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2019.04.08

部分最適ばかりが増えるナゾ

text:シンフォニーマーケティング代表取締役 庭山一郎

私はプロフェッショナルのマーケターの定義を「製品やサービスのマーケティングを全体最適で設計し、実施できる人」としています。MAの操作などの部分最適をいくら繰り返してもこの定義には届きません。MAベンダーからの評価ではなく、自社の営業部門や販売代理店から高い評価を獲得しなければダメなのです。

私はBtoBのマーケティングが売り上げに貢献できない最大の理由は「部分最適」であると、この20年ずっと主張してきました。展示会の担当者は、出展して3日間を乗り切ることが目的になっています。アンケート200枚、名刺2,000枚獲得などの目標数字を持ちますがそれはあくまで目安であり、出展が目的になってしまっているのです。だから展示会の最終日の打ち上げが終われば、もうすっかり次のイベントに頭が行ってしまうのです。マーケティングのプロセスから観ればそこがスタートなのにです。
Webマスターも同じです。ページビュー、セッション数、直帰率などの指標は持っていますが、Webを運営することが目的化してしまい、その先を見据えて活動している例は少ないのです。セミナーも同じで担当者は満席にすることが目的になり、集客が上手くいって2時間のセミナーが無事終了すれば大満足で、さっさと次のセミナーのタイトルなんかを考えています。広報も目標にしていたメディアに掲載されれば目的達成で、そこからどう売り上げに結びつけるかを考えている人は少ないのです。

私は、BtoCならばこれも有りかも知れないと考えています。
なぜならば、BtoCの販売プロセスはマーケティングからは見えないほど長く広大で、どの売り上げがどのマーケティング投資とどの程度の相関を持っているのかを類推するのは簡単ではないからです。プロモーションがうまくいけば店頭の陳列棚のフェイス面積を拡大できるというのは判っていても、その面積とプロモーションとの相関を割り出すのは簡単ではありません。昔、缶コーヒーのプロモーションの担当者から売り上げの推移とTVコマーシャルのクリエイティブの遷移を見せて貰い、良質なクリエイティブがいかに売り上げに貢献するかを示してもらったことがありますが、私は「ロードサイドの自販機の設置台数の方が余程相関があるのではないか」とコメントしてひんしゅくを買ったことがあります。

それに比べてBtoBはマーケティング施策から受注までを可視化できるので、全体最適で設計・実施すべきなのです。その展示会から、そのWebの資料請求やメルマガ登録から、そのセミナー参加者から、そのメディアに掲載された記事を基点として何件の商談を創り、その商談から何件がA案件(有望案件)になり、そこから何件の受注がでて、その平均案件単価がいくらかを把握しなくてはなりません。それが全体最適であり、実現するために各プロセスのプランがあります。それらをしなければ本来は「投資」のはずのマーケティングはいつまで経っても「コスト」のままで、いつ予算カットされても仕方がないのです。それだけでなく、担当しているマーケターもスキルアップはしません。展示会のブースの設営や運営がいくらうまくなっても、それは全体のマーケティングから観ればごく一部でしかありません。

私はプロフェッショナルのマーケターの定義を「製品やサービスのマーケティングを全体最適で設計し、実施できる人」としています。部分最適をいくら繰り返しても、この定義には届かないのです。

残念なことに、近頃は新たな「部分最適」が出来つつあります。それはMAツールとその運用を担うマーケティング部門です。MAを使って売り上げに貢献するマーケティングを実行しなくてはならないのに、操作性や機能面ばかりに着目しツールをいかに使い倒すかが目的になってしまっているのです。自社の営業ともしっかりコミュニケーションもとらず、販売現場にも行かないマーケティング担当者は非常に多いのです。これではマーケティングのプロフェッショナルとは言えません。プロフェッショナルマーケターにとってMAは包丁のような存在ですが、包丁が切れることと美味しい料理を作れることは別なのです。BtoBのマーケターは自社の営業から評価されるマーケティングに最大限のリソースを割くべきだと私は考えています。

「屍になったMA」とは活用されずにせいぜいメール配信ツールとして細々と生き延びているMAの事を指しますが、これを組織で観るなら「営業部門や受注に貢献することを忘れ、MAの運用が目的化した閉じた組織」のことだと私は考えています。これが最近増えてしまっているのです。
全体最適でマーケティングを設計して実施する事で、はじめてBtoBのマーケティングは企業の未来を創る投資になるのです。