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ホーム > コラム > 庭山流「売れる仕組み相談室」 > WebサイトをリニューアルしたD社Kさんの現場で起きた混乱【相談編】
2006.06.27
医療機器を製造販売しているD社。3年前から営業企画部でWebを担当するKさんは、求人とIRを目的に1度目のリニューアルを実施。デザイン性もよく高い評価を得たWebだったが時間とともにその評価にも変化が見え始めた・・・
医療機器の製造販売をしている D社
営業企画部・Webサイト担当 Kさん
Webサイトは、展示会やセミナーなどのリアルイベントを含む企業とマーケットを結ぶメディアの中で、最も多くの可能性を持っている。しかし、ほかのメディアに比べて使用経験が乏しいこのメディアのマーケティング面での特性や活用法を理解している企業は、いまだ少ない。
今回の相談は、この未知の分野であるWebサイトのリニューアルで、どうしたら成功できるか悩んでしまったD社のKさんの例を見てみよう。
D社は医療機器を製造販売している会社で、業界ではベスト5に入る大手だった。販売は80%が代理店経由で、20%は直販である。また、これとは別に、購入後のメンテナンス契約のユーザーが多く、これも大きな収入源になっていた。Kさんはこの会社の営業企画部で、3年前からWebサイトを担当していた。営業企画に配属される前は、営業本部で直販営業のアシスタントを2年経験している。
そのD社がWebサイトをリニューアルすることになった。全面リニューアルとしては2回目である。最初のWebは5年前に同業他社も次々とWebサイトを立ち上げるで、「とりあえずわが社もWebサイトがないのはおかしい」という理由で作ったものだった。特に目的もなく、期待もされていなかった。
それから2年後に、現在のWebサイトにリニューアルしている。1回目のリニューアルには、求人とIR(投資家への情報開示)という大きな目的があった。また、「製品&サービス」というカテゴリーも充実し、ページ数も増え、リニューアル前の10倍以上のボリュームになっていた。世の中の大半の企業がWebサイトを持ったことで、D社内にもデザインや閲覧のしやすさを求める声が増えてきた。そこでデザインでは評価の高い制作会社に依頼した。デザイン的には満足のいくものができて、プロジェクトは成功と評価された。フラッシュを使った最新のデザインは前のデザインが不評だったこともあって社内の評価も高かったし、同業他社からも誉められることが多く、経営幹部も満足していた。
しかし、半年、1年と経つうちに違う評価が社内から聞こえてきた。「売り上げにほとんど貢献していない」「マーケティングに活かせていない」「費用対効果が検証できない」「そもそもアクセス数が少ない」「誰が見ているかわからない」「代理店のセミナー集客などにもっと利用できないのか」などなどである。Kさんは何とかしようと試みはしたが、そういう視点での設計になっていないので、効果を出すのは難しかった。
リニューアルから1年半後に全面リニューアルの話が浮上してきた。社内もインターネットやその使い方が少しずつ理解できるようになったし、Kさんも他社のWebサイトなどを見て、次のリニューアルではこうしたい、ああしたいという方向性を持っていた。社内での稟議も通り、予算も確保できた。ただD社の決算の関係で、3カ月以内に新しいWebサイトをオープンし、納品してもらわなければならなかった。納品日から逆算すると、すぐに業者を選定しなければ間に合わない。前回のリニューアルの時に、当時評判の高かったWeb制作会社に依頼して価格を含めて完全に制作会社主導でリニューアルした経験から、Kさんは次のリニューアルからはほかの印刷物やイベントと同じようにコンペ(競争入札)で業者を選定しようと考えていた。広告代理店や制作会社、デザイン会社などいくつかの業者に声を掛けてコンペを実施することにし、オリエンテーションの日程を決め各業者に通知した。
オリエンテーションの資料を作っていた時に、Kさんはふと考えた。今回のリニューアルの主目的は「マーケティング面を強化する」ことである。資料にはそう書こうと思ってはいたが、具体的なイメージが湧かないのだ。オリエンテーションで質問されたら答えられるだろうか? 「われわれにはわからないからプロのみなさんにお願いするのです」と開き直ることもできるとは思うが、オリエンテーションはそれでよくても、審査して決定するときはどうしようか・・・。確かに2年間自分の会社のWebサイトを運営してきたが、マーケティングに活用できるWebサイトを真剣に検討したことはなかった。いやもっと遡って考えてみれば、営業アシスタントを2年、営業企画でWebやイベントを担当して2年のキャリアを持つKさんだが、マーケティングを体系的に学んだことも、社内の誰かに教えてもらったこともなかった。
マーケティングに役立つWebサイトを作らなければならない。効果測定ができる、それも実際にこのWebサイトがどのように売り上げに結び付いたかを測定できる仕組みを備えていなければならない。そこは明確でも、いったいどうしたらそんなWebが作れるのか、Kさんには見当もつかなかった。
そこでKさんは私に、「このまま今回のWebサイトのリニューアルの業者選定をコンペで進めて失敗しないか」という相談をすることにした。
この相談に対する私のアドバイスは、「今回はコンペを中止すべき」ということだ。「選定する側が作ろうとしているものの本質を理解できていないから」というのが理由である。
残念ながら、われわれは知らないものは活かせない。例えば冬の外気温がマイナス30度以下にもなる極北の地で冷蔵庫がよく売れるという現象を説明しようと思えば、「冷蔵庫は食品を冷やす機械」という間違った理解を改めないと難しいだろう。正しい理解は「食品を5〜7度という適温に維持する機能を持った保管庫」である。こう理解すれば、少なくとも外気温がこの温度帯以外の地域では、プラスであれマイナスであれ冷蔵庫のニーズは存在するのだ。アラスカやフィンランドで冷蔵庫が売れていることも説明できる。もちろん、そうした地域で冷蔵をマーケティングするときのキャッチコピーなどの表現、あるいは「冷蔵庫」というカテゴリー名を変える必要もあるかもしれないが、そうすることで大きな市場を獲得することができるだろう。本質を「正しく深く理解する」ことは、マーケティングを成功させるために非常に重要な要素である。
D社も、Kさんも、「マーケティングの役に立つWebサイト」「売れる仕組みとしてのWebサイト」をいまだ本質的に理解できていない。だから、必要な要素をリストアップして揃えることができず、またコンペで提案されるさまざまな企画の中から正しいものを選ぶことも難しい。
では、いったいKさんは、今回のD 社のWebサイトのリニューアルをどうしたら成功させられるのか。予算を確保し、リニューアル・オープンの日程も稟議を通してしまった。決算もあるので、納期を延ばすという選択肢はない・・・。