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ホーム > コラム > 庭山流「売れる仕組み相談室」 > ブランディング効果によるBtoB収益アップが図れず苦しむ大手企業マーケティング部のBさん【相談編】
2006.06.27
広報部で企業ブランドの醸成に取り組み、それを成功させてきた大手オフィス家具メーカーJ社のBさん。しかし、念願のマーケティング部へ転属になってみると、築き上げてきた企業ブランドがマーケティングや営業の現場ではまったく売り上げに結びついていなかった・・・
大手オフィス家具メーカーJ社
マーケティング部 Bさん
大手オフィス家具メーカーJ社 マーケティング部のBさんはこの春、念願のマーケティング部に転属された。それまで所属していた広報部においては、企業ブランド醸成というミッションのもと、広告やPRを積極的に展開、企業ブランドの認知度はかなり高い。
しかし、その企業ブランドがマーケティングや営業の現場では、売り上げに結びついていないという事実に直面した。転属前には、マーケティング部を広報部と営業部をつなぐブリッジのような役割と思い描いていたが、現実はかなり違うものだった。
そこで、Bさんは、これまで広報部で培ってきた企業ブランドを、現在注力中の企業向けソフトウエアの販売(B to B)の武器にできないだろうかと考えた。しかし、Bさんにはそのための有効な方法がまったくわからなかった。
大手企業(オフィス家具などのメーカーJ社)の広報部で10年近く仕事をしてきたBさんは、この春の人事異動でマーケティング部に転属された。これはBさんのかねてからの希望でもあり、今までの広告やPRによる企業ブランド醸成というミッションから、より販売の現場に近いところで能力を発揮したいと考えたのだ。
しかし、Bさんは転属早々に大きな壁にぶつかった。マーケティングや営業の現場では企業ブランドが売り上げに結び付かないのだ。転属前にBさんはマーケティング部のミッションを広報部と営業部をつなぐブリッジのような役割だとイメージしていたが、現実は双方がかけ離れていて橋が架かりそうにないのだ。自身が10年間やってきたことや広報部の努力を無駄にしたくはない。しかしその具体的な方法がBさんにはまったくわからないのだ。
オフィス家具などのメーカーJ社は、年商600億円、東証2部に上場している業界大手である。社歴も古く、毎年マスメディアを使った企業広告を多く出しているので、社名の認知度は高い。10年前に「CI」を導入し、社名もロゴもマークも洗練され、企業イメージも古い事務機屋さんから一気にインテリジェンスを感じさせるものに変革していた。そのCI導入を担当した広報部も、自分たちがやってきたブランディングに自信を深めていた。ビジネスに携わっている人なら誰でもその会社の社名やロゴには見覚えがあるはずで、アンケートなどでも、「センス」「洗練」「高級」などのイメージを持たれている。学生の就職ランキングでも高いポジションで、屋外広告も活発に展開しているので消費者レベルの知名度も高かった。
10年間のCI導入活動に自信と誇りを持って広報部からマーケティング部に転属になったBさんは、思いがけない事実に直面する。これまで広報部で行ってきた主にマスメディアを使ってのブランディング活動が、マーケティングや営業から意外に評価されていないことに気が付いたのだった。確かに知名度は高いが、その高い知名度が売り上げに結び付いていない、というのがその理由らしい。
人事部などに話を聞いてみると、新卒社員の求人や中途社員の募集などの面では知名度は重要なので、会社のブランディングに対する投資は高く評価されていた。しかし、会社の主力部隊である営業部門はシビアだった。現在の売り上げや引き合いの多くはマスメディアなどを使った広告活動ではなく、営業が足で稼いだものであり、エリアごとの展示会やセミナー、販売代理店からの情報や引き合いから獲得した売り上げだった。
年間で15億円を超える広告費が売り上げに結び付かなければ、広告費用を削減して、代理店へのインセンティブや販促費用に予算を回して欲しいという意見が多く、Bさんもいざ自分が「営業が追いかける案件」を創出することをミッションとしたマーケティング部に転属してみると、案件に結び付かない広告予算はやっぱり無駄があるように思えてきた。
それに、社名の認知度が高いという割りにはセミナーを開催しても集客に苦労し、Webを開設してもアクセスは少なく、PRなどでアクセスが上がっても資料請求などの期待するアクションはほとんどなかった。最も痛手なのは、オフィス家具の大手としてのイメージを確立したために、今後急速に売り上げを拡大し、主力分野にしようと考えている企業向けソフトウエアの販売に支障が出ていることだ。「事務機屋さんがなんでシステムを売っているの」「J社さんてシステムもやってたんだ・・・、知らなかったよ」そんな声が営業からフィードバックされるたびにBさんは無力感を強くしていった。しかも、低価格のパッケージソフトなら販売代理店を通じて多少は売れていたが、肝心のERPやCRMなど、カスタマイズで大きな売り上げが期待できる大型案件は苦戦し、セミナーを開催するのもひと苦労といった状況だ。
メディア購入を担当している広告代理店が定期的に調査している企業認知度ランキングでは、J社は常に業界上位5社に入っている。そのため資料請求や問い合わせがなくても広告出稿は続けないと駄目ですよ、という広告代理店らしい論法に対して、実際にマスメディアへの広告出稿量を減らした場合、この認知度がただちに降下するのかどうかは誰にも予測がつかなかった。
しかし営業部やマーケティング部の内部ではすでに広告費削減論が現実的に語られていた。J社のマーケティング部で販促のために不定期に発送しているダイレクトメールを長く担当していたベテラン社員は、法人営業(Bto
B)の世界ではマーケティングと広告活動の関係性は低いと考えていた。J社のターゲットとしている社員数の多い企業の総務や経営企画部門の人はすでにJ社の社名を認知しており、これ以上認知度を上げてもダイレクトメールの開封率や返信率はあがらないと
考えていたのだ。
企業ブランドは広報やPR部門の仕事であり、実際に営業を支援するマーケティングと企業ブランディングは別物と考える人もいる。確かに雑誌などに広告を出してもストレートに注文が来るわけではないし、同じ費用ならダイレクトメールやキャンペーンに使ったほうが受注は稼げるかもしれない。しかし本当にB to Bではブランディングと受注は別物なのか・・・、企業ブランドを作り上げることに莫大な投資をしてきたことは無駄な努力だったのだろうか・・・。
こうした問題は、多くの日本企業が抱える問題でもある。長年の広告やPRへの投資の結果築き上げた企業ブランドを売り上げに活かせない、あるいは広告が売り上げに貢献しているのか、いないのかを判定できず、予算縮小すらできずに困っている企業が大半である。そもそも企業認知度はなかなか正確に測定できず、アンケート調査などもバイアスが掛かっていることを前提に読まざるを得えないのだ。
受注(売り上げ)に強い影響を与える要素は、実際にはそれほど多くない。その数少ない要素の中で「ブランド」の重要度は高い。だからBさんの広報時代の努力は無駄ではないし、転属前に想い描いていたような広報部と営業をつなぐブリッジは、Bさんが考えているような巨大なものではなかったとしても、十分に存在しうる。B to Bにおいても企業ブランドは強力な武器になる。問題はその認知度の高さをどこに使うかなのだ。そしてソリューションブランドや製品ブランドといった足りないサブブランドをダイレクトコミュニケーションでどう補うか、が重要である。J社にはこれが足りなかったのだ。次回でさらに詳しく解説しよう。