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2008.12.01
BtoBの企業が展示会に出展する、しないは保有するリードデータ(見込み客リスト)から算定すべき問題で、単純に費用対効果で判断するのはキケンです。展示会出展を止めてはいけない理由。それは・・・
私は展示会出展者向けのセミナーで講師をすることが多い。展示会などで収集した見込み客データの管理・育成を専門としているので、展示会データの活用手法を話して欲しい、という主催者からのご依頼なのだ。
そうしたセミナーの後、受講者から必ず言われる事は「今のお話をウチの会社で話していただけませんか?」という依頼だ。聞けば社内には展示会への出展を「不要」と断定する人たちがおり、出展費用を確保できなくて困っているらしい。
私の会社は展示会に関連したサービスメニューを持っていないのでクライアントが展示会に出ても出なくても売上にはまったく関係ない。それでも私はクライアントに「展示会の出展を止めてはダメです。必ず数年後に困ることになりますよ」と言い続けている。
その最大の理由は、見込み客(リード)リストを短期間に大量に収集しようと思えば他に代替手段が無いからなのだ。2005年の個人情報保護法の施行前であれば、見込み客情報を購入することができた。
実はマーケティングの先進国では、見込み客としての個人情報リストが合法的に販売されている。アメリカに至っては最大のリスト販売業者がUS.Mailと呼ばれるアメリカ郵政公社なのだ。日本で言えば旧郵政公社である。
しかし、日本では個人情報保護法が施行された以降は実質的に個人情報リストを購入してマーケティングに使うことはできなくなった。個人情報を含まない企業情報なら購入することは可能だが、ダイレクトメールの宛名を「総務部長さま」とか「ストレージ担当者さま」として発送しても、良い結果は望むべくも無い。
私の会社のクライアントが顧客・見込み客向けに配信しているメールマガジンの平均クリック率は5〜8%になる。
これは通常の企業メールマガジンと比較すると2〜3倍の成績で、クライアントと弊社スタッフの努力の結果だが、それでも、1回のメール配信で不達と配信停止依頼が合計で0.2〜0.6%程度は出てしまう。部署移動になって担当を外れれば「もうこの情報は自分には必要ない」と配信停止依頼をしてくるし、転職や退職をしてしまえばメールアドレスが存在しなくなるので「不達」になる。
こうした「不達」と「配信停止」を合計すると年間で5〜10%は有効リストが減っていく計算になる。20000人のリストを持っていれば、2000人が毎年減衰することになる。だから最低でもこれと同数を新規で収集しないと手元の見込み客リストがどんどん減っていくことになるのだ。
しかも、平均すれば新しいリストの方がクリック率もセミナー参加申し込みなどのコンバージョン率も高いので、展示会に出展しないということは、リストを減らすと同時にクリック率も落としてしまうことになる。これがボディーブローのように2〜3年後に効いてくる。いざマーケティングキャンペーンをやろう、セミナーを開催しよう、プライベートイベントをやろうとしても手元のリストが枯れていてほとんど役に立たないのだ。
展示会で名刺1枚を獲得するコストを考えたことがあるだろうか?計算式は簡単だ。集まった名刺の数を、出展に掛かったコストで割れば良い。このコストの中には出展費用、ブースの施工費、ノベルティ、コンパニオン、ブース内で流すプロモーションビデオ制作費までを含めて計算する。正社員の給与は入れない場合が多い。
私の会社ではこれをCPL(Cost Per Lead)つまり「名刺獲得単価」と呼んで展示会評価の指標のひとつにしている。この式で計算するとほとんどの企業の名刺獲得単価は1枚あたり10000円を超える。
高い企業、つまり大きなブースの制作費にお金を掛け、豪華なノベルティを配布して、その割にあまり名刺を獲得しないとこの「CPL」はあっという間に2〜3万円になってしまう。逆に無駄なスペースを排除し、実用的なレイアウトで名刺を効率よく集めるとCPLは5000円以下にまで引き下げることができる。しかし平均するとやはり10000円になると見ていいだろう。
つまり過去の展示会で収集した名刺やアンケートが仮に30000人分あれば少なくとも3億円以上の資産を眠らせていることになる。これは広告費や販促費などの勘定科目で既に費用処理されているから、償却が終わっていると言える。つまり償却が済んで帳簿にすら載っていない優良資産を3億円分持っているのとまったく同じなのだ。これを活用しない手は無いだろう。
私は若いマーケターに見込み客の減衰のシミュレーションを教える時に、こんな格言を使う。
「あなたがパンに困らないようになりたいと望むなら、手に入れたい量の小麦の3倍を収穫しなければならない、収穫したい量の3倍を育てなければならない、育てたい量の3倍の種を蒔かなくてはならない」
つまり10袋の小麦を手に入れたいと思えば、30袋分を収穫しなければならず、そのためには90袋分の小麦を春から秋まで育てなければならず、そのためには270袋分の小麦の種を蒔かなければならない、ということなのだ。こうして各プロセスでの減衰を見込んで仕込んでおけば、悪天候や動物の被害、思わぬ災害や、過酷な徴税があったとしても、必要なパンを焼けるだけの小麦を確保することができる。
ものを買うか買わないかは相手の勝手だし、基本的には必要な決裁者の合意や予算確保などいくつかの要素をクリアしなければ購入には至らないから、BtoBのマーケティングでの減衰要因は多いと考えなければならない。だから「蒔く種の数」は多い程良いのだ。
そして、この「種蒔き」こそが展示会での名刺獲得やアンケート収集なのだ。
蒔かない種は決して芽を出さないから、育てることも収穫することもできないし、もちろん美味しいパンを焼くこともできない。
だから、展示会に出展しない、つまり種蒔きをしなくても良い企業とは、すでに過去に蒔いた種が多過ぎて畑の手入れがまったく間に合わない、という企業だけなのだ。こうした企業は種蒔きの予算や労力を育成と収穫に充て、収穫したら安全に管理すれば当分は種蒔きをする必要はない。
しかし、そうした企業以外は種蒔きをさぼると大変なことになる。もちろん今年種蒔きをさぼっても今年すぐに飢えることはない。でも来年や再来年には必ず後悔することになるだろう。