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2020.02.25

米国大統領選での事件から考察する、マーケターが洞察力を磨かなければならない理由とは

text:シンフォニーマーケティング代表取締役 庭山一郎

マーケターが自社のマーケティングを企画・実施する上で学ばなければならない事が急増し、その範囲も広がっています。ビジネスの世界では騙されることも“罪”だからです。その事を最近米国で起きた事件を例に説明します。

BtoBマーケティングはサプライチェーンが長く深いので、その全てを社内で行うと多くの無駄を発生させる事になるため、あまり現実的ではありません。そこで多くの企業では、大なり小なり外注企業の力を借りて業務を行うことになります。
しかしそこには、知らないうちに企業ブランドを傷つけ、責任を問われるようなリスクも存在します。そんな話を米国の大統領選挙でつい最近起きた、コールサービスのトラブルを例に説明しましょう。

今年2020年に行われる米国大統領選挙の候補者として名乗りを上げたマイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg)氏をご存じでしょうか。証券会社をはじめとしたファイナンス業界で利用される情報サービスで圧倒的なシェアを持つブルームバーグ社を創業し、そのオーナーとして米国でも有数の大富豪となり、後にニューヨーク市長までつとめた人です。そのブルームバーグ氏の大統領選への参戦は、圧倒的な資金力と知名度によって話題を呼んでいますが、その矢先の2019年暮れにネガティブな話題を振りまいてしまいました。

選挙キャンペーンのテレコールに、刑務所に服役している女性受刑者を使ったと公表されてしまったのです。
「刑務所から選挙キャンペーンのテレコール?」日本では起こりえない事ですから驚いた人も多いと思います。

実は米国のいくつかの大手コールサービスの会社では、以前から受刑者を採用して刑務所の中からコールするサービスを提供しており、これは米国のコールセンター業界ではよく知られた話です。日本でもそうですが、コールサービスは典型的な労働集約型ビジネスで、採用、トレーニング、定着がいずれも非常に難しいと言われています。コールする人がいなければ仕事を受注することが出来ず、かといって先行して採用すれば人件費を発生させながら遊ばせることになるため、赤字覚悟でディスカウントに走らざるを得なくなり、それがこの業界の恒常的な価格破壊要因になっています。人件費を抑えようと給与水準を低くすると定着率が下がり、その補充のために採用コストを掛けざるを得ず、赤字に転落していくという負の連鎖が断ち切れないモデルなのです。

数年前、米国のあるコールサービス企業を訪問した時に、社内を案内してくれた役員が「我々はついにこの問題の最高のソリューションを見つけたよ」と言うので、「どんな方法?」と質問したら、「絶対離職しない人を採用できるんだ」と前置きして「刑務所にいる受刑者だよ」と笑いながら話してくれました。

受刑者が刑務所内の工場で作業をする事は日本でも昔からあることですし、米国では刑務所の管理・運営を民間企業にアウトソースすることも多いですから、考えてみればありそうな話ですが、いくら安いとは言えそのサービスを利用する企業がよくあるなぁ、と思ったものです。彼は「これからは価格競争で最も安い見積もりを提示する企業は、その業務の一部に受刑者を使うだろう」と言っていました。

ブルームバーグ氏が、自分の選挙キャンペーンの電話を受刑者が刑務所から掛けると知っていたかどうかは判りません(本人は明確に否定しています)が、これは民間企業でも起こりうることです。

自社が発注した仕事の下請けや三次下請けなどに、違法性や自社の評判を傷つけるリスクが存在しないかを気にしなければならない時代になったということです。インバウンドやアウトバウンドのコール業務ばかりでなく、展示会のブース運営、名刺入力、データマネジメント、メール配信など、多くの企業が普通に使っている外部委託サービスでも、それを実施している業者が、例え三次下請けであっても違法行為や社会常識を逸脱した事をすれば、発注した企業の評判を傷つけるリスクがあるという事をこの事件は示唆しています。

そういう時代の中でマーケターはマーケティングを企画・実施しなければなりません。安全を優先する全ての業務を最大手に発注すれば、予算はいくらあっても足りないでしょう。だから発注する業務の中身や手順、関連する法令、適正な価格とサービスレベルなどを貪欲に学ばなければならないのです。ビジネスの世界では騙されることも罪なのです。
私がクライアントの海外業務をサポートするパートナーを選定する時に、米国、欧州、アジアのどこであろうと必ず相手の企業を訪問し、周辺環境やオフィスの雰囲気、そこで働く人達の顔や態度をしっかり見るようにしているのはそのような理由なのです。