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2009.01.22
展示会は出展したら終わりではありません。むしろそこからがスタートです。出展コストや集めたデータをムダにせず、展示会担当者が陥りがちな落とし穴を回避するための鍵とは!?
前回、展示会に出展することがいかに大切で代替手段がないかを説明したが、今回は展示会に出展する企業がよく陥る「落とし穴」について説明しよう。展示会の準備に要する長い時間と多くの予算をまったく無駄にしてしまう落とし穴は意外に多いのだ。
企業が展示会に期待することが数年前にガラッと変化したことに気がついているだろうか?経営者や営業チームが期待する「成果」が大きく変化したのに、展示会担当者だけが気づいていない企業を意外に多く見かける。
数年前まで企業が展示会に求める「成果」の70〜90%はブランディングだった。自分達が当然出展しているべきテーマの展示会にはとりあえず出展する。もちろん業界のお付き合いという理由も多い。出るからにはみっともないブースではいけないのでお金をかけて同業他社に引けをとらないブースを作る。そして同業他社や取引先など、主に自社の業界に対して「元気であること」を証明していたのだ。
これが目的なら予算を削りブースを縮小して出展することなどはありえない。なぜならブースを縮小することは、わざわざお金をかけて「昨年より元気がないこと」を証明するようなものだからだ。予算を縮小するくらいなら出ない、という判断の理由はここにある。
しかし今、企業が展示会に期待する「成果」の80%は見込み客の獲得であり、その延長線上にある営業案件の創出である。その視点で見れば、ブースを縮小しても見込み客リストを収集できる展示会には出展しよう、となる。しかもブースの運営次第では小間数と獲得する名刺やアンケートの数は必ずしも比例しない。小さなブースでも十分多くの名刺を獲得することができるのだ。
日本の展示会と欧米の展示会の最も大きな違いは何かご存知だろうか?東京ビッグサイトや幕張メッセなどの首都圏で開催される展示会での、平均的な会場の滞在時間は3〜4時間だ。つまり開始の10時に来場した人は午後の早い時間に帰っていくし、午後から来た人は5時か6時の最終まで会場にいるということだ。
またその来場者のブースの平均滞在時間はいくつかのデータを見比べても7〜10分程度である。つまり平均的な展示会では、来場者は18〜25社のブースを回り、パンフレットやノベルティをもらって3〜4時間で会場を後にする。これが日本の展示会の現在の姿だ。
これに対して、アメリカでは、ラスベガスやニューヨーク、オーランドなどで開催される展示会に企業のエグゼクティブが1〜2泊の予定を組んで飛行機でやってくる。会場の滞在時間も長いし、ブースでもかなりつっこんだ商談で長く話し込むので滞在時間も長くなる。
つまり、職位の比較的低い若い人が、広く浅い情報収集を目的に来場する日本と、商談を目的にエグゼクティブが来場する欧米の展示会とは、来場者の層も目的も大きく異なるのだ。日本の展示会でエグゼクティブ用の資料や商談スペースを用意しても、そんな人はどこにもいない、ということになりかねない。
優秀な営業は、動く獲物にだけ反応する猟犬のようなマインドを持っている。動く獲物とは3カ月あるいは半年以内に注文書をくれる有望な見込み客のことだ。この「金の匂い」と形容される微かな匂いを嗅ぎ分ける能力がトップセールスに求められる。
そして営業を展示会のブースに立たせると、この嗅覚を使って来場者を選別する。名刺の裏に「A」と書いて次の週から追いかけるのだ。この「A」は全体の獲得数のだいたい1%だ。3,000枚の名刺やアンケートを収集しても30枚程度でしかない。
もしこれだけを成果としてしまえば、名刺1枚の獲得単価を10,000円と計算すれば、活用される30枚を除いた2,970万円分の名刺はお礼メールを配信しただけで「放置される」ことになる。
しかし、BtoBの場合はその展示会に来場した時点ですでにスクリーニングされていると言える。その上、業種業態が近い企業が集まっているゾーンに来て、自社ブースに立ち寄ったとなれば、それは何重にも絞り込まれた貴重な見込み客リストなのだ。その99%を放置してしまっては多くのビジネスチャンスを失うことになる。
だから展示会で収集したリストの選別を営業の嗅覚だけに頼るのは危険なのだ。展示会に来場した時に「金の匂い」がしなかった見込み客が6カ月後、1年後に大型案件化することはよくあることだ。展示会を見込み客の「種まき」として位置づけ、たくさんの種をまかなければならないし、出た芽を枯らさないようにしなければならない。
展示会で集めたアンケートを信用する営業はどれくらいいるだろうか?
「○○○を導入のご予定はありますか Yes No」
「Yesの場合は以下にお答えください 1年以内 半年以内 3カ月以内」
このようなアンケートに本音を書く人はまずいない。書けば次の日から営業から電話がかかってくる、あの手この手の営業攻勢を受けることが分かっているからだ。営業も、誰も本音を書かないことを良く知っている。つまりアンケートを書く方も、それを活用する方も「アンケートを信用していない」ということになる。
それでも展示会担当者は一生懸命アンケートを集める。理由は営業に少しでも質の高い見込み客リストを渡すためだ。展示会担当者の多くは、アンケート以外に来場者を選別し、絞り込む方法はないと考えている。これは間違いだ。
集めた後で、業種や売上規模、社員数などの企業のプロファイルデータを付け加えて検索条件にすることもできれば、展示会の後のフォローキャンペーンでの反応を解析する手法で絞り込むこともできる。
また、記入項目の多い長いアンケートは敬遠させるから引き換えにノベルティを用意しなければならないので結果的にコストも跳ね上がる。「営業に信用されないアンケート」をコストとリソースを掛けて収集するくらいなら、アンケート項目を必要最低限にして、数多く集めた方が理に適っているだろう。
展示会出展は重労働だ。特に夏の展示会ともなれば会場は蒸し暑いし、3日、長い場合は4日間、会場のブースで立ち続けなければならない。マーケティング担当者の多くは、普段はデスクワークをしているからこの立ち仕事は体にこたえる。
多くの場合、ブースデザインのチェック、リハーサル、ノベルティの準備、ブース内セミナーの講師手配、社員のローテーションや各段取り、パワーポイントの制作やチェックなどで、初日がスタートする頃にはすでに疲労の頂点だ。後は気力で展示会を乗り切るしかない。だから金曜の最終日の打ち上げのビールは最高に美味いし、もうしばらくは展示会のことは考えたくないという気持ちになっても不思議はない。
でも、翌週には営業が見込み客リストを待っている。営業にとって展示会最終日は、ゴールではなくスタートなのだ。
だから展示会のフォロープランは、事前に綿密に設計し準備しなければならない。名刺を収集するならデジタル化しなければお礼メールも配信できない。デジタル化したリストから競合や営業エリア外の企業を排除しなければならない。もし営業が望むなら規模や業種によって選別しなければならない。
企業のデータへは帝国データバンク、東京商工リサーチなどから販売されている、社員数や売上、業種などのデータを購入して、名刺の企業に付与することができる。こうしておけば業種、規模、売上、利益などで絞り込むことができる。
私がクライアントにお薦めしているのは展示会の後により専門性の高いセミナーを用意し、そこに招待することで旬な見込み客を選別していく方法だ。
このシリーズの第2回でも書いたが、セミナーは見込み客にとっては情報の確認の場として貴重な機会だし、主催する企業から見れば、有望な見込み客を絞り込み、案件を創出するために重要なプロセスなのだ。
せっかく展示会出展が成功し、達成感と美味しいビールで気持ちの良い週末を迎えても、フォロープランができていなければ安心してはいけない。営業案件に結び付かない展示会だと営業や企業経営層に認識されてしまえば、次年度の出展予算を確保できなくなってしまうのだ。