをデンマークに依頼し、Webのコーディングはインドで、コラテラルなどの詳細デザインはオランダで行うという事例を見ましたが、それは見事なキャンペーンが驚く程の短納期と低コストで実現されていました。

とっても仲良し

そして、こうした異なる文化を持つ国からなるこのIDNの最大の特徴はメンバーの仲の良さです。今は引退したファウンダーのバンデンバスキン氏のコンセプトが受け継がれ、規模よりも企業文化、役員の人柄などを選考基準にしていることがよく判ります。現在の代表であるフランスのギョーム・ヴィレモ氏もIDNのカルチャーを何より大切に考えています。

IDN記念撮影

IDN記念撮影

IDNディナークルーズ

IDNディナークルーズ

GDPRは来年から

会議ではGDPRのことも話題に出ました。2016年4月に制定された欧州連合(EU)の新しいプライバシー規制「GDPR:General Data Protection Regulation)」がいよいよ来年2018年5月から施行されるからです。
現在欧州連合では1995 年に導入された「DPD:EUデータ保護指令」(The Data Protection Directive :Directive 95/46/EC)によってプライバシー情報の扱いを規定していますが、このGDPRはこれを大幅に改変したものです。

特徴としては、情報主体の権利を大幅に強化し、個人データを収集、または処理を事業とする企業に多くの義務が課され、事業者の説明責任も明確に要求されています。そして違反した者には最高2000万ユーロ(約25億円)、または全世界売上げ高の4%までの罰金を科せられる非常に強い法規制です。

英国のBrexitや、フランス右派のEU離脱論のひとつの根拠は「ベルギーの官僚体質」を嫌ってのことです。個性の強い欧州の大国は、そもそも上からものを言われるのを嫌います。その上、現行のビジネスを否定するような規制には反対なのです。GDPRのひとつの特徴は、EU圏外の企業まで規制対象にしたところでしょう。もちろんGDPRで個人情報と定義されるのはEU圏内に居住する人か、EU圏内に旅行などで一時的に滞在した個人の情報なのですが、その管理企業がEU圏外であっても規制対象になります。こうなると、クラウドベースで急成長した多くの米国企業は新たな対策を講じないとビジネスを継続できなくなります。特にSFA/CRMやMA、またビジネスSNSのLinkedInのように、欧州でもスタンダードになりつつあるサービスの収益源を大きく制限されることになりそうです。この辺に米国と密接な関係にある英国が反対した理由が垣間見えそうです。

GDPRに関しては、IDNの会議でも注目のトピックスとして取り上げられました。このまま施行されるのか、多少変更が入るのか、施行が延期されるのか、未だ不明な点が多いのですが、スケジュールが1年を切ったことで対策を始める企業が増えそうです。
GDPRとその対策に関しては、シンフォニーマーケティングで段階的に情報をリリースしていく予定です。

ロンドンでGDPRの専門家とディスカッションする著者

ロンドンでGDPRの専門家とディスカッションする著者

聖パトリックのシャムロック
シャムロック

シャムロック

会議の最後に、「CX(カスタマーエクスペリエンス)を我々の戦略の基本に置くべきだ!」と熱く語っていたアイルランドのメンバーが、「君の素敵なプレゼンで日本のBtoBマーケティングがやっと理解できたよ、記念にこれを持っていってくれ」と言って自分がつけていたシャムロック(カタバミ)のバッジをくれました。シャムロックはアイルランドの聖人である聖パトリックが、この3枚の葉を持つシャムロックを三位一体のシンボルとしてキリスト教を布教したと言われているもので、アイルランドのシンボルにもなっています。「君の帰国の旅に聖パトリックのご加護がありますように」と言ってくれました。

無事に帰国して、これを書けているのは、このシャムロックのお陰かも知れません。今回も実り多い旅でした。

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