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2004.12.27

カーディーラーがSFAを活用できない本質的な理由は?

出典:月刊「アイ・エム・プレス(I.M.press)」 / 庭山一郎

2年前から「ITを活用した科学的な営業」スタイルへの変革を目的とし、SFAを導入したカーディーラーC社。しかし、2億円以上を投資も、たった数カ月でただの住所録に成り果てしまった。その理由とは?

データベース・マーケティングの導入に当たっての重要なポイントは、「そのデータが誰のどんな目的のために蓄積されたか」にある。

前回は「カーディーラーが顧客情報を活用できない本質的な理由は?」と題してB社の事例を紹介したが、今回はC社の事例から、SFA(Sales Force Automation)を間違った使い方で導入するとどうなるのかを考えてみよう。

SFAは長良川の鵜飼いの紐?

SFAは、顧客や見込客を管理するためのツールではない。その目的は営業スタッフの行動を見込み案件と紐付けて管理することにある。これにより営業数値を管理している人(多くは営業部長や本部長)は、セールス活動のプロセス・マネジメントのクロージング・フェーズ――営業が訪問し、提案書や見積書を提出して、契約へと詰めていくフェーズ―において、案件と担当営業の行動を紐付けて管理し、受注金額や納品金額、日程などの管理をパイプラインで行うことができる。

営業支援機能としては、基幹システム(またはERP)と連動した在庫照会や受発注の機能などがあり、与信管理機能、粗利益や営業利益の管理機能などを持つものもある。これらの機能を使って来月の納品、3カ月後の入金予測などを管理し、資金繰りを行っていく。

従って、入力項目は増えることはあっても減ることはなく、入力すればするほど営業は自分の首を絞められるような気分に陥る。それゆえ、SFAは「長良川の鵜飼の紐」に例えられることがある。
これをしっかり踏まえて導入しなかったために、今C社の営業の現場では大混乱が起きている。

平均的なカーディーラーであるC社の年間売上高は約200億円。営業エリア内の20カ所の営業所に、計200人ほどの営業が勤務している。ひとりの営業が担当する既納先が300〜400台、平均的な販売台数が1カ月当たり5〜6台/人、年間で60〜85台/人である。
このほかに法人営業部隊を持っているが、C社の仕入れ先メーカーは法人向けはあまり強くないため、これは小規模な部隊にとどまっている。

ちなみに、現在の車の平均買い替え期間は約7年なので、担当する既納先だけを回っていても売上目標には届かない計算になる。例えば、既納先400軒を担当する営業の年間売上目標を75台として考えてみよう。担当既納先の半数は購入から3年未満、つまり初回車検前であり、まず買い換える可能性はない。従って購入から5年以上の家庭を訪問することにしているが、共働きも多く、訪問してもなかなか会うことができない。このため1日の訪問件数は実質的には2〜3軒にしかならない。

とは言え、営業所で来店客を待つのも、効率が悪いことに違いはない。モデルチェンジなどをフックに折込チラシや新聞広告を入れ、営業所に紅白の幕を張って新車発表会を行ったところで、来場者の数は年々減少しているのだ。

訪問しても会えない、待っていても来ない・・・。八方塞りの中で、月々の目標を達成できない営業の数が増えている。しかも、売れ筋が2000cc以上のセダンタイプからミニバンや小型のワゴンタイプに変わってきたため、台数は出ても1台当たりの単価が下がっており、3台売ってやっと昔の2台分の利益が確保できるという状況なのだ。

それでいて、車検前の買い替えの可能性が低い顧客はまったくケアされていない。訪問しても会える機会が少ないので、毎月の数字に追われている営業は、購入してくれる可能性の低い顧客への訪問をどうしても後回しにする。その結果として、初回車検の利用率は、30〜45%と低迷を続けていた。顧客との関係が完全に途切れてしまっているのだ。

「ITを活用した科学的な営業」への挑戦

そこでC社では、担当者が顧客を訪問しないことによる機会損失の防止、顧客との関係強化と営業効率の向上を目的に、2年前からSFA導入プロジェクトをスタートした。これによって営業のスタイルも、勘・経験・根性・汗による個人スキルに依存したこれまでの営業から、「ITを活用した科学的な営業」へと変貌を遂げるはずだった。

しかし、導入して半年ほど経った頃から、導入プロジェクトを主導した情報システム部門と営業本部で深刻な対立が起こった。営業本部の言い分はこうだ。

「情報のフィードバックのために、なんで1日にひとり2時間も3時間もパソコンに向かわなくてはならないのか! ひとりにつき年間約500時間、ウチには200人の営業がいるので年間で約10万時間をこの作業だけに費やすことになり、その分だけ訪問や見積もりの時間を取られる計算になるではないか。これでは訪問を増やすという当初の目的とは逆行している。もし今後もフィードバックを義務付けるなら、売上予算に責任は持てないぞ!」

業績が厳しい中、C社としてもフィードバックを売り上げの獲得より優先することはできない。仕方なく、フィードバックのルールを甘くすることになった。

その結果、SFAは営業所によってはまったく使われなくなるか、せいぜい住所録として細々と生きながらえている状態になった。全営業に配布したノートパソコンまで入れると2億円以上を投資した最先端のソリューションが、たった数カ月でただの住所録に成り果てたのだ。

C社におけるSFA導入の失敗は、いくつかの原因が折り重なって引き起こされたものだ。

診断書(SFAの機能不全)
1.コンピュータ・リテラシーを考慮せず、また、そのスキルアップの施策を打たなかった

この会社の営業部門はコンピュータとは無縁で、ワープロさえ使ったことのない社員が多く在籍していた。営業部門のコンピュータは基本的に1部門に1台で、ひとつのeメールアドレスを部門で共有していた。
また企業カルチャー的に、営業時間内にコンピュータ画面を見ていることはご法度で、インターネットにアクセスすること自体が「遊んでいる」と思われる雰囲気があった。
さらに社内のコミュニケーションにeメールやWebはまったく使われておらず、報告や連絡、相談は、面談か電話、あるいはFAX だった。この結果、上司はSFAを使って営業の行動に的確な指示やアドバイスをすることができないし、営業が客先での値引要求やクレームをeメールで問い合わせても、上司からの指示は2日後だったりする。これでは情報をフィードバックする意欲は減退するばかりだ。
こうした企業に、非同期のオンライン・コミュニケーションの要素が多く入ったSFAを導入する場合は、相当周到な準備をしなければならなかったのだ。

2.SFAが「何をするためのものか」を明確にせずに導入してしまった

新しく導入するソリューションが「誰の」「どんな問題を」「どのように解決するのか」が明確にされないまま、誰も実態を知らない、経験もないSFAが「顧客管理ツール」として営業部門に紹介され、導入されてしまったことが、失敗の最初の原因である。

SFAはあくまで、営業本部長や営業部長が、個々の営業や各営業所の営業チームの販売成績と、フォローしている案件を管理するためのツールである。導入する時にそのコンセンサスをしっかり取っておかなかったため、営業部門が、「SFAは自分たちを楽にしてくれるものではなく、手間がかかるばかりか、厳しく管理されるものだ」と、だまし討ちにでもあったかのような反感を持ってしまった。
その結果、誰もその日の営業活動をフィードバックしない、という事態が起こった。

導入を主導した情報システム部門でさえ、SFAは顧客情報を管理するシステムだと思い込んでいたし、ベンダーもそう説明していた。だが実際には、営業の行動を管理することに主眼が置かれていることに、導入後、初めて皆が気付いたのだった。

治療法
1.コンピュータ・リテラシーの向上

コンピュータ・リテラシー」を向上するには、会社のカルチャーに地道にオンライン・コミュニケーションを根付かせていくしかない。eメールでの連絡、メーリングリストの活用、社内ポータルサイトを作っての掲示板の活用、もし紙媒体の社内報があればさっそくオンラインに移行するなどの策をお勧めする。
慣れるには多少時間がかかるが、平均年齢が何歳であれ、慣れないということはない。「習うより慣れろ」のことわざは真実である。

2.目的を明確に限定する

誰を支援したいのか、「誰の」「どんな問題を」「どのように解決するのか」という目的を明確に限定し、その目的のためにのみSFAを使用するよう、改善していくことが重要である。もともとどんなソリューションでも、誰のどんな困りごとを解決するのか、コンセプトが明確でないと成功しない。

C社の場合、「営業スタッフの中間層である150人の販売台数を年間でひとり6台増やす」という明確な目標を設定し、それを共有すべきだったのだ。しかし、なぜ150人なのか?

なぜ中間層の150人なのか?

これはどの会社にも共通することだが、200人の営業スタッフのうち上位10%の20人は、パンフレットも試乗車も必要ないくらい、どんな条件でもコンスタントに年間100台以上を販売する力を持っている。従って、彼らにはSFAの助けは必要ない。管理する必要も、後方から支援してもらう必要もないのだ。彼らに必要なことは、ただひたすら「邪魔をしないこと」である。

ただし社内の多くの営業は彼らを見ている。営業は力の世界で、売れる人がオピニオン・リーダーになる。彼らが「SFAなんて必要ない」と断言すれば、ほかのメンバーもそう思い込み、SFAの運用には誰も協力しなくなる。だから、トップセールスチームには、「あなたたちにこのSFAが必要ないことは良く分かっているが、残りの75%には必要な人が多いから、会社としてこれを導入することにした。あなたたちには手間を増やしてすまないが、協力してほしい。そしてこれは必要ないとは決して言わないでほしい」と言い聞かせなければならない。

また最下位の15%の30人には、どんなソリューションも意味がない。彼らは目標の年間60台どころか40台も売れない人たちであり、彼らには管理の手間を多くかけるべきではない。営業部門長にはこれは良く分かっているのだが、彼らもSFAについてはしっかり文句を言う。「こんなにデスクワークに時間を取られては顧客の訪問もできない」と言い出すのは彼らなのだ。しかし営業部門全体としての視点で考えると、彼らから挙がるクレームは無視しても問題ない。

SFAの導入ターゲットは、この上位10%と最下位15%の中間にいる残りの75%なのだ。
この150人が平均で年間6台、つまり2カ月に1台だけ販売台数を伸ばせれば、全社では年間900台の販売増になる。平均単価を180万円とすれば、実に16億円以上の売り上げアップになる。これがSFA導入の初期ターゲット数値なのだ。

SFAは「75%(150人)の営業スタッフの販売台数をひとりにつき年に6台増やす」という目標を達成するために営業本部長が使うツール。このように位置付けを再度明確にし、運用体制を組み直すことでSFAを本来の目的に活用し、販売を伸ばすことができるだろう。