マーケティングキャンパス 基礎から実践までBtoBマーケティングを学ぶサイト

ホーム > コラム > BtoBマーケティングの“これから”の話をしよう > 昭和~平成~令和でも変わらない「俺の客問題」

2020.09.08

昭和~平成~令和でも変わらない「俺の客問題」

text:シンフォニーマーケティング代表取締役 庭山一郎

「俺の客問題」は、実は根の深い経営課題です。その理由は、戦略と戦術の峻別が出来ていないという大きな欠点が透けて見えるからなのです。

日本経済新聞の「出世ナビ だからマーケティングは面白い」というコラムに、インタビュー記事が掲載されました。その記事にあった「俺の客問題」について反響をいただいたので、ここでお答えしたいと思います。

記事の一部を引用すると、
「日本企業の弱点ともいえるのが営業部門の影響力が強いことです。営業部門はデジタル化していない名刺を山のように持っています。なぜかというと営業の大事な顧客だからです。『俺の客』問題と私は呼んでいます。『勝手にメールを送るな』『名刺はコピーさせない』などと言われて、マーケティング担当者が困り果てることが多いようです。しかし、これは完全にガバナンスの問題です。本気でマーケティングを強化しようと思うなら、『全社のデータを統合管理する』と経営トップが号令をかける必要があります」
という部分です。

引用元:「出世ナビ だからマーケティングは面白い

弊社は1990年の創業当時からBtoB企業のマーケティングに取り組んできました。もちろん日本にBtoBマーケティングなど存在しない時代ですが、それでも売上げを増やしたい、新規市場を開拓したい、既存顧客へのクロスセルを強化したいという企業の課題は、今と大きくは違いません。そして私のバックボーンは、ダイレクトマーケティングと呼ばれるもので、顧客データを管理して顧客個人や世帯のライフタイムバリュー(LTV)を最大化するマーケティングでした。
課題解決の手法には選択肢がありますが、私は自分の得意技である社内の顧客データを統合して顧客・見込み客データベースを構築し、そこから商談を発掘する提案、つまり今で言う「デマンドジェネレーション」を提案していました。そしてこの提案が採用されるとかなりの確率でぶつかるのが、「展示会で収集したデータをマーケティングに使うのは良いが、営業の名刺をマーケティングの対象にするのはやめてくれ」という社内からのクレームです。
当時、未だ個人情報保護法は存在しませんから、名刺は「それを交換した個人のもの」という意識が強く、転職するときに名刺を持って行くのは普通でした。名刺は営業の大切な個人資産であり、営業活動の証だったのです。

ですからCRMを導入して顧客情報を統合管理しようとしても、「俺の客の名刺はデータ登録しないよ」「俺の客に勝手にメールなんか送られたら困る」「俺の客に、なんで俺を通さずに情報を送るんだ、俺を信頼していないのか?」というクレームが多く、これを弊社内では昔から「俺の客問題」と呼んでいました。

「あの会社のCRMには顧客情報が少ないね」
「俺の客問題ですよ」
「あぁ・・・」
という風に使われていました。

実はこの「俺の客問題」に困っているマーケティング担当者の数は驚く程多いのです。私は年に150〜200回程度、社内外のセミナーや勉強会で講演していますが、この問題で困っている参加者からの質問やアドバイスを求める声が本当に多いのです。

私はいつも同じ回答をしています。

「この課題は、マーケティング部門が悩む課題でも、解決出来る課題でもありません。これは明確に経営者の解決するべき課題です。もし経営者がマーケティングの重要性に気付き、マーケティングに本格的に取り組もうと組織を作り、そこに適正な人を配置し、ツールを購入する予算を付ければ、それは『戦略』です。アカウント営業の名刺は営業が管理するべきではないのか?というのは『戦術』です。本来同じテーブルで議論するべきではないテーマなのです」

戦略には自由度を与えてはならない、戦術には自由度を与えなくてはならない

これが鉄則なのですが、多くの日本企業ではこれが理解されていないので、トップマネジメントの立てた経営戦略を現場指揮官である営業部長や事業本部長が平気で踏みにじり、結果的にマーケティング部門が孤立しているケースをよく見かけます。アカウントセールスがとびきり優秀なのも、彼らが日頃からどれだけ上顧客に神経を使って対応しているかは理解していますが、その上顧客は「俺の客」ではなく「会社の顧客」なのです。

俺の客問題が有るか無いか、それがどの程度重症なのかにより、その会社のマーケティングのプライオリティや経営者のガバナンスが透けて見えるものなのです。